とにかく巨大である。狭い日本の道を走るには、そのサイズを持て余してしまう。
全長は5195mm、全幅は2065mm、全高は1910mmと、堂々とした体躯だ。四角い型にはめて成形したかのようにスクエアなフォルムは、宮殿を前に仰ぎ見たかのような威圧感がある。全長は想像通りだったが、幅がとにかく広い。運転席に着座してみると、助手席の人員が遠く見える。2人の間には太いコンソールがあり、そこにはクーラーボックスサイズの収納庫がある。そう思って確認したら、そこは確かに冷蔵庫だった。
高さも極め付きである。1910mmもあるから、見上げる感覚である。乗り込みも特殊だ。ドアを開けると足元にステップが自動で迫り出してくる。
視線の高さも想像のとおりだ。視点が驚くほど高いから、前走する乗用車のルーフを越えて、はるか前方まで見通せる。信号待ちで路線バスと並んだら、その運転手と同じ高さで目線が交錯してしまって照れくさかった。それほどの高さである。
だが、その大きさに閉口していたのも束の間、慣れれば取り回しもこなせるようになるから不思議だ。料金所や100円パーキングでは、物理的なサイズの問題があり、気を使う。だが、スクエアなボディは車両感覚を掴みやすい。しかも、前輪の切角が大きいから、思いのほか狭い道でも苦労はない。
乗り心地は粗い。
搭載するエンジンはもちろん、V型8気筒のOHVである。排気量は6.2リッターに達する。最大出力は426ps、最大トルクは623Nmにも及ぶ。その粘り強い推進力で2.7トンのボディをひっぱるのである。加速スタイルも強引で、まさに象が駆け足したかのようだ。
コラムシフトのレバーの先には、トーイング用モードが選択できるようになっており、クルーザーやモーターホームの牽引は得意である。その点では、都会を離れて緑深いキャンプサイトに出かけることも容易である。
このように、守備範囲の広さもエスカレードの特徴なのだが、最新のモデルらしく環境にも優しい。動弁機構は古典的なOHVでありながら筒内直噴であり、バルブタイミングは可変だ。気筒休止もやってのける。高速道路と市街地が約50%ずつのおよそ200kmの行程で、オンボードコンピューター上の燃費計は7.6km/lだった。
エスカレードに乗っていると、巷の小さないざこざが無意味に思えてくる。エスカレードのそのゆったりした乗り味は、ドライバーの気持ちをも大陸的にしてくれるのである。これはまさに、大きさを楽しむためのクルマなのだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)
●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。