うますぎるハーゲンダッツ!材料はシンプルなのに、なぜ他社はマネできない?

●おいしすぎるハーゲンダッツ

 最近でこそ、さまざまな高級アイスクリームが市場に投入されていますが、ハーゲンダッツを初めて食べた時のおいしさに驚かれた方も多いのではないでしょうか。もう30年も昔のことですが、大阪出身の筆者が受験で上京した際、まず出かけて行ったところは東京・青山のハーゲンダッツショップでした。当時はコンビニエンスストアでの販売は行われておらず、大阪で食べる術はありませんでした。

 一般のアイスクリームと比較し、高価格であるにもかかわらず、順調な販売を維持しているハーゲンダッツのおいしさの秘密はどこにあるのでしょうか?

●こだわりの原材料

・良質なミルク

 どのアイスクリームメーカーも主たる原料である牛乳に対して、こだわるのは当然のことです。しかしながら、ハーゲンダッツは乳牛の健康管理はもちろんのこと、主食となる牧草の成分分析、さらには乳牛にとって理想的な牧草が育つために土壌のpH値までも厳しく管理された土地で育った乳牛のミルクを使用するという徹底ぶりです。

・世界中から厳選した素材

 さらに風味を決める副原料にも徹底的にこだわっています。例えば、イチゴは3年もの歳月をかけて探し出した、味わい、香り、色合いとも最もハーゲンダッツアイスクリームと相性のいい品種が選定されています。また、抹茶はハーゲンダッツ専用にブレンドされており、石臼で丁寧に挽いているため薫り高いものとなっています。

・“キッチン・フレンドリー”な素材

 ハーゲンダッツのアイスクリームはミルク、砂糖、卵が主原料となっており、これらにアイスクリームの風味を決めるフルーツやナッツ、チョコレートなどが副原料として加わっています。こうした家庭のキッチンにあるような食材を使うことをハーゲンダッツでは“キッチン・フレンドリー”と呼んでいます。合成添加物を使用せず、キッチン・フレンドリーな原材料を選んでアイスクリームをつくる理由は、素材のおいしさをそのまま伝えるためです。こうしたコンセプトは健康を気遣う現代人のニーズにもぴったりマッチしていることでしょう。

 筆者はこれまで、こだわりの原料などは他社が簡単に模倣できるため、差別化における有効な施策ではないと考えていました。しかし、こうしたハーゲンダッツの徹底ぶりを見ると、原料においても徹底すれば差別化要因になり得ると感心した次第です。

●喜びと感動がテーマの商品開発

 商品のコンセプトからはじまり、素材選び、配合の方法など、今まで体験したことのない感動を提供できる味わいに仕上げるため、ひとつの商品を発売するまでにつくられるサンプル数は膨大な量になっています。フルーツを使用する商品なら、世界中からそのフルーツのサンプルを取り寄せ、目ぼしい品が見つかれば海外であっても農場まで出向いています。また、使用する品種が決まってからも、果汁の割合、果肉の大きさなどを変えたサンプルを納得いくまで試作する取り組みも行われています。ちなみに、「グリーンティー」「クリスピーサンド」などの開発に要した時間は5年以上にも及んでいます。

 ハーゲンダッツでは新製品を出した後に、あまり売れないから販売中止にする、味を調整し直すといったことはしません。同社には「ゴールドスタンダード」という言葉があり、常に最高の味を目指しており、10人の消費者のうち6~7人が満足する程度では発売はせず、その基準は他社よりかなり高く設定されています。

●コンディション

・低く抑えた空気含有率

 アイスクリームのきめ細かく、クリーミーでなめらかな舌触りはアイスクリームの中に含まれている空気の量と大きな関係があります。アイスクリームは空気の量が多くなればなるほど密度は低くなり、なめらかな舌触りが失われてしまいます。ハーゲンダッツでは、この空気含有率を約20%と低く抑え、アイスクリームの密度を高めることで、中身の濃い、なめらかな舌触りのアイスクリームに仕上げています。

・おいしさのための低温管理

 アイスクリームの中には、アイスクリスタルという目に見えない氷の結晶が含まれています。温度が上昇すると結晶は大きくなってしまい、なめらかな食感が失われ、ざらざらとした食感になります。ハーゲンダッツのアイスクリームは乳化剤や安定剤を使用していないため、温度変化の影響を受けやすいのです。そのため、倉庫管理時は摂氏マイナス25度以下、輸送時はマイナス20度以下と定め、低温管理を徹底しています。また専用の顕微鏡でサンプルのアイスクリスタルの大きさをチェックするとともに、パッケージや梱包形態を工夫することにも取り組んでいます。

 上記のように、いかにハーゲンダッツが徹底した管理を行ったとしても、消費者への販売窓口となる小売店がいい加減な管理では元も子もありません。よって、ハーゲンダッツは定期的に店舗を回り、保存状態をチェックし、必要に応じて改善要求を行っています。このように一連のプロセスにおいて、徹底した取り組みが実現しているわけです。

●「ハーゲンダッツ・モーメント」――価値ある理念を貫く

 このように全社的に徹底した取り組みが実現している背景には、どのようなものがあるのでしょうか。筆者は「ハーゲンダッツ・モーメント」(至福の瞬間)に代表される理念に注目しています。

 ハーゲンダッツでは、「誰もがおいしいと感じることのできるアイスクリームは、本物の素材からしか生まれない」との認識が全社的レベルで浸透しており、栄養学的にも優れ、子供から大人まで安心して食することができる商品を提供するために、コストや生産性を考えれば合理的とはいえない部分があっても、徹底的にこだわっていくと宣言しています。こうした時間も手間もかかるアイスクリームづくりにより、ハーゲンダッツという商品にほかに代わるもののない絶対的な機能的価値を与えていると考えられます。

 このようなさまざまな取り組みは、ハーゲンダッツの核となる理念ともいえるハーゲンダッツ・モーメントを源泉としています。それは、食べた時にハーゲンダッツでしか味わえない至福の瞬間を届けることを意味しています。ハーゲンダッツ・モーメントを基礎として、商品企画から資材調達、生産、物流、販売、そして顧客の口で賞味されるまでビジネスプロセスが設計されています。とりわけアイスクリームにおいては、製品の特性上、常に安定した品質を顧客に届けるために、工場から出荷されたら終わりという管理ではなく、こうした顧客接点に至るまで、細心の注意を払う必要があるわけです。

 こうした価値ある理念の創造および具現化するための徹底した組織的取り組みは、アイスクリームという商品の枠を越え、多くの企業にとって参考になるのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

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