新幹線、大阪北部地震でも「無事故・無脱線」を遂げた、知られざるスゴい仕掛け

 新幹線にまつわる事件、トラブルが6月になって相次いで起きている。6月20日現在、4件が確認されており、発生順に紹介しよう。

 9日にはJR東海の東海道新幹線新横浜-小田原間を走行中の「のぞみ265号」の車内で男が突然刃物を振り回し、隣に座っていた女性客に切りつけた。男はさらに通路をはさんで座っていた女性客にも切りつけ、止めに入った男性客に馬乗りしてなおも切りつける。この結果、男性客1人が死亡し、女性客2人が負傷する惨事となった。

 14日にはJR西日本の山陽新幹線小倉-博多間で、博多駅を出発した東京行きの「のぞみ176号」が福岡県北九州市八幡西区を走行中、線路に立ち入った男性をはねてしまう。「のぞみ176号」は車両の先頭部を破損したまま走行し、最初に停車した小倉駅でも運転士や駅員は異変に気づかずにそのまま出発する。直後にすれ違った列車の運転士によって初めて異常事態が判明し、本来は通過駅である次の新下関駅に臨時停車して運転を打ち切った。なお、男性が線路に立ち入った動機は自殺のためであったという。

 17日にはJR東日本の東北新幹線仙台-古川間で走行中の東京発、新函館北斗・秋田行きの「はやぶさ21号・こまち21号」の車両の屋根上に搭載されたパンタグラフに鳥が衝突するトラブルが起きた。この結果、車両に走行用の電力を供給する架線、そして架線の電力を取り入れるためのパンタグラフとの間で過大な電流が生じたため、安全のために架線への送電はブレーカーの働きにより瞬時に中断される。停電を受けて「はやぶさ21号・こまち21号」は自動的に非常ブレーキが作動して停止したものの、再発進に手間取り、およそ5時間にわたって立ち往生した。

 18日の朝7時58分には大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1の地震が発生し、大阪市北区や高槻市、枚方市(ひらかたし)、茨木市(いばらきし)、箕面市(みのおし)で最大震度6弱を観測する大地震が発生する。大きな揺れに見舞われたものの、早期に地震の先行波を検知して警報するシステムの働きによって、周辺を走行中の列車はすべて無事に停止した。地震直後から東海道・山陽両新幹線とも一部の区間が不通となり、点検の結果、東海道新幹線は米原-新大阪間が同日の12時50分までに、山陽新幹線は新大阪-岡山間の上り線が同日の14時58分までにそれぞれ列車の運転を再開して両新幹線とも全線の復旧を果たす。

 いま挙げた4件の事件、トラブルとも、鉄道会社側に責任のある事象ではない。かといって発生を防ぐ手立てを何も採らなくてよいということもなく、特に大地震への対策は念入りに施されている。18日の大地震で東海道・山陽両新幹線の線路がどれほど揺れたのかは今のところはわからないものの、すべての列車が脱線することなく無事に停止できたのはさまざまな地震対策が功を奏したからだ。

●鉄道会社の苦労は絶えない

 具体的な地震対策を挙げておこう。地震のうち最初に観測されるP波を検知し、予測された震度が4相当以上の場合、自動的に架線の送電を止めるという東海道新幹線早期地震警報システム(東海道新幹線)、早期地震検知警報システム(山陽新幹線)が導入されている。新幹線の車両は架線が停電すると即座に非常ブレーキが作動するようになっており、17日のパンタグラフのトラブルでも列車が停止したのはこの機能によるものだ。

 新幹線に施された地震対策はまだある。激しい揺れのなかでブレーキを作動させているときに列車が脱線しないよう、東海道新幹線では線路に脱線防止ガードを設けて車輪がレールから外れない仕組みを整えた。また、仮に脱線したとしても逸脱防止ストッパの働きで車両が線路から大きく逸れてしまわないようにしており、こちらは東海道・山陽両新幹線に採用されている。

 14日に起きた人身事故では2つの問題点を指摘したい。線路内に男性の侵入を許してしまった点、人身事故を起こした列車がそのまま走り続け、車両が破損しているにもかかわらず運転を続けた点である。

