『いだてん』金栗四三が愛国的言動連発、“骨太”路線驀進への伏線か

 NHK大河ドラマ『いだてん』の第10話が10日に放送され、平均視聴率は前回から1.0ポイント減の8.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。8%台という数字は、連続ドラマでは珍しくもないが、大河ドラマとしては極めて厳しい。ただ、『いだてん』の低視聴率を解説する記事はほかにたくさんあるので、本記事ではあまりそこには触れない。

 第10話は、ストックホルムで練習を開始した金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)の様子を描く回だった。これといって劇的な出来事があったわけではないため、インターネット上には「つまらなかった」「盛り上がりに欠けた」という感想も見られる。さらに、東京で落語家になった美濃部孝蔵(森山未來)の近況や、ビートたけしが古今亭志ん生を演じる昭和パートまで挿入されたため、構成の意図がよくわからないと感じた人も少なくなかったようだ。

『いだてん』にケチをつけるのは多くのメディアでもなされているので、筆者はあえて擁護する立場を取ってはいるが、この第10話については正直言って「ますます一般受けしなさそうだな」と感じた。だが裏を返せば、隅々までじっくり見るタイプのドラマフリークには支持される作品になり得るとも確信している。

 第10話は、四三と弥彦の対比がひとつのテーマになっていた。いつも快活に笑い、四三を励ましてくれた弥彦は、いざ現地で練習を始めると体格や体力において外国人にまったくかなわないことに気づく。慣れない外国の環境から孤立感を強めた彼は精神的に病んでしまい、部屋に閉じこもって酒をあおるようになる。エリートならではの挫折だ。

 一方、熊本の片田舎出身で英語も最小限しか知らない四三は、他国の選手たちと打ち解け、人気者になっていく。都会派のお坊ちゃんである弥彦より、田舎育ちの四三のほうが外国に早くなじめたという描写は興味深い。これは、四三はすでに熊本から東京に出てきた際にカルチャーショックを経験しているからであろう。純朴な四三は新たに見聞きしたものを素直に受け入れ、そこで生活していくことができるのだ。弥彦と四三の背景をしっかり描いてきたからこそ、彼らが外国でどう過ごしたかの描写にも説得力が生まれる。手堅い脚本といえよう。

 四三が「我らの一歩は日本人の一歩ばい。速かろうが遅かろうが、我らの一歩には意味のあるったい」と弥彦を励まし、やる気を取り戻させたという結末も感動的だった。台詞自体もいいが、雑草育ちがエリート育ちを本気で気遣い、エリートも素直にそれを受け入れるという友情が美しい。弥彦を準主役級に据えたことで、金栗四三の物語に深みが生まれていることは間違いない。

 ちなみに、先ほど触れた「我らの一歩は日本人の一歩ばい」を含め、四三には愛国的な言動が多い。第10話では、このほかにも「日本の歌を歌ってほしい」と請われて「君が代」を歌ったり、「入場行進の際はJAPANではなく日本と掲げるべき」と発言したりしていた(どちらも史実)。時代背景を考えれば、ことさらに四三だけが愛国的というわけではないだろうが、こうした「愛国的な描写」に多少の批判が上がっているのも事実だ。

 だが、おそらく脚本の宮藤官九郎は、意図的に愛国的な言動を描いているはず。といっても、プロパガンダ的な意味ではない。四三の愛国的な言動は、郷土愛に通じるものであって純粋である。だがこの後、愛国的な精神は軍国主義と結びついていくことになる。スポーツのために建てられた競技場で学徒出陣の壮行会が行われ、四三が軍歌と日の丸でオリンピックに送り出されたのと同じようにして、多くの若者が戦地に送り出されるようになる。そして、1940年に開催されるはずだった東京オリンピックは返上され、「幻のオリンピック」となる。

 先読みが過ぎるかもしれないが、『いだてん』では1964年の東京オリンピックに至る歴史の流れとして、このあたりも描かれることだろう。つまり、四三の愛国的な言動は、ドラマ全体を貫くテーマの伏線となっている可能性がある。この予想が当たっているのかどうかは、そのうちわかるだろう。

 第10話についてはこのほか、ポルトガルのマラソン選手・ラザロが登場したことについても触れておきたい。フレディ・マーキュリーそっくりの風貌で視聴者の関心を集め、四三とも仲良くなったラザロだが、後にある出来事でストックホルムオリンピックに名を残す。ネット上では「『ラザロ選手』で検索してはいけない」と話題になっているが、ネタバレになるので詳しくは触れない。いい話ではないとだけ述べておく。

 筆者は、ラザロを登場させたのみならず四三との交流を描いたところに、クドカンの覚悟を感じる。「スポーツで道を切り開いた日本人がいました」という華々しい物語や、単なるスポーツ礼賛にとどまらず、その陰にあった物語も描こうとしているからだ。

 大河ドラマでは一時期、なにかといえば主人公らが「戦はいやだ」「戦のない世の中を」と口にする“お花畑大河”が量産された。こうした風潮に飽き飽きしていた大河ファンは、主人公らがイケイケで戦を進める『真田丸』や、戦国のむごたらしさをこれでもかと描いた『おんな城主 直虎』を「骨太な大河」として結構評価していたと記憶している。ジャンルはまったく違うが、『いだてん』にラザロが登場したことは、この作品が暗い歴史から目を背けず、むしろしっかり描いていく「骨太路線」を突き進むことを示しているように思う。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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