今冬は「医療現場が舞台のドラマが6作」という前例のない状況が起きた。プライム帯(19~23時)で放送されるドラマの4割弱を占めているのだから、「普段よりもいかに多いか」がわかるだろう。

 ただ、そこは人気のジャンル。王道のスーパー外科医モノ『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(日本テレビ系)から、定番の救命救急ながら主人公が僧侶でもある『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)、“腫瘍内科医”を主人公に据えた『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)、倒産危機の病院再生を描いた『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』(テレビ東京系)、新米看護師とドS医師のラブコメを軸にした『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)、阪神・淡路大震災と精神科医がテーマのヒューマン作『心の傷を癒すということ』(NHK)まで、ある程度かぶることを想定していたかのように、差別化するべく色分けが見られた。

 しかし、折り返し地点を過ぎた今、視聴率と評判の両方を得ている作品はごくわずか。ここでは6作それぞれの勝算と誤算を挙げながら、現在の医療系ドラマに求められているものを探っていく。

定番で新鮮味とインパクトに欠ける

『トップナイフ』は、実績十分の主演・天海祐希×脚本・林宏司の人気と実力を前提にした大型作品。ゆえに「スーパー外科医が活躍する」という医療モノの王道で勝負している。

「この布陣でこの内容なら、視聴率も評判も得られるだろう」と考えていたはずだ。

 しかし、主演・米倉涼子×脚本・中園ミホでスーパー外科医の活躍を描くなど同じ図式の「『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)に続け」と期待されていたほどの視聴率と評判を得られていない。キャストもスタッフもベテランの安定感がある半面、新鮮味やインパクトは6作の中でももっとも欠けているとみなされ、ほとんど話題になっていないのだ。

『病室で念仏を唱えないでください』は、医師の中でもっとも患者の命と向き合わなければいけない「救命医が僧侶でもある」という設定で生死をドラマチックに描こうとしている。また、「救命救急らしい臨場感と、患者が亡くなった虚無感のコントラストを見せよう」という演出意図も感じられた。

 ところが、テレビ視聴者用にわかりやすく脚色したのか、原作漫画の魅力となっていた僧侶らしい説法シーンがシンプルになり、「普通の救命救急ドラマ」というイメージに留まるなど、こちらも新鮮味やインパクトを与えられていない。

 そもそも『救命病棟24時』『コード・ブルー』(ともにフジテレビ系)などのヒット作がある「救命救急は鉄板」とも言われ、同い年の伊藤英明×中谷美紀×ムロツヨシを戦略起用したことも含め、話題にすらなっていないことにショックを受けているのではないか。

『トップナイフ』と『病室で念仏を唱えないでください』は「鉄板」と思われた定番の医療モノであり、だからこそ新鮮味とインパクトに欠けるという勝算と誤算の両面で一致している。

地味かつリアルすぎて「見てもらえない」

『アライブ がん専門医のカルテ』は、「年間100万人が新たに診断されるなど2人に1人がかかる」がんにフィーチャーした意欲作。「がんにかかるかもしれない」という不安を抱える人や、「家族や知人が、がんになった」という人は多く、ニーズの高さを見越した作品であることは間違いない。

 ただ「腫瘍内科医が主人公」という切り口は新鮮味こそあるが、「長い闘病生活を支える」という医療シーンのエンタメ性は低い。がん患者に寄り添う姿はハートフルである一方、外科医や救命医と比べると地味でドキュメンタリーのように見えてしまうのだ。

 また、がんに特化した作品である以上、おのずと視聴者層は高齢になり、ターゲット層は狭くなる。さらに、その高齢層ですら「つらすぎて見ていられない」という声も多く、リアリティを求めて丁寧につくっていることが裏目に出てしまった。

「リアリティを求めて丁寧につくった」「医療シーンが地味でエンタメ性が低い」という点は、『心の傷を癒すということ』も同様。阪神・淡路大震災から25年目の節目であり、視聴率にとらわれないNHKの土曜ドラマ枠だけに徹底してリアルな描写にこだわっていた。

「感動して涙が止まらなかった」などの称賛があったものの、視聴率は6.5%、5.0%、5.4%、4.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。わずか4話で終了したことも含め、「つらくて見ていられない」どころか、「重そうだから一度も見なかった」という声が目立った。

 両作ともに脚本・演出の質は上々だが、テーマそのものとリアリティを追求した制作スタンスが、見る人の数を大きく減らしてしまったのではないか。

『治しかた』『恋つづ』がウケた理由

『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』は、ビジネスシーンを描く『ドラマBiz』らしい病院のマネジメントに焦点を当てた物語。病気や治療のシーンは少なく、「視聴者にとって身近な地域の病院が抱える問題点にスポットを当てよう」「成功が約束された痛快な物語だから安心して見てもらおう」という狙いが見える。

 2018年5月に『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)で放送された実話ベースの作品であり、具体的な再生戦略が見られるためか、『ドラマBiz』の中ではもっとも高い視聴率を獲得。また、病院関係者に留まらず、患者やその家族の視点も加えることで、「他人事の気がしない」「近所の病院は大丈夫かな」という関心の対象になるなど、ここまで大きな誤算はなさそうだ。

『恋はつづくよどこまでも』は、病院を舞台にしているが、描いているのは新米看護師とドS医師の恋。

少女漫画原作ドラマらしいキャラクター設定や胸キュンシーンを盛り込んで、女性視聴者層の支持を集めようとしている。加えて、患者をめぐる一体感や悲喜こもごもは2人の心を近づける好材料となりやすく、ヒロインに感情移入しやすい設定であることも織り込み済みだろう。

 シリアスな医療現場が舞台の作品でありながら、底抜けに明るいラブストーリーを全面に押し出したギャップがウケたのか、ここまでは平均視聴率が2桁を超えるなど、同枠の水準を上回る結果が出ている。

 しかも、反響の声には「私は60代だけど楽しく見ています」など中高年層からのものも多く、往年のラブストーリー好きを引きつけていることも大きい。プライム帯の連ドラ初主演となる22歳の上白石萌音を抜擢したことも含め、こちらも大きな誤算はなさそうだ。

「リアルよりもファンタジー」の時代は続く

 6作がそろった結果、支持されているのはイレギュラーな『病院の治しかた』『恋はつづくよどこまでも』であったことに驚きはなかった。

 スーパー外科医や救命救急医という安全策でもなく、リアリティを追求して視聴者を重い気持ちにさせすぎることもない。どちらも、ありそうでなかった物語である上に、つくり手よりも視聴者の目線を重視した痛快さや明るさがあるからだ。

 では、イレギュラーではない通常の医療系ドラマに視聴者が求めているのはなんなのか?

 医療に関する情報はネット上にあふれ、テレビ番組の中にも病気をテーマにしたものが多いだけに、ドラマで優先されるべきはリアルなものではなく、「こんな医師がいたら診てもらいたい」「奇跡の生還が見たい」というファンタジー。

 視聴者は医師が患者を命の危機から救う物語を見たいのであって、よほど「この状況なら救えなくても仕方がない」と思わせるものでければ、患者が死んでしまうシーンは「つらくて見ていられない」ものとみなされてしまう。現代の視聴者にとって、医療系ドラマは「患者が助かってナンボ」のものなのだ。

 その観点から見ると、やはり『ドクターX』の天下は続きそうだし、その意味で『トップナイフ』の方向性は間違っていないだろう。今回は脳外科というピンポイントのテーマが多くの人々に刺さりにくかったとしたら、まだまだスーパー外科医が活躍するドラマは減りそうにない。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。