 前者の問題点について、実はフル規格の新幹線は一般的な鉄道と比べれば線路内に人が立ち入りづらいつくりをもつ。線路の周囲には柵が張りめぐらされ、保守作業用の出入口には防犯カメラや防犯センサーなどが設置されているからだ。東海道新幹線では沿線に警備員を配置し、沿線での定期的なパトロールに加え、列車の運転士からの通報にも即座に対応して現場に急行する。

 ちなみに、新幹線の線路への立ち入りは、新幹線鉄道における列車運行の安全を妨げる行為の処罰に関する特例法、略して新幹線特例法によって禁止されている行為だ。違反した場合、1年以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられるが、自殺であるとか犯罪目的で侵入するような人に対して、そのような建前を振りかざしても意味はない。線路の周囲全体を防犯カメラや防犯センサーでカバーすべきであろうが、何しろ山陽新幹線の営業列車が走行する線路の長さだけで553.7kmもある。延べ280.5kmに達するトンネルを除いても273.2kmで、線路の警備は両側で必要となるから合わせて546.4kmをくまなく守ることは容易ではない。防犯センサーが異常を検知すると数十分単位で列車を止める必要はあるものの、誤作動も多く、定時運行を求める旅客とのはざまで鉄道会社の苦労は絶えないであろう。

 後者の問題点について、列車の運転士は、車両が男性と接触した際に衝撃を感じたことは認めているが、鳥や小動物であろうと考え、そのまま走り続けたという。これは運転士の言い逃れとはいえない。というのも、運転士が線路上にもしも人影を発見したのであれば、即座に非常ブレーキを作動させたはずであるからだ。

 いったん小倉駅に停車したにもかかわらず、車両の破損に気づかず、出発してしまった点にはいろいろと問題は多い。本来であれば、ホーム上の駅員が気づくべきであろうが、時速100kmほどで駅に進入する列車の先頭部分を瞬時に確認することは困難だ。

 運転士が車両から降りて確かめればよいという意見ももっともで、まずは駅員であるとか、地上の総合指令所に連絡を取って降車の許可を得た後に見ればよかった。しかし、手続きは面倒なうえ、列車は確実に遅れてしまう。義務付けられた作業でない限り、運転士としては車両から降りて確認などしたくないはずだ。

●最も深刻なものは9日の殺傷事件

 17日に起きた新幹線のパンタグラフに鳥がはさまるトラブルは、筆者の記憶ではそう多くはないと考える。ただし、鳥を含めて小動物が新幹線の車両と接触するトラブルは、件数は不明なものの結構多い。ご存じの方も多いように、航空機が鳥と衝突するバードストライクは頻発しており、国内だけでも年間1600件に達するという。空港の周辺では専門のパトロール担当者が銃器や煙火、スピーカーなどを用いて鳥を追い払っているそうだが、それでもいま挙げた件数が発生している。なお、新幹線では線路の保守担当者が鳥を見つけた際には音などで追い払うことはあるものの、専門的なパトロールは実施されていない。

 6月20日までの時点で同月に起きた新幹線の一連の事件、トラブルで最も深刻なものは9日に起きた殺傷事件だ。理由は2点あり、ひとつはいうまでもなく死者が生じたという点、もうひとつは、本稿執筆の時点でも同様の事件を防ぐことはできないという点である。ここでは2番目の理由について考察していこう。

 事件後、新幹線の列車の車内で実施される警備が強化されたそうだ。しかし、今回の事件のように旅客が携えたバッグなどから刃物を取り出して、隣の席の人を刺す行為を未然に防ぐことは大変難しい。最初の一撃で致命傷を負った場合は取り返しがつかないからだ。もちろん、車内の警備を強化することには意味があり、刺した人をすぐに取り押さえられるので被害を軽減させる効果は期待できる。

 以上が4件の事件やトラブルのあらまし、そして簡易な考察だ。これらのうち、早急に対策が必要なものは9日に起きた殺傷事件、それから14日に起きた人身事故だ。その試案を次回、説明したい。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

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