BS、アマゾン、ネットフリックス…多チャンネル化で予算削減…疲弊するドラマ業界の今後

 5月1日、いよいよ新元号「令和」が施行され、「平成」時代が幕を閉じた。

 平成元年時の“月9”枠は『君の瞳に恋してる!』(主演・中山美穂)、NHK大河ドラマは『春日局』(主演・大原麗子)、NHK朝の連ドラは『純ちゃんの応援歌』(主演・山口智子)であった。一方、平成最後の月9は『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(主演・窪田正孝)、大河は『いだてん~東京オリムピック噺~』(主演・中村勘九郎阿部サダヲ)、朝ドラは『なつぞら』(主演・広瀬すず)である。

 この30年余の平成の御代、ドラマは時代を映し、またドラマが時代に影響を与えもし、数々の名ドラマ・迷ドラマが生まれた。この間、ドラマはどう変わり、そして何が変わらなかったのか、ニッポンのドラマに精通した2人の猛者が語り尽くす。

 ひとりは、テレビドラマ研究の専門家で、『ニッポンのテレビドラマ 21の名セリフ』(弘文堂)などの著作もある日本大学芸術学部放送学科教授の中町綾子氏。対するもうひとりは、本サイトにて「現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”」を連載する某芸能プロマネージャーの芸能吉之助氏。

 芸能界の“オモテ”を知る女性研究者と、“ウラ”を知悉する現役マネ。この両者は、平成のドラマ史をどう見るのか? 平成31年から令和元年をまたぐゴールデンウィークの短期集中連載として、全10回を一挙お届けする。

 連載最終回の今回のテーマは、我々「視聴者」。平成時代、スマホの普及で大きく変化した私たちの生活スタイル。SNSやネットメディアの隆盛はドラマ視聴にも大きな影響を与えてきた。そうした視聴者の変化について分析していく。

【対談者プロフィール】
中町綾子(なかまち・あやこ)
日本大学芸術学部放送学科教授。専門はテレビドラマ研究。文化庁芸術祭テレビドラマ部門審査委員、 国際ドラマフェスティバルinTokyo 東京ドラマアウォード副審査委員長、ギャラクシー賞テレビ部門選奨委員を務める。“全録”(全チャンネル録画)できるHDDレコーダーがなかった時代から、研究室に5台以上のレコーダーを設置してドラマを見まくり研究してきたというドラマ猛者。

芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める芸能マネージャー。芸能ニュースを芸能界のウラ側から解説するコラムを「ビジネスジャーナル」で連載中。ドラマを観るのも語るのも大好き。最近の推しドラマは『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)。

●“ネット以前”は幸福な時代だった

――この30年間で、ドラマを作る側の変化はもちろん、視聴者を取り囲む状況も大きく変わったと思います。特に近年では、SNSやこうしたネットメディアの隆盛がドラマに影響を与えているのではないでしょうか。

吉之助 先ほども話が出ましたが、大河ドラマでいえば『平清盛』(NHK総合、2012年、主演・松山ケンイチ)、朝ドラでいえば『あまちゃん』(NHK総合、2013年、主演・能年玲奈)あたりから「○○萌え」「○○ロス」なんていう形で、視聴者がSNSで繋がって盛り上がっていくような動きがよく見られるようになりました。民放でも、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2016年、主演・新垣結衣)なんかは、局の側も視聴者を巻き込んだSNS運用を積極的に行っていましたよね。Instagramで、“#恋ダンス”“#みくり飯”などハッシュタグ付きの情報をどんどん発信するなどして。

 そんなふうによい方向に盛り上がっている場合はいいのですが、逆に、やれ視聴率が下がっただとか、誰の演技が大根だとか、ネガティブな情報や中傷が放送中からガンガン出てくるような状況は、作ってる側からすると正直しんどいですよね。

