トヨタとJAXA、共同で月面用車両を開発…日本勢の技術結集で宇宙開発が加速か

 2018年5月より月面用車両の共同検討を続けていた宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車は、3月中旬、宇宙探査ミッションにおける今後の協業について発表しました。

 内容は、燃料電池自動車(FCV)技術を用いた月面用車両の開発です。FCVとは、燃料として水素と酸素を用い、化学反応によって発電した電力でモーターを駆動、走行する自動車のことです。地球上では、水素を車両に充填して搭載し、酸素は空気中から取り込んで利用します。月面用車両では、水素と酸素を地球から運搬することになります。

 この月面用車両は「有人与圧ローバ」と呼ばれ、宇宙飛行士は車内で宇宙服を脱いで探査活動を行うことができ、必要に応じて宇宙服を車内で装着し、外に出ることも可能です。全長6mほどで中型観光バスと同等の大きさがあり、内部の四畳半程度の空間に最大4人が滞在できます。一度の走行距離は1000km、設計寿命として月面で1万km以上の耐久性を目指します。

 ちなみに、現時点で地球以外の天体での最長車両走行距離はアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車オポチュニティの45kmなので、有人で1万km走行可能な車両の開発は、これまでの探査車とは比べものにならない高い難度であることがわかります。

 とはいっても、月面用車両は50年前にNASAがすでに開発に成功しています。今回の最重要課題は燃料の月資源を使った補給、つまり、使い捨てではない車両の実現につなげる技術開発が背景にあると考えられます。月には水があることが、すでに確認されています。水はそのままではFCVの燃料になりませんが、月基地に太陽光発電所を建設し、水を電気分解して得た酸素と水素を月面用車両に供給する方法が期待できます。

●オールジャパンの協業実現がカギ

 この月面用車両は、月での公共交通機関と自家用車の中間的な機能を担うことが期待されています。つまり、月面基地と探査地域の間は自動運転を行い、探査地域では手動で運転を行うという方式です。これに官民共同で取り組むのですから、形態的には新幹線などのインフラ輸出と似た状況です。これまで日本の宇宙開発は国主導で行われてきましたが、米中のような民間を国が支援する、あるいは民間同士が技術を出し合う方式が日本でも定着するのか、そのような意味でも大きな試金石であると考えられます。

 宇宙開発における自動車産業のかかわりでは、すでにアウディが宇宙スタートアップ企業と協業して、四輪駆動技術「クワトロ」と電動駆動技術「イートロン」を宇宙に展開しようとしています。何よりも、人類最初の月面車(アポロ計画)の基幹部分はゼネラルモーターズ製の銀-水酸化亜鉛カリウム電動車だったので、日本は米国を50年遅れで追いかけているとも言えます。

 このような協業は日本国内だけでなく、国際的な宇宙探査ミッションの枠組みの中で取り組まれ、当面の目標は月、そしてやがては火星での移動手段開発へと発展する計画です。地球上においても、自動車の普及や地下鉄の完成が都市開発における大きなターニングポイントとなります。

 月面探査においても、これまでアポロ計画で行われた、一点に着陸しての探査~地球への帰還から、月面基地を拠点とした広範な移動を含む探査が次の目標となります。それによって、人類の活動領域の拡大と月に関する科学的知見の深化が期待されますが、安全な移動手段の確保は喫緊の課題です。

 背景には、ここ数年で急速に高まってきた各国の月有人探査計画の具体性があります。残念なことに、直近のイスラエルによる月面軟着陸探査機「ベレシート」は着陸速度を減速するメインエンジンのトラブルで月面に激突してしまい、月へ着陸することそのものの困難さがまた浮き彫りになったかたちですが、それでも「月へ再び人類を」の動きは止まりません。

 JAXAでも月面有人探査のシナリオの検討や具体的なミッションの技術検討が行われており、今回の月面用車両は2029年の打ち上げを目指しています。これまでの共同検討でまとまった第一次案では、燃料の重量当たりの効率の観点から水素を燃料としたFCVが最有力とされており、それに研究が進んでいる自動運転技術が組み合わされています。

 国際社会における日本の位置づけから考えると、宇宙モビリティへの研究開発資源の配分は、丈夫で故障しにくい自動車をつくり続けてきた日本の優位性を生かせる分野として非常に有望です。トヨタのみならず産業界が日本の技術力を結集して「宇宙飛行士を必ず生きて基地に帰還させる」地球外天体での効率的なモビリティの開発に取り組む必要があります。

 重力は地球の6分の1、大きな岩石の転がる急峻で荒れた地形、過酷な宇宙放射線と急激な温度変化など、月の過酷な環境で宇宙飛行士を保護し、月探査を推進しなければなりません。難題は山積みですが、JAXA主導の枠組みの中では、すでにブリヂストンが接地体(車輪)の開発を進めており、「チームジャパン」が形成されつつあります。この流れに乗って自動車部材メーカーが販路を宇宙へ拡大するところに、新たなビジネス・サイエンス・テクノロジーのフロンティアが広がっていると思われます。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

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