5月6日に放送されたテレビ番組『歴史秘話ヒストリア 幻の巨大潜水艦 伊400 日本海軍 極秘プロジェクトの真実』(NHK総合)の元乗組員として、西日本に大型ショッピングセンター「ゆめタウン」を展開し、西日本最大の小売りチェーンを築き上げたイズミ創業者、山西義政氏が登場した。番組の最後で、山西氏が敗戦後に広島の闇市で干し柿を売ったことが紹介された。

「干し柿からイズミが誕生したんだ」。イズミには多くの反響が寄せられたという。

 伊400は世界初の潜水空母だった。全長122メートルを誇り、折りたたみ式の攻撃機が3機入る格納筒を搭載していた。この潜水艦をソ連に渡したくない米国は、手に入れて調査していた伊400を撃沈させた。そして70年後の2013年、ハワイ大学の調査チームが伊400の残骸をハワイ沖で発見した。
山西氏は伊400に22歳で乗り込みワクワクしたと、当時を振り返った。

●イズミの誕生と成長

 山西氏は1922年9月1日、広島県大竹市に生まれた。20歳で海軍に入隊し、22歳で当時世界一といわれた潜水艦、伊400に機関兵として乗艦。オーストラリア沖ウルシー環礁への出撃途上、西太平洋上で終戦を迎えた。

 戦後、原爆投下で焼け野原となった広島駅前の闇市で戸板一枚の露店を始め、伊400乗船時に仲間から勧められたのをヒントに干し柿を売った。ダイエーの創業者、中内功氏の原点が神戸の闇市だったように、スーパーの創業者はほとんどが闇市世代である。
広島駅前の闇市をルーツとする上場企業は、イズミのほか四国最大のチェーンストア、フジの母体となった十和(とおわ、現ヨンドシーホールディングス)がある。

 山西氏は1950年に衣料品卸問屋、山西商店を設立。61年にいづみを創業した。78年に広島証券取引所と大阪証券取引所に上場。東京証券取引所の2部上場を経て87年、東証1部に昇格した。90年からゆめタウンの展開を始め、95年に九州に出店したことで飛躍した。
大型ショッピングセンターの空白地だった九州で大成功を収め、業績を伸ばした。関西に出店するのではなく、強力な同業者がいない九州に出た判断が当たった。

 三重県四日市市で焼け跡から立ち上がった岡田卓也氏が、スーパーのジャスコ(現イオン)を「タヌキやキツネの出るところ、カエルの鳴くところ」に出店し、力を蓄えていったのと共通している。

 山西氏は現在もイズミの会長。社長の山西泰明氏は婿養子で、ヤオハン元社長である和田一夫氏の実弟だ。

●業績好調の理由

 総合スーパーが苦戦する中、イズミの業績は好調だ。
2015年2月期連結決算の売上高は前期比4.1%増の5797億円、営業利益は4.2%増の303億円。それぞれ5期連続、3期連続で過去最高を更新した。

 14年4月の消費増税後、衣料品や住居関連品は前年を下回ったが、主力の食料品部門が伸びた。大手スーパーのイオンがPB(プライベートブランド)商品「トップバリュ」を強化したのとは対照的にイズミは、PB比率を抑制し、地場産品を中心に据えた。なかでも高級和牛などの精肉や手づくり惣菜はイズミの人気コーナーで、シニア層に支持されている。

 16年2月期の売上高は前期比11.8%増の6482億円、営業利益は9.8%増の333億円と、それぞれ過去最高を更新するという強気の目標を掲げている。
稼ぎ頭であるゆめタウンを広島県廿日市市、佐賀市、福岡県筑後市に新規出店するほか、熊本県菊陽町、山口市、福岡県久留米市の既存店舗を増床する。

●中国・九州地区のスーパー業界再編

 イズミは全国的な知名度は低いが、九州・山口地区ではイオンと並ぶ一大勢力で、「イオンモール」とゆめタウンが競い合う。同地区のスーパー業界はイオンとイズミを軸に、地場スーパーの合従連衡が進む。

 イズミは14年7月、熊本市の広栄を完全子会社にしたほか、15年2月に北九州市を中心に展開するスーパー大栄を連結子会社にした。今後も中国・九州の地場スーパーのM&A(合併・買収)を進め、売上高1兆円を目指す。

 そんな同地区の業界再編に、セブン&アイ・ホールディングスが割って入ろうとしている。
セブン&アイは手薄な西日本地区を強化するため14年1月、岡山の天満屋ストアと資本提携し、岡山・広島進出の足がかりを得た。15年3月、大阪のスーパー、万代とも業務提携した。

 そして今年4月、セブン&アイ傘下の総合スーパー、イトーヨーカ堂が福岡市東区の九州大学箱崎キャンパス跡地に出店する計画があると報じられた。同じくセブン&アイ傘下のコンビニエンスストア、セブン-イレブンは九州に展開しているが、イトーヨーカ堂の出店は広島までで止まっている。

 この報道が現実のものとなれば、イトーヨーカ堂にとって九州初出店となるが、「イズミと提携して九州に進出するのではないか」(業界筋)とも取り沙汰されている。

 独立を堅持してきたイズミがセブン&アイと手を組むかどうかに、関心が集まる。
(文=編集部)