中町教授 脚本家の方や制作現場の方にお話を聞く機会もあるのですが、制作の途中でネガティブな意見が耳に入ってきて、デフレスパイラルのように、どんどん現場が辛くなっていくということがあるそうなんです。ネットがここまで一般的ではなかった時代は、「話題にならないのが一番辛い」といわれていて、新聞やテレビ局への投書のほか、雑誌や新聞のコラムで取り上げられたということは、よい意見にしろ悪い意見にしろ、評価されたということの証明だったと聞きます。

 そういうなかでドラマを作れていたというのは、ある意味幸せだったのかもしれません。外部からの声によって揺らがない人なんて、いないですからね。全10話の連続ドラマを作る過程で、試行錯誤しながら作品を熟成させていく中、即座に受け手からの反応がどんどん入ってくるようになったというのが、最近のテレビドラマ事情の大きな変化だと思います。幸せか不幸かでいえば、辛い部分のほうが多いのかもしれないと思います。

吉之助 本当にそうですよね。

●現代ドラマで失われた、「余白」の時間

中町教授 あと、ドラマ自体の変化でいうと、“情報の質”が変わってきたなという印象はあります。第8回で話した通り、この30年間で、ドラマ1話の中に入れられる情報量はすさまじく多くなった。アメリカのドラマはもともとすごくテンポがよくて、登場人物の多さ、扱っている題材、複雑な人間関係などの情報を手際よく整理して1話完結の中で展開するドラマが多かったのですが、日本のドラマもそんな方向に向かっています。

吉之助 そういう大量の情報を視聴者にうまく伝える制作側の技術というのも、相当アップしたように感じますね。

中町教授 そうですね、そういった“詰め込み”の技術的な部分で成功していないと、多くの人を満足させるドラマにならないという。1990年代半ば頃のフジの月9では、“女の子の気持ちをしっかり見つめる良質なドラマ”が作られていたという話が第5回で出ていましたが、逆の言い方をすれば、「主人公の気持ちを追いかけていいければドラマだった」という幸せな時代だった、といういい方も可能なのかもしれません。

 だけど今は、登場人物の気持ちだけを追っていても、「だから何?」と思われてしまうという時代の変化がある。登場人物たちはみな社会の中で生きているわけで、そういった側面を伝えていかないと、ドラマとして物足りない、という状況になっているのではないでしょうか。

吉之助 それはつまり、ドラマというコンテンツの進化があったからこそ……なんですかね?

中町教授 進化といってもいいし、ただの変化かもしれませんね(笑)。ネット時代、SNS時代というのは、情報がすごく手に入りやすいので、一般人である私たちもすでにたくさんのことを知っているという時代です。昔の人に比べて、今の私たちは医者じゃなくても医療現場のことをなんとなく知っているし、事件の実態もなんとなく知っている。そういった時代状況のなかでドラマを作るとなると、さらに情報量を足したり、あるいはもっと踏み込んで、それまでのドラマに描かれている世界のさらに深い部分を組み込んでいかないといけない、という時代になっていると思います。

吉之助 邪道という人もいるでしょうが、今はもう、映画館に入る前にその映画の公式サイトを見て、なんとなく場面設定だけは頭に入れてから見に行くなんていうのも普通になっていますよね。ドラマも今や、スマホ片手に「3番手のこの子は誰だっけ?」なんてググりながら見たりしてるし。

中町教授 そうそう。そういう前提があるからこそ、作り手側もいろいろと工夫をしているんだと思います。ただ、情報量は多く詰め込んではいるけれども、45分や1時間というドラマの放送時間自体は変わらないので、結果として、ドラマの“余白”、余韻がなくなったということは大いにあると思います。常に登場人物が動いていないと、視聴者はすぐにスマホに目を移してしまいますしね。じっくりと素敵な横顔を見せてくれる……なんていう時間は、ドラマからはどんどん削られているのでしょう。

