ユニクロといえば日本を代表するファストファッションブランドだが、近年は売り上げの低迷や店舗の客離れがたびたび話題となっている。ここで推察されるのは、値上げ政策の失敗というシンプルな理由だ。



 まず、2014年4月の消費税増税に伴い、ユニクロは内税から外税へと移行した。これだけでも従来より割高なイメージを与えてしまうのに、その後、秋冬の新商品を平均して5%値上げ。こうした傾向は、15年に入っても続くことになる。

 値上げの裏側には原材料費の高騰や円安などの問題があったと見られるも、ユーザーの理解を得られていたとはいいがたい。16年4月に発表された「2016年8月期上期 業績および通期見通し」によれば、国内ユニクロ事業の営業利益は前年同期比で28.3%減、客数も6.3%減と、かなり厳しい結果が報告されている。

 そこでユニクロは、16年の春頃から低価格路線へと回帰し、対策に打って出た。
それまで実施されていた週末限定セールは影を潜め、「平日も週末も、毎日お買い求めやすい価格」を掲げるようになったほか、筆者が足を運んでみた店舗でも、防寒下着の定番・ヒートテックが「昨年(15年)より300円お安くなりました」とPRされていたものである。

 しかし元をたどると、ユニクロの親会社であるファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、15年8月期の決算説明会質疑応答にて「我々は品質を下げないために、価格を上げざるを得ない」との言葉を残していたのだ。

 昨今になって商品の値段を見直してくれたことは喜ばしいが、柳井会長の言葉の揚げ足取りをするならば、以前、品質を下げないために価格を上げたのであれば、「価格を下げた=品質を下げた」と邪推することもできる。つまり、ユーザーの知らないところで値下げによる品質低下を招いているのではないだろうか。

 現にインターネット上では、「何回か洗濯しただけで型崩れしてしまった」というような、最近のユニクロ商品に対する不満の声も散見される。

●“値下げ=品質低下”でないばかりか品質向上も?

 そこで、実際に値下げによる品質低下という事実があるのかどうかを確かめるべく、まずはファーストリテイリングのコーポレート広報に話を聞いた。


「ユニクロの商品は、品質に関しまして最大の注意を払い、今期の商品に関しましても、15年同様、もしくはそれ以上の品質を継続しております。なお、商品の価格を抑えるためには、原材料費だけでなく、さまざまな要因が絡んでおりますので、全体的に見て『お客様がお買い求めやすい価格』に設定できるよう、日々企業として努力している次第です」

 ユニクロのお手頃な価格設定は、商品クオリティーの維持と両立させることが大前提になっているようだ。このコメントからは、値下げが品質の低下を招いているわけではないと受け取れるが、専門家はユニクロの現状をどう捉えているのか。

 繊維業界新聞の記者や、量販店のアパレル広報などを経験している南充浩氏はこう語る。

「私自身は、最近のユニクロ商品の品質が大きく劣化しているという印象は持っていません。むしろ値上げしていた頃のほうが素材の質が悪く、値下げ後の最近の商品のほうが、質が戻っているという印象さえあります。
例えばスウェットだと、かつては綿100%で販売されていたのに、値上げしていた時期は綿の割合を下げてポリエステルを混ぜていたという具合です。当時、店頭で商品を見ていて、原材料費の高騰がものすごく反映されていると感じていました。

 ポリエステルやナイロンといった合成繊維は石油が原料なので、あまり値動きが激しくありません。石油さえ手に入れば、いくらでも増産できます。反対に、綿や羊毛の原料は農作物や動物であるため、その年によって取れる・取れないのムラがありますし、増産もしにくい。ですから14~15年頃は、ユニクロに限らず多くのブランドで『綿の使用量が減っているな』『羊毛の代わりにポリエステルやアクリルの割合を増やしているな』と感じていました」

 では昨今、値下げをしたにもかかわらず質を再び向上させることができているのも、そういった事情からなのだろうか。


「商品の値下げがあった場合、そのために素材のクオリティーを落としている可能性がまったくないとはいいません。ですが現在のユニクロは、以前よりも良い素材を使っていると私は考えています。再び綿100%に戻ったスウェットもありますし、セーター類だと羊毛100%の商品も多いですから。

 モノによってはもちろん合成繊維を使っていますが、それはコストを下げるのが目的というより、『生地づくりにおいて必要だから混ぜる』というスタンスが主になっているように感じます。かつて高騰していた綿花の価格相場も今は元の状態に戻っており、そういった原材料費の変動を、ユニクロも当然見ているわけですね。それで『品質を落とさなくても商品を値下げできる状況がある程度整った』と判断し、値下げを実行したということでしょう」(南氏)

●「低価格で高品質」を実現する商品生産体制

 南氏は「ブランドとしての好き嫌いはあるにせよ、ユニクロ商品の素材と縫製はトップレベルだ」と語る。


「アイテムによって異なりますが、ユニクロ商品の原価率は30~40%の間で推移しているはずです。一方、百貨店やファッションビルに入っていて、値段がユニクロ商品の1.5~2倍するようなブランドのなかには、売れ行き不振のため原価率をどんどん下げているところもあります。原価率25%とか20%とか、ヘタしたら18%などともいわれていますね。

 百貨店やファッションビルのブランドはそれほど大量の枚数をつくるわけではないので、ひとつの商品につき1000枚~5000枚くらい。しかしユニクロの場合、ひとつの商品を最低でも10万枚~50万枚といった規模でつくるわけです。一般的に洋服というのは大量につくればつくるほど品質が安定し、縫製のクオリティーが高まります。
それは縫っている人の手が、次第に慣れてくるからです。

 なかにはユニクロと原価率が変わらないブランドもありますが、つくる枚数が100倍以上違うとなると、縫製の面ではユニクロ商品のほうが優秀だといえるでしょう。1枚あたりの工賃も安くなりますし、品質が良いものを低価格で販売できるのには、そのような背景があるのです」(同)

 やはりユニクロは、ほかのブランドには簡単に真似できない、大企業ならではの強みを存分に活かしているということか。

「『ユニクロのブランド自体や品質は否定しようがない』というのが多くの業界人の共通認識です。ただ、どうしても個人の好みというものがありますので、満点の評価を取れるアパレル企業なんて存在しないでしょう。それを差し引いて消費者視点から言及すると、ユニクロは『最新のトレンド商品が欲しい』という方には物足りないかもしれませんが、素材や縫製に一定の品質を求める方には、ベストマッチなブランドではないかと思います」(同)

 先ほど取り上げた柳井会長のコメントは、「ユニクロは品質で評価されているブランドですので、品質を落とすことは絶対にしたくなく、むしろ品質を上げる方向でやっていきたい」と続いていた。

 今後もなんらかの事態により、商品を値上げするか、価格を据え置いてクオリティーを落とすかの選択を強いられる局面がきてもおかしくない。これはアパレル業界全体の課題だろうが、その際ユニクロがどんな工夫や底力を発揮することになるのか、今後も注目していきたい。
(文=森井隆二郎/A4studio)