兵庫県警の対応が波紋を広げている。
不正指令電磁的記録供用未遂の疑いで3月4日、13歳の女子中学生が兵庫県警に補導されたと複数のメディアが報じた。
これに対し、「いたずらサイトのURLを掲示板に貼っただけで補導や家宅捜索するのは、行き過ぎだ」として、インターネット上を中心に物議を醸し、ITの専門家や法曹界からも兵庫県警の対応を疑問視する声が上がっている。
報道によると、この3人はネット掲示板に、「何回閉じても無駄ですよ~」という文字などが繰り返し表示されるURLを貼り付けたという。
実は、このURLは5年ほど前からネット上でたびたび使われているページで、友達などにいたずらする目的で誘導するといった使われ方をしてきた。確かに、何度閉じようとしても繰り返しポップアップが出てくるため、初めて見る人はパニックになる恐れもある。だが、ブラウザそのものを閉じてしまえば、そこで終了できるため、さほど悪質とは言いにくい。
そんな有名ないたずらページのURLを掲示板に貼っただけで補導、家宅捜索という事態に発展したことに対し、「ほとんど実害もないにもかかわらず、犯罪扱いするのはおかしい」「もっと悪質なページは山ほどあるのに、なぜこのURLを貼り付けただけで補導するのか」など、兵庫県警を批判する声が高まっている。
また、2月1日から3月18日が、政府の提唱する「サイバーセキュリティ月間」であるため、「見せしめにしようとしている」とみる向きもある。
●弁護士の見解
弁護士法人ALG&Associates執行役員の山岸純弁護士は、犯罪の構成要件に該当する可能性は高いが、兵庫県警の対応には違和感があるとの見解を示す。
「今回の事件は、平成23年に施行された『不正指令電磁的記録に関する罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)』を理由に補導されたり、捜索差押をされたということのようです。この法律は、『PCなどを使う際に、本来の指示と違う動作をしたり、指示とは逆の動作をしたりするようなプログラム』をつくったり、他人に送信したりした場合に適用されます。
今回、インターネット上に表示されたポップアップを『消す』指示をしても、『消えない』動作となるのであれば、この犯罪の構成要件に該当するのでしょう。
もっとも、刑法という法律が、社会のルールを逸脱した行為・者に対する最終手段として位置づけられている法律なので、今回の補導などは、“使い方”を間違っているような気がしますね」(山岸弁護士)
●ITジャーナリストの見解
他方、ITジャーナリストの三上洋氏は、「不正指令電磁的記録供用未遂による補導・家宅捜索は不当で間違っている」と語る。
「まず、URLにより誘導されたサイトは、レンタルブログ・FC2につくられたページで、JavaScript(ウェブサイト上で一般に使われているスクリプト=実行文)で動いており、ポップアップの小窓を繰り返し表示するだけです。それ以外の悪さ、攻撃は一切行っていないと思われます。つまり、パソコンやスマホへの実害はないと考えられます。
また、不正指令電磁的記録に関する罪は、いわゆるウイルス供用罪です。しかし、このサイトはウイルスではないし、害も与えません。無害なイタズラにすぎず、たとえれば“公園の砂場で遊んでいて砂の山を崩したら、警察に補導された”ぐらいやりすぎで、不当な補導・書類送検と考えます。しかも、報道によれば『未遂』です。
さらに、このサイトを違法とするのであれば、さまざまなウェブサイトの広告が違法になってしまうと警鐘を鳴らす。
「今回はリンクの書き込みのみです。これがダメなら、一般のウェブサイトの動画広告やスクロール広告もすべて犯罪になります。
不正指令電磁的記録とは、『意図に沿うべき動作をさせない、意図に反する動作をさせる』プログラムを取り締まり罰するもので、『意図に沿うべき動作をさせない』という意味では、確かに今回のサイトも当てはまるが、これを犯罪にするのなら、動画広告を出すサイト、繰り返し広告を出すサイトすべてが対象になってしまうでしょう。
たとえば、ある新聞社サイトで、記事を読もうとしたところ、不要な動画広告を見せられ、データ通信料金がかかってしまったという状況は、『意図に沿うべき動作をさせない』といえます。また、あるスマホサイトで、広告がスクロールして常に表示されて消せない、半透明の広告でユーザーにむりやりクリックさせようとするのも、『意図に反する動作』です。
こんな小さないたずらサイトよりも、もっと悪質な詐欺サイトを取り締まるべきです。たとえば、『なかなか閉じることができず、大きな音が鳴る詐欺サイト(サポート詐欺)』『<ウイルスに感染しています>と偽の脅しを出す広告・サイト』『<システムが遅くなっています>などの偽の表示を出す広告』などのほうが悪質で実害があります」(同)
では、なぜ警察は補導・書類送検したと考えられるか。
「考えられるのは、『担当者のIT・インターネットの知識が浅い』『未成年のサイバー犯罪へのみせしめ的な補導・報道発表』『サイバー犯罪の検挙率を高めたい』という3点が挙げられます。2020年の東京オリンピックに向けて、セキュリティ強化は国家的課題となっています。そのため、サイバー犯罪の検挙数を増やすことがノルマになっている可能性があります。うがった見方かもしれませんが“検挙しやすい相手”や“国内で簡単に捜査できる対象”を選んだ可能性もあります」(同)
今回の兵庫県警の対応について、問題点はどこにあるのだろうか。
「都道府県警察単位のサイバー犯罪対策は無理があると思います。今回の件のみならず、昨年話題になった神奈川県警などが立件したCoinhive事件なども同様です。いずれもITやネットの一般的な利用・常識からかけ離れた立件といえます。ITへの理解が深い警察は、このような事案について立件していません。一般的なネットへの理解があれば今回のような立件はしないでしょう。また、ネット犯罪は都道府県の枠とまったく関係ありません。都道府県単位で捜査するには、知識・経験のある捜査員が足りないのが現状です。したがって、ネット犯罪は、都道府県単位ではなく警察庁がまとめて全国を見るべきではないでしょうか」(同)
海外のニュースでも「兵庫県警はITについて無知すぎる」と批判されるなど、注目度は増している。ITが進歩するほど、犯罪も巧妙化・高度化する。取り締まる警察も、高度な知識が求められることになる。
(文=編集部)