中学受験「多様化」の実態とワケ…英検準1級並み、プログラミング、AIについてプレゼン

 大学入試センター試験が2020年1月(2019年度)の実施を最後に廃止され、2020年度(21年1月)から新しい共通テスト「大学入学共通テスト」に移行する。その内容について、「それほど変わらないのでは」という憶測も飛ぶなか、中学入試の世界では、一歩先んじて変化の兆しが現れている。それが、新タイプ入試の台頭だ。そのキーワードは「多様性」。いったい中学受験の世界で何が起きているのか、リポートする。

●小学校での英語教科化を受けて、中学入試でも英語入試を実施する学校が増加

 首都圏で実施された2019年の中学受験者数は、およそ5万9300人(公立一貫校受験者含める)。5年連続の増加で、小学生の5人に1人が中学受験に挑んだことになる。受験者数の増減は景気に左右されるといわれているが、ここ数年新しいトレンドが生まれつつある。それが、入試の多様化だ。

 これまでの私立国立中学の入試は、算国理社の4科目・算国の2科目受験が主流だったが、数年前から算数・国語1科目入試など得意科目選択型入試を実施する学校が増えてきて人気があがっている。さらにここにきて、英語選択入試や、思考力テストなどの新タイプの入試を実施する学校がでてきて、それにチャレンジする層が増加したことが受験者数を押し上げているのだ。

 まず英語選択入試について見てみよう。2019年に英語選択入試を実施した学校は125校で、受験者数は1800人~2000人。約1000人が合格をしている。特に今年から慶應義塾湘南藤沢中等部が英語入試を実施したことで、今後ますます英語入試の実施に拍車がかかると業界関係者の間では話題になっている。ちなみに、同校の試験のレベルは英検2級から準1級程度というから(同校サイトに明記)、高校生でも太刀打ちできないレベルが求められている。

 もちろん学校によって求められるレベルはさまざまで、多くは「英検4級以上」「英検3級程度」など、そこで問われる英語力の目安を示しているのでレベルに合わせて学校選択をすることになる。共通するのはペーパーテストだけではなく、スピーキングやリスニング力も測るところがほとんどいうこと。これは、大学入試で今後「読む・書く・聞く」に加えて、「話す」を含めた4技能が試されることになるからだ。

 英語入試を実施する学校の中には、面接やグループワークで交わす「英会話」を通して、受験生のリスニングとスピーキングの力を評価する所もある。

「すでに英語を学んできた小学生や、英語が好きで、これから英語の学習をがんばってみたいという多くの小学生に向けて、『本校の中高6年間でさらに英語の力を伸ばしてみませんか?』というメッセージ。これによって、英検やその他の英語(筆記)試験を受けたことのない、たとえば英会話スクールだけで英語を学んできた小学生も、怖がらずに中学受験にチャレンジしていけることになる」と言うのは首都圏模試センターの北一成氏。

 小学校での英語教科化に伴って今後増えてくることが予想される英語選択入試は、帰国子女だけでなく、英語に親しんできた受験生に門戸を開くことになるだろう。
 
●まるで入社試験のような新タイプ入試が続々登場
 
 もうひとつのトレンドが、これまでにない形態の入試を実施する学校が増えていることだ。新タイプ(適性検査型)入試と呼ばれるが、その実施校は、2014年38校→2018年147校、延べ受験者数も1989人から1万3000人に増加している。

 もともとは公立中高一貫校受験生の受け皿として始まった入試で、公立中高一貫校で実施されている適性検査に準じた問題が出題されてきた。適性検査の出題のポイントは大きく2つ。1つ目は、「いかに覚えたか」ではなく、「いかにその場で考えられるか」という思考力・判断力を問うこと。

 2つ目は、「自分なりの提案や意見」をその場で表現できるかということ。公立中高一貫校ができた当初、従来の私立中学受験とは対策が異なるために私立中学との併願は難しいとされてきたが、ここ数年新タイプ入試を実施する学校が増加したことで公立中高一貫校との併願が可能になり、私立中学受験に新たな層を生み出している。

 興味深いのは入試の多様化だ。名称も総合型・論述型・自己アピール型・思考力型・AL(アクティブラーニングの略)型などさまざまだが、中にはレゴブロックを使って考える入試、ワークショップ型の入試、プログラミング入試など、これまでの入試のイメージを覆すユニークなものがでてきた。

 レゴブロックを使った入試でマスコミでも話題になっているのは、聖学院中学校(東京都北区)。2019年入試ではものづくり思考力入試・難関思考力入試・M型思考力入試の3つが行われたが、そのうち2つがレゴを使う入試。この入試を開発した教員は、企業の組織開発や研修用に開発されたレゴシリアスプレイというメソッドの認定ファシリテーターの資格保持者。

 例えば難関思考力入試では、「日本の高齢化と医療とAI」をテーマにした資料を読み込み、AIの進化に伴うメリットとデメリットを考えた上で、高齢化社会の医療でのAIの活用方法と人間の役割をレゴと文章で表現し、プレゼンすることが求められた。この入試で問われるのは、情報を取り出す力、比較分類する力、統合して解釈する力、意図を持ってアイディアを形にできる能力、説明する力だと学校は説明する。

