コロナ禍で、同一空港を発着地とする遊覧フライトが活況を呈している。大幅な運休や減便で遊休化した航空機や乗務員を活用する運航が、海外等の行先を失った客層や自粛疲れの客層を捉え、折からのGo Toキャンペーンによる下支えもあって、「移動」ではなく「飛行・機内・空港」そのものを楽しむという新たな商品を生み出しているようだ。

 全日本空輸ANA)はホノルル線用のエアバスの超大型機A380を活かして、ハワイイメージを演出する遊覧飛行を毎月のように行っている。8月に実施された第1弾は、もともと機体の維持管理のために行う運航を商用に切り替えたものと思われるが、豪華なファーストクラスなど国際線機内とハワイの雰囲気を楽しめるとあって、抽選販売された約300席への申し込みは150倍に達し、9月に追加実施したフライトも100倍を超える人気であった。

 11月には飛行時間を1.5時間から3時間に延長してイベント内容を拡充し、運賃も高めに設定した。12月にはクリスマスフライトとして、地方空港からも羽田経由で顧客を集めている。この遊覧フライトは、例年実施している正月の初日の出フライトを含め、年明けも続く見込みである。

 日本航空JAL)はANAより1カ月遅れて星空フライトをスタートさせた。

国際線の機材を使い、話題性のある機内食を加えた3.5時間のフライトである。ビジネスとエコノミーの2クラス編成であるが、記念品を充実させるなど、演出にも凝っている。

 シンガポールイメージのフライトや港内バスツアーを付加するなど、時宜に応じて内容を変化させながら、やはり毎月のように運航しており、中部空港発着のトワイライトフライトも計画されている。正月には成田、羽田、中部の3空港で初日の出フライトを運航する。

 国内ローカル線を運航するフジドリームエアラインズ(FDA)はさらに積極的である。使用している機材(E170型)が約80席の小型機であるという利点を活かして、地方空港を結ぶチャーター運航にはもともと積極的であったが、今年は静岡、名古屋(小牧)、神戸各空港発着の遊覧フライトを高い頻度で実施し、年明けには出雲発着フライトも予定している。

 ANA傘下LCC(格安航空会社)のPeach Aviation(ピーチアビエーション)は11月に遊覧飛行事業への参入と定期便未就航地のチャーターへの進出を表明し、初めてとなる遊覧フライトを関西空港で実施した。顧客は関西航空少年団を中心とする126名、使用機材は新鋭のエアバス「A320neo」であった。

埋没コストもカバーできる収益を確保

 遊覧フライトの口火を切ったANAのA380による遊覧フライトは、苦肉の策ともいえるものであった。破綻したスカイマークの再建に参画する際に、ANAはエアバスの協力を得たが、その経緯で購入したのがこの巨大機である。機内は広く、シャワールームを配する航空会社もあるなど居住性は抜群である。他方、運航コストが高く、特別な搭乗橋を必要とするなど用途や乗入れ空港の制約もあって使い勝手は必ずしもいいとはいえない。

 ANAはこの機材をハワイ路線に投入した。ハワイはANAが唯一JALに後れをとっている市場であるが、これを覆す絶好のツールであった。その道を歩み始めた時に降りかかってきたのがコロナ禍である。導入済みの2機が地上待機となったのだ。

 特異性、話題性の高いこの機材は、ANAマイレージクラブの会員やANAファンのみならず幅広い注目を得ており、それを手軽に体験できる遊覧フライトの人気は続きそうだ。

 台所事情はJALも同じである。

コロナの影響で国際線の運航は現在ほぼ止まっており、国際線用の航空機は地上に多数駐機されたままである。しかし点検や整備作業は必要であり、定期的に試動もさせなければならない。固定的な出費だけが嵩み、それを飛ばせるパイロットも遊休化している、いわば赤字の垂れ流し状態といえる。

 機材や人件費などの固定的出費(埋没コスト)を与件として置けば、飛行機を飛ばすことで追加的に発生する費用は燃油費・空港使用料等(変動費)に限られる。その変動費を回収できる収入を得られるならば、飛ばす価値は十分ある。搭乗率にして3割程度を確保できればそれをクリアできるであろう。

 遊覧フライトをみると、ANA、JALともに販売単価はかなり高く、販売席数こそ制限して少ないものの、ほぼ全便が満席で運航されている。個々の便では変動費はもとより埋没コストもカバーできる収益をあげ、その分日銭も稼いでいるといえる。

「稼ぎの行動」

 国内ローカル線を事業領域とするFDAは、オリンピック年の需要増を見越して増機し、神戸空港にも乗入れたが、コロナ禍での運休・減便は大きい。機材は単一クラスの国内線仕様であるため機内で目新しさを演出するのも難しい。しかし約80席という小型機は、柔軟にチャーター便や臨時便を組むには適合性が高く、遊覧フライトもこれに含まれる。

 FDAのフライトは、富士山遊覧を中心に、操縦室や機体の見学と記念撮影、航空教室などを付加し、有名ホテルでの食事、神戸港クルーズや大井川鐡道SL乗車等と組み合わせるなど、機外を含めイベント内容が多彩なことが特徴である。

そのほとんどがGo Toトラベルの適用対象でもあり、クラブツーリズムなどコラボ相手も多い。9月以降1月までの実績や計画は約40便にのぼっている。

※注:Go Toトラベルの一時停止に伴い取りやめとなるフライトも発生している。

 遊覧フライトが稼ぐ収益という定量効果は、会社全体の中で規模としては大きなものではない。しかし定性的効果は大きい。休止していた生産ラインが稼働し、社員が技量を発揮する。座席を満たすために、飛行や機内自体、そして空港など付加部分にも価値を持たせて新たな市場を開拓する。旅行会社やホテルなどとのコラボも必要である。

 こうした「稼ぎの行動」がもたらすモチベーションの高揚は、澱んだ気持ちに活力を注ぎ、コロナ禍で傷んだ経営の再建へとつながっていくことになろう。

(文=赤井奉久/航空経営研究所所長)