NHK『トクサツガガガ』が描く「女性オタクの生きづらさと社会の多様性」とは

 現在、ドラマファンがもっとも注目しているのはNHKの「ドラマ10」枠(金曜夜10時枠)だろう。視聴率は決して高くないものの、『女子的生活』や『透明なゆりかご』といった話題作を次々と生み出しており、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にあふれる感想を見ていると、数字では測れない熱量を毎回感じる。

 作品自体の完成度もそれぞれ高く、『女子的生活』は主演の志尊淳が第11回コンフィデンスアワード・ドラマ賞の主演男優賞と第73回文化庁芸術祭賞放送個人賞(テレビ・ドラマ部門)を受賞。『透明なゆりかご』は第73回文化庁芸術祭大賞(テレビ・ドラマ部門)を受賞している。

『女子的生活』ではLGBTQ(性的少数者)、『透明なゆりかご』では未成年の妊娠や中絶の問題を描いており、同時代的なテーマを丁寧に扱う社会派テイストが高く評価されている。

●『トクサツガガガ』が描く女性オタクの悩み

 現在放送中の『トクサツガガガ』も盛り上がっている。

 本作は、特オタ(特撮オタク)のOL・仲村叶(小芝風花)を主人公にしたドラマだ。自分の趣味を隠して暮らす叶が会社の同僚や母親にオタバレ(オタクであることがバレること)することにオドオドしながらも、同じオタク趣味の仲間を求める姿をコミカルに描いているのだが、話数を重ねるごとに一筋縄ではいかない深みを見せている。

 もともと、オタクを主人公にした作品はテレビドラマでは定期的につくられており、その多くは恋愛に奥手なオタク男性を主人公にした恋愛ドラマだった。

 代表作は、2005年の『電車男』(フジテレビ系)だろう。女性と付き合ったことのないオタクの青年が電車の中で酔っ払いにからまれている女性を助けたことから始まる本作は、匿名掲示板「Aちゃんねる」の住人(名無しさん)に恋愛相談をしながら進んでいく独自の展開が話題となったが、今の視点で見ると、オタクというだけでここまで差別的な目線を浴びせられないといけないのか? と感じる。

 恋愛も結婚もせずに趣味に没頭している内向的な男性はバカにしてもいいという風潮が、当時は支配的だった。しかし、たとえば先日まで放送されていた『ゆうべはお楽しみでしたね』(MBS)は、オンラインRPG『ドラゴンクエスト10』(スクウェア・エニックス/※10は正式にはローマ字)で知り合った男女がひとつ屋根の下で暮らすことになるラブコメで、主人公は内気なオタク男性だが、オタクであることに対する差別はだいぶ薄くなっている。

 だが、これはあくまで男性オタクをめぐる状況で、『トクサツガガガ』で描かれる女性オタクの状況は、また違う切り取り方をされている。

 第1話で、叶は自分が特オタであることをひた隠しにしようとしながらも、趣味を共有できる仲間を求めて、同僚とのカラオケで特撮番組の主題歌を(特オタであることをうまく隠して)歌ったり、キャラクターグッズを目立たないかたちでカバンに付けることで(理解してくれる同好の士に向けて)サインを送ったりしている。

 正直言うと、1話の時点では、そこまで趣味をひた隠しにする叶の気持ちがよくわからなかった。同好の士が欲しいという悩みも、ネットを使えば簡単に集まるのではないかと感じ、今の時代とズレているのではないかと思った。

 しかし、2話以降、主人公以外の女性オタクが登場するようになると、本作のやりたいことがわかってきて印象が変わっていく。たとえば、叶の同僚の北代優子(木南晴夏)はローカルアイドルグループ・ビーボーイズのオタクで、その趣味がバレたことで前の職場にいづらくなった過去を抱えていた。

 北代には、みやびさん(吉田美佳子)という女子大生のオタク友達がいる。彼女は自分の趣味を隠さない明るい性格で、彼女が北代の同僚に趣味の話をしたことで気まずい関係になっていたのだとのちにわかるのだが、北代とみやびの違いを通して、同じオタクでも趣味を公言している人もいれば隠している人もいて、考え方は人それぞれなのだということが描かれているのだ。

●女性の生きづらさと社会の多様性を描く意欲作

 叶を演じる小芝風花は『女子的生活』にも出演していたが、あのドラマは性の問題を通して人間の多様性を描いていた。この『トクサツガガガ』も同じように、オタクを通して人間の多様性を描いているといえるだろう。

 第5話では叶の過去が描かれており、小学生のときに黒いランドセルが欲しかった叶が、母親から“女の子らしくない”という理由で拒絶されたことが心の傷になっていることがわかり、それが特撮番組という男の子向けのオタク趣味を持つ叶の現在と重なってくる。

 作中には、任侠さん(竹内まなぶ)という、女の子向けアニメ『ラブキュート』を愛好する強面の男性も登場する。つまり、叶も任侠さんも、単純に好きなオタク趣味がジェンダーの問題となって生きづらさを抱えているのだ。社会が求める男らしさ、女らしさと自分の好きなオタク趣味が衝突してしまうなか、叶たちはどう生きていくのか?

 描写はコミカルだが、描かれているテーマは実にハードである。本作もまた、「ドラマ10」が描いてきた女性の生きづらさと社会の多様性というテーマを描いた意欲作だといえよう。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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