日産、ゴーン逮捕で首相官邸と連携か…新会長人事で日産・ルノーが緊張関係突入

 フランスの経済紙レゼコー(11月20日付電子版)は、日産自動車の西川廣人社長について「ゴーン容疑者の信頼が厚かったにもかかわらず、記者会見で容疑者を『失墜させた』と指摘し、古代ローマの将軍、カエサルを裏切った『ブルータス』」と評した。同紙は社説で、日産がアライアンス(連合)相手の仏ルノーに対して事前に逮捕に関する情報を提供していなかったことについて「慣例や両社の共通利益からして、少しは情報を共有してもおかしくなかった」と主張した。

 西川氏はブルータスなのか。古代ローマでカエサルを暗殺した首謀者、裏切り者を象徴する名前を社長の西川氏と重ねて論評する仏メディアは本質を突いているのだろうか。事件の本質は、ゴーン氏に引き立てられた西川氏らがゴーン氏排除に動いたクーデターだと仏メディアは断定しているかのようである。

 西川氏は11月19日夜の記者会見で「クーデターとは理解していない」と述べた。微妙な言い回しである。だが、ゴーン氏逮捕の一報が流れると、日産は電光石火の速さでゴーン氏解任の方針を打ち出した。“ゴーン皇帝”が君臨していた日産では、このような速さで最重要方針が外部に示されることはなかった。権力闘争の側面は隠しようがない。西川氏ら日産経営陣は、「自分の保身のために会社を売り渡そうとするゴーンこそがブルータスだ」と言いたいのだろう。

 ロイター通信(11月22日付)は「ルノーの取締役会は日産自動車に対し、カルロス・ゴーン容疑者の会長職からの解任を延期するよう要求していた」と報じた。11月22日の臨時取締役会の開催前に要求したという。仏メディアのゴーン氏逮捕をめぐる報道の見出しは次の通りだ。

・レゼコー(経済紙):『陰謀論は本当か』
ゴーンが権力闘争で失脚したとの見方への論評

・ルモンド(中道左派):『ルノー・日産:王の最期』
絶対的な権力、高額報酬を追求する態度が、事件の一因になったと論評

・リベラシオン(中道左派):『自動車連合は霧の中』
日産、三菱自でリーダーシップをとってきたゴーン氏が不在になることによるアライアンス(連合)への影響を分析

・フィガロ(中道右派):『日本人は恩知らずか?』
日産復活に貢献したゴーン元会長に対し、逮捕を機に一斉に強い批判が出ていることを伝える

 フィガロは『日本人は恩知らずか?』というセンセーショナルな見出しで、日産の経営を立て直したゴーン氏の功績を強調。日産の西川氏らが逮捕を境に強くゴーン氏を批判し始めたと指摘。「急に何かの蓋が開いたかのように批判が噴出している」とした。フィガロは西川氏がルノーの日産への出資比率が43%と高いことを否定的に語ったことにも言及し、「今回の疑惑と(ルノーの出資比率は)まったく関係ない」と言い切っている。フィガロの論調はフランス政府、特にマクロン大統領の考え方に沿ったものとみておいたほうがいい。

●新会長候補に志賀俊之取締役の名前も

 11月22日16時30分から開かれた臨時取締役会は、20時30分近くなって終了した。取締役会が4時間におよぶことは近年なかった。長くて1時間で、ゴーン氏が一方的に話して終わっていた。質問、ましてや疑義を挟むことなどできない閉ざされた取締役会だった。ゴーン氏の専横を許してきた現取締役は全員、辞表を書くべきとの声もある。

 11月19日の会見で西川氏は「カルロス・ゴーン」と呼び捨てにした。西川氏は社外取締役を中心に弁護士などを加えた第三者委員会を立ち上げ、報酬の透明性の確保やコーポレートガバナンスの再構築を進めると表明した。社外取締役は3人。豊田正和氏は経済産業省の審議官、井原慶子氏はゴーン氏お気に入りのレーシングドライバーである。井原氏が就任した際は「レーシングドライバーが社外取締役になって何をするのか」と日産社内で評判になった。

 ジャンバプティステ・ドゥザン氏はルノーの元専務執行役員。ドゥザン氏はルノーの立場を代弁し、井原氏はゴーン氏の恩義に報いようとする。豊田氏を委員長とする社外取締役3人で構成する「人事委員会」で、代表取締役が西川氏一人になってしまった現状にかんがみ、代表取締役会長を12月の取締役会までに決めることになった。豊田氏は首相官邸、いや日産を“天領”としている菅義偉官房長官の意向を忖度しながら動くことになる。

