JR東海の業績が順調だ。10月29日には、2019年3月期連結業績予想の上方修正も発表している。
同予想では、売上高を1兆8440億円から1兆8550億円(前期比1.8%増)に、営業利益を6630億円から6730億円(同1.7%増)に引き上げた。要因は、上半期(4-9月)の運輸収入が好調に推移したためだ。運輸収入は前年同期比149億円(2.2%)増の6932億円となった。営業収益9181億円のうち75%以上を運輸収入で稼ぎ出している。
その原動力となっているのが、東海道新幹線。
だが、その東海道新幹線の将来には“暗雲”が立ち込めている。それが、超電導磁気浮上式鉄道の中央新幹線(以下、リニア新幹線)だ。リニア新幹線は、東京―名古屋―大阪間の大動脈において、東海道新幹線のバイパスという位置付けにある。
もともとJR東海はリニア新幹線について、2027年に品川-名古屋間を開業し、その後8年間は経営体力の回復を待ち、名古屋-大阪間の工事には着手しない方針だった。なんといっても当時のリニア新幹線の総工費は約9兆円と見積もられており、JR東海はこれを自腹で賄う方針だったからだ。
ところが2016年8月、政府は「未来への投資を実現する経済対策」のなかで、リニア新幹線の大阪までの全線開業を最大で8年間前倒しする方針を打ち出した。
●事故の“二の舞”は回避できるのか?
リニア新幹線の異常さは、トンネルの多さにある。すでに工事実施計画の認可を受けた品川-名古屋間285.6kmのうち、トンネル部分は256.6kmもあり、約90%がトンネルとなる。その主なものは、以下のようになっている。
(1)第一首都圏トンネル―延長36.9km
(2)第一中京圏トンネル―延長34.2km
(3)南アルプストンネル―延長25km
(4)中央アルプストンネル―延長23.3km
(5)御坂笹子トンネル―延長14.6km
トンネル工事は難しい。多くのトンネル工事では、想定外の事態の発生により工期が遅れたり、人的被害をもたらす事故が発生したりする。JR東海は、「すでに工事に着手している南アルプストンネル(山梨工区)では斜坑、先進坑、本坑の掘削を進めるとともに、南アルプストンネル(長野工区)では斜坑の掘削を開始している」としている。
この南アルプストンネルは、トンネル上端から地表面までの距離(最大土被り)が1.4kmにも及ぶ。これは、難工事だった上越新幹線の大清水トンネルの最大土被りを上回るもので、同様の難工事が予想される。
JR東海は、品川駅につながる第一首都圏トンネル、名古屋駅につながる第一中京圏トンネルについて「すでに、工事契約を締結しており、地中連続壁の工事を行った」「大深度地下においてシールド工法でトンネルの掘削工事を行う」と発表している。
1990年1月22日、御徒町駅の北口付近の春日通りで大規模な道路陥没事故が発生する。この原因は、JR東日本が進めていた東北新幹線を東京駅に乗り入れるための上野駅-東京駅間をつなぐ上野第1トンネル(御徒町トンネル部分)工事だった。この工事こそ、まさしく第一首都圏トンネル、第一中京圏トンネルで行われる「大深度地下においてシールド工法」で行われた工事だった。
JR東海は今年3月20日、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」によるリニア新幹線の品川-名古屋の大深度地下使用について、国土交通省に認可申請した。認可が下りれば、第一首都圏トンネル、第一中京圏トンネルでの本格的なトンネル掘削工事がスタートする。御徒町トンネル陥没事故の“二の舞”は回避できるのか。
リニア新幹線は、計画通りに開業できるのか、総工費は予算内に収まるのか、そして不幸なトンネル事故は発生しないか。その実現は、トンネル工事が順調に進むかどうかに委ねられている。その上、開業しても3兆円という財政投融資の問題、東海道新幹線との乗客の奪い合いなど、問題は山積している。
業績好調なJR東海には大きな落とし穴が待っている可能性がある。「結局、リニア新幹線などつくらなければよかった」と“無用の長物”にならないことを祈るばかりだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)