吉之助 確かに、『北の国から』みたいに、静寂や風景を丁寧に見せてくれていたドラマは確実に減りましたねえ。

中町教授 登場人物の行動をじっくりと見守り、気持ちに寄り添い、情景のなかに思いを確かめる、そんな感覚を生んでいたのは、近年ドラマからどんどん削られていった“余白部分”にあったことは間違いないですよね。それから、昔のドラマでは、起こった出来事に対して、それを登場人物が“受け止める”時間をすごく丁寧に描けていたけれど、今は、そんなに時間をかけてひとつひとつのことに思い悩んでいる時間はない。だから今のドラマでは、「ああ、あの人が好き。どうしよう……」と思い悩むんじゃなくて、「メールでこう書いてしまったけど、まずかったかな」「LINE既読になったのに、返しが遅い」なんていうふうに、描かれ方も否応なく変わってくるというか、何かとテンポアップしている。

吉之助 すぐにスマホで連絡が取れてしまうから、昔のドラマでは常識だった“すれ違い”も、そうそう起きませんしね(笑)。平成のこの30年の間に、日本人の“生きるテンポ”も速くなったということでしょうかね。

中町教授 そうですよね。自分を振り返っても、若いときよりも慌ただしく生きているような気がします(笑)。

●視聴者だけではなく、制作側も“テレビ離れ”

吉之助 ドラマの視聴方法にしてもそうですよね。昔のように、その時間を楽しみに、放送時間に間に合うように家に帰る……なんてスタイルはすっかり過去のものになってしまった。

中町教授 そういう意味では、私も完全なリアルタイム視聴からは離れてしまっています。連続ドラマも毎週見るのではなく、まとめて一気に見るというやり方が多くなってしまった。でも、あとでまとめて見られるからといって、あれこれたくさん見すぎると、結果として“見る感性”がすり減ってしまいそうな感覚があります。

吉之助 その感覚はよくわかります! テレビ東京の「ドラマ24」「ドラマ25」のような深夜のドラマ枠は確実に増えているし、BS、WOWOW、Amazonのオリジナル、Netflix、Hulu……チャンネル増加によってコンテンツの量が増えて、業界を疲弊させているような気がします。予算は変わらないのに制作本数だけ増えていって、結果、1本1本の予算がどんどん削られる。ビデオグラム(映像ソフト)でもお金を回収できなくなって、どんどん制作費が下がっていき、テレビ局が自社で作らずに制作会社に安い予算で番組を作らせている。現場も予算がない、俳優にかける予算もない、でも仕事はある、という状況でしょうか。

 僕はけっこう長く業界を見てきていますが、ギャラもそんなに上がらないし、役者の仕事の単価がどんどん下がってきて、現場は疲弊していくばかり、ということがずっと続いています。テレビ業界も今は全然人気がないから、AD希望者も昔に比べれば明らかに減っていますよ。みながYouTubeで自分で映像を作って発信できる時代だから、現場でADから下積みを経験する……なんてことに、今の若者は意味を感じないわけです。中町先生が教えておられる日大芸術学部でも、テレビ業界を目指そうと思って入学してくる学生さんは少ないんじゃないですか?

中町教授 そうですね、私の所属する放送学科でも、最近の学生からはテレビ業界に限らず「“動画”を作りたい」という声が聞かれます。“テレビ番組”としてではなく、もっと広い意味で“動画”。視聴者だけでなく、制作側でも“テレビ離れ”が進んでいる感じを受けます。

吉之助 芸能プロに入ってくる新人でも、そういう子が多いですよ。別に悪いことではなくて、進化というか、変化というか……。でも、全10回にわたって振り返ってきたこの平成の世もそうだったように、新しい才能は、以前とは違った形でその才能の花を咲かせていくのでしょう……というのは楽観的すぎますかね?(笑)

 以前、山下達郎さんがこう語るのを聞いたことがあります。「昔はいい曲ばかりだった、というのは間違い。質の悪い音楽は忘れ去られて、名曲だけが残っているからそう感じるだけだ」と。それって、ドラマもまったく一緒だと思います。昔も今も、いいドラマもダメなドラマもたくさんあって。それはどんな時代でも同じだと思う。

中町教授 そうですね。さて、これからの“令和”時代、どんな名ドラマが生まれるのか、これからもしっかり見届けていきたいと思います。
(構成=白井月子)

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