「志賀俊之取締役(元日産COO)が代表権を持つ会長に就任することになる」と断言する日産の幹部もいる。ルノー側はゴーン氏に代わる新たな会長を派遣する意向を日産に伝えてきたが、現時点では志賀氏の就任か西川氏の兼務しか選択肢はないとみられている。会長選任を日産が強行すれば、両社の緊張関係はさらに増す。11月22日の臨時取締役会で西川氏の会長兼務の人事が見送られたことに関連して「ルノー側が西川氏の会長兼務に反対したからだ」という情報が流れている。

●日仏間の国際問題

 ゴーン氏もカリスマという皮をむけば強欲な人物だった。だから内部告発に至り、検察が動いて司法取引となったわけだ。だが、ゴーン氏逮捕は“政治問題”であり、それほど単純ではない。日産の大株主のルノーにはフランス政府が15%出資している。ルノーは元国営企業であり「ルノーに関するあらゆる事柄は政治問題化する」(フランスの自動車担当アナリスト)。つまり今後、日仏間の国際問題に発展しかねないのだ。

 一連の動きについて、日産は首相官邸と綿密に連絡を取っていたといわれている。ゴーン氏逮捕の翌日には川口均専務執行役員が首相官邸を訪ね、菅官房長官と面会した。世耕弘成経産相でないところがミソで、日本政府がこの問題の処理に、いつにもまして慎重になっていることを示している。川口氏は菅長官に面会後、取材に応じ、「日本とフランスの関係もあり、両国の関係が保たれるよう政府としても見ていただければと思う」と語った。

 日本政府はあくまで“事件”として処理したいわけだが、「推定無罪」と述べたルメール仏経済・財務相が11月22日(フランス時間)、大阪万博関連でパリを訪問中の世耕経産相と会談したのは仏政府側が焦っているからだ。フランスの失業率はここ数年、10%前後と高止まりしている。ルノーが日産の利益を吸い上げる構図が少しでも変化すれば雇用問題の悪化に直結する。ルノーの利益の約半分は日産からの配当金。日産のおかげでルノーは食いつないできたといっても過言ではない。

 ゴーン氏が日産から掠め取ったとされる金額は、有価証券報告書に役員報酬を過少記載した分が8年間のトータルで80億円。これとは別に株価連動報酬(SAR、ストック・アプリシエーション・ライト)の40億円が有報に記載されずに付与されている。これから10年あまりにわたり、分割して80億円がゴーン氏に支払われることになるのか。SARを加えた120億円の支払いがプールされているのか。不透明な部分は残る。ゴーン氏と一緒に逮捕された最側近のグレッグ・ケリー氏(前代表取締役)に接見した関係者によると、現時点では支払いの名目がコンサルティング料か顧問料かなども決まっておらず、ゴーン氏は実際に支払いも受けていないと述べているようだ。ちなみに司法取引したのは、専務執行役員と日本人の秘書室長とみられている。

“ミニ・ゴーン”といわれている西川氏の首筋が寒くなっていた。2019年3月期の減益幅がこれ以上大きくなれば解任といわれていた。「ミニ・ゴーンが御大のゴーンを刺した」という声もあるが、記者会見で「クーデターなのか」と西川氏が聞かれたのはこうした背景があるからだろう。

「当初、2010-14年度の報酬の過少記載でゴーン氏が逮捕されたのは、西川氏が社長兼CEOに就任した2017年4月1日という日時との兼ね合いだ」(法曹関係者)

 22日の日産の臨時取締役会では、ルノー出身の2人の取締役はテレビ会議で参加した。会社側がこの2人に微に入り細を穿って説明したため、時間がかかった。「ゴーン氏の処遇に関して日産もルノーと同様に判断をすべきだ。疑わしきは罰せず、だ」とルノー側は主張していたため、2人が臨時取締役会を欠席するのか、出席して徹底抗戦するのか、などネガティブな風聞が飛び交っていた。

 ライブドア事件を指揮した元東京地検特捜部長、大鶴基成弁護士がゴーン氏の弁護士に選任された。東京地検特捜部に喧嘩を売るわけで、誰が大鶴氏に頼んだのか。ルノー側も弁護士選任に関与している。ほかにも数人、選任されることになるとみられている。
(文=編集部)

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