「タクシーに未来はない」と語るソフトバンク、タクシー業界向け配車サービス提供の両取り戦略

 ソフトバンクは「AI群戦略」の一環として、世界のライドシェア事業者への出資を進めている。だがライドシェアが規制されている日本では、タクシー会社向けに人工知能(AI)を活用した配車サービスを提供するという。

 ライドシェアは破壊的イノベーションを標榜し、既存のタクシー会社と対立してきた。ソフトバンクはその両方にアプローチしようとしているが、果たしてうまくいくのだろうか。

●ライドシェアの国内法規制を孫社長が批判

 通信事業者として知られるソフトバンクだが、投資会社としても大成功を収めている。最近では「AI群戦略」のもと、AIを活用する企業への出資を増やすことで、次の時代を先取りしようとしている。

 このAIを活用して急速に進化しているのが、UberやLyftなどで知られるライドシェア事業者だ。いわゆる「白タク」とは異なり、スマホの地図アプリや決済サービスと連携する。乗客がドライバーを評価する仕組みも相まって、便利で安全なサービスへと生まれ変わった。

 クルマと乗客の動きは常に位置情報で管理しており、AIで分析して需要を予測。利用者が増える金曜日の夜は料金が跳ね上がるなど、価格を動的に変えられるという。すると稼げるときだけ働こうという副業ドライバーが現れ、需給バランスが改善されるというわけだ。

 すでにソフトバンクは世界の主要なライドシェアに出資しているが、順風満帆というわけではない。米国のようにライドシェアが交通インフラとして広く普及した国もある一方で、既存のタクシー業界からの反発は大きく、ライドシェアを法律で規制した国も少なくない。

 日本においても法規制はあり、自家用車に有償で客を乗せる形態のライドシェアは国土交通大臣の許可が必要となる。日本のタクシー市場は1.5兆円規模で世界第2位と大きく、グローバルな事業者にとっては魅力的な市場だが、特区などの例外を除けば事実上参入できない状況が続いている。

 こうした状況を踏まえ、5月には新経済連盟が訪日客の増加や人手不足を背景とした「ライドシェア新法」の必要性を提言。7月にソフトバンクが開催した法人向けイベントでは、孫正義社長が「(国は)既存のタクシー会社を保護し、未来を否定している」と複数回にわたって批判する場面もあった。

●国内ではタクシー配車の競争が激化へ

 ソフトバンクはライドシェア推しかと思いきや、中国ライドシェア大手の滴滴出行(DiDi)との共同事業では、日本のタクシー会社向けに配車サービスを提供することを発表した。

 その背景には、DiDiの技術を使えば日本のタクシーをさらに効率化できるという目論見があるようだ。AIによる需要予測でタクシーの配車を最適化すれば、実車率は現状の42%から60%まで向上できるとする。

 都心でも「タクシー待ちの客の列」や、その逆である「客待ちのタクシーの列」は珍しくない光景だが、DiDiの技術があれば改善されそうだ。2018年秋に開始するトライアルでは、まずはタクシー会社向けにタブレット端末を無償で提供するという。

 こうしたソフトバンクの動きを見ていると、いったいライドシェアとタクシー会社のどちらの味方なのか、混乱してくる。だが、2つの話は時間軸が異なるともいえる。孫社長はライドシェアの日本上陸を目指して突き進みつつも、足元では国内のタクシー会社を効率化するという現実路線を打ち出してきたかたちだ。

 7月30日には、NTTドコモが「全国タクシー」の配車アプリで知られるJapanTaxiと資本業務提携を発表し、ソフトバンクとDiDiに対抗する形になった。ライドシェアの日本上陸をにらみながらも、まずはタクシー配車のシェア争いが激しくなりそうだ。
(文=山口健太/ITジャーナリスト)

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