 進学校として人気があがっている東京都市大等々力中学校(東京都世田谷区)でも、一般入試の他に、算数1教科型とアクティブラーニング型入試を実施している。今年のアクティブラーニング型入試のお題は、犬型ロボットaiboを例にとりながら、「AIが進化した未来の社会で、人々が幸せになるために、どうしたらいいのか」というもの。この大きな問いに対する答えを初見の資料を読み解き、個人ワークとグループワークを交互に行いながら探していく。

 同校では、東大CoREFが開発した「知識構成型ジグソー法」というプログラムを教員研修を重ねて授業にも取り入れており、入試でも、そのメソッドが使われている。この入試で問われるのは、与えられた資料を協働して読み解き、深く考えることができるか、多様なものを認める資質、肯定否定両面から考察できる批評力、意欲と協調性など。

 入試担当教員は「単に積極的に発言しているかということだけではなく、どれだけ人の話を聴けたか、意見をまとめられたかを見ている」と話す。基準に達しなければ合格者数は定員を下回る可能性もあるという厳しいものだが、今年は20名の枠に83名が挑み10名が合格した。

●御三家レベルの課題に挑戦する子どもたち。新タイプ入試は、学力の定義を変える可能性大。

 それにしても、学校にとってはかなり手間のかかるこのような入試を行う理由はなんなのか。その背景には、前述の公立中高一貫校受験生を取り込みたいという意図もあるだろうが、2020年度から実施される大学入試改革に始まる教育改革の影響も大きい。実社会では、明確な答えのない課題に対して、分析し最適解を導き出し、チームになって解決する力が求められる。そのときに必要になるのが、新学習指導要領でも謳われている、思考力・判断力・表現力だからだ。

 一部の私学では国の教育改革に先駆けて、数年前からそうした能力の育成を重視したプログラムを学内で実施し、入試にも反映し始めている。その結果、出題された問題に対する正解を導き出す力が測られる従来の教科テストでは見えない、別の能力があるということが実証され始めているようだ。

 聖学院の思考力入試で課される問題のレベルは、御三家といわれる超難関校と引けを取らないが、この学校の入試偏差値は47(首都圏模試調べ)。偏差値だけを見ると、「なぜこんな難題を出すのか」という疑問も湧いてくる……。しかし、思考力入試を取り仕切る教員は、「頭のなかにある考えをなかなか言葉に落とし込めない子どもも、手を動かしブロックを使って表現するというプロセスを踏むことで、スムーズに言語化できる」と言う。

 実は、この入試で高得点を取って合格した生徒は同校の上位クラスに所属しているが、一般入試ではこのクラスには届かなかった。しかし、入学後は他の生徒に引けを取っていないという。通常の教科中心のテストでは引き出せない能力が、新タイプ入試なら引き出せるということなのかもしれない。

 また、できるだけ多様な資質を持った生徒を取りたいという狙いもあるだろう。実際、前述の2校では、新タイプ入試で入学した生徒は意欲が高く、一般入試で入った生徒と交ざることで授業にも活気が生まれるという。東大や京大が推薦入試を始めたのも同じ狙いだ。

 ここまで書いて、改めて「学力とは何か」「従来のテストで測られている能力は、ごく一面に過ぎなのではないか」という疑問が出てくる。これまで往々にして、受験を突破するためテストで点数をとれれば学力が高いと評価されてきた。しかし、実際にその枠内には収まらないが、思考力という物差しで測ったときに高いポテンシャルを持つ子どもがいる。新タイプ入試を実施する学校では、そんな潜在能力を持った子どもを見いだし、学内で育てていこうという意図が感じられる。

●これからは入試の世界でも、多様性がキーワードになる
 
 2020年度入試からセンター入試に変わって大学入学共通テストが始まる。結局それほど変わらないのではという予測も飛び交うが、筆者は新学習指導要領で学ぶ生徒が大学受験をする2024年以降に、大学入試も本格的に変わるのではないかと思っている。むしろ、変わらなければこの国の未来は危ういとも考えている。
 
 少子化に伴って、今後ますます教育業界も生徒の争奪戦が激しくなる。ひとつの流れが低学年からの通塾。塾難民という言葉も出てくるくらい、難関中学合格を目指して低学年から子どもを塾にいれる家庭がある一方で、習い事もやめず、塾通いで消耗させず、なおかつ良い環境を与えるために私学に通わせたいと考える親たちも出てきた。

 学校選択に関しても、大学進学実績や偏差値を物差しとする従来の価値観で、難関校を目指す層。偏差値は見つつも、大学進学実績ではなくアクティブラーニングなどを取り入れた21世紀スキルの育成を重視する学校を選択する層、偏差値や進学実績ではなく、人間力の養成のための豊かな環境を重視する層と、親の価値観が多様になってきていると感じる。

 従来の知識レベルを問う問題で測れるのは、人の能力のごく一面でしかない。国内においても外国人労働力なしには経済が成り立たないといわれている今、多様性は今後の社会の重要なキーワードだと思うが、その価値観が広がるためには、まず人を多面的に捉える視点と学校教育のなかで、子どもたちの能力を多面的に測る指標が不可欠ではないだろうか。今、日本の教育が、画一的ではなく個々の子どもに応じた多様な扉を開くことができるかどうかが問われている。

 中学受験で広がる新タイプ入試は、これまでの学力テストでは拾えなかった、新しい価値観を持った層をすくい取り、多様な能力を持った子どもたちを受け入れるひとつの突破口になるのかもしれない。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

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