ルノー、日産へのTOBも取り沙汰…ルノー経営陣が日産乗り込み、西川社長退任説も

 日産自動車は5月17日、6月下旬に開催する定時株主総会へ向けた人事案を発表した。

 新しい取締役候補は11人。筆頭株主のルノーから経営トップ2人を迎え、日産の生え抜きと同数になった。残る7人は社外取締役で、全体の過半数を占める。

 ルノーからはジャンドミニク・スナール会長(日産取締役)が続投。新たにティエリー・ボロレCEO(最高経営責任者)が加わる。ボロレ氏の取締役就任はルノー側の強い要求で、これを日産が受け入れた。

 日産側は西川廣人社長兼CEO、山内康裕COO(最高執行責任者)の2人。5月16日付でCOOに就いた山内氏が新たに取締役となる。

 西川氏の続投に関しては、検討段階で「ゴーン前会長の不正を見過ごした責任を問う声が出た」(日産の元役員)という。

 新たな取締役候補を選ぶ「暫定指名・報酬諮問委員会」の井原慶子委員長(日産の社外取締役で新体制でも留任)は「不正の看過、検査不正、業績悪化について責任を問う声もあったが、経営の継続性を考えた」と述べた。「ルノー、三菱自動車とのアライアンス強化という面で(西川社長続投は)ふさわしい。刷新するのはリスクがある」(同)と判断したという。

 井原氏はボロレ氏が日産の取締役に就任することについて「日産の自立性を阻害しないか、十分に検討した。ボロレ氏は(日産の)代表権もなく、執行権もない。(ゴーン被告に権限が集中した)以前とはまったく違う」と説明した。

 西川氏の続投とボロレ氏の役員就任は、「日産・ルノーの妥協の産物」との見方が強い。「ギブ・アンド・テイク」と関係者は言う。日産はルノーとの交渉を担ってきた西川氏を交代させたくないと考え、ルノーに同氏の続投を承認してもらう代わりに、ボロレ氏を受け入れたというのだ。

 では、西川体制はいつまで続くのか。「2020年3月決算の中間決算がまとまる今年秋まで」と、ルノー及びフランス政府は考えているフシがある。2019年9月中間決算の業績がさらに悪化すれば、「西川社長の責任論が日産社内からも再び出てくる」(日産関係者)とみられているからだ。

 日産とルノーの提携協定には、ルノーから迎える取締役は日産の生え抜きを1人下回る「nマイナス1」というルールがある。ルノーの過度の経営干渉を防ぐ狙いだ。日産にとって対ルノーの「切り札のひとつ」なのに、今回の人事では適用を見送った。“来るべき日”に備えて力を温存したと前向きに評価できるかどうかは、今後の日産の経営方針の決定の過程で明らかになろう。

 井原氏は「スナール氏とボロレ氏からは、日産の業績回復が最優先で、しっかり支えていくと言及があった。問題ないと取締役会でも判断した」と強調したが、「そんなきれいごとではない」と冷ややかに見る向きが多い。

 常勤の取締役をルノーは2人確保した上、社外取締役に仏ミシュランタイヤ日本法人(日本ミシュランタイヤ)会長のベルナール・デルマス氏を推薦。日産はこの提案も飲んだ。ミシュランはスナールの出身企業でもある。

 一方、日産は現在の常勤監査役の永井素夫氏が社外取締役の候補になった。永井氏は、みずほ信託銀行の元副社長である。

 井原氏と豊田正和氏の社外取締役は続投。永井、井原、豊田の3氏を日産側とカウントすれば“日産関係者”は5人となる。ルノーは3人なので、数の上で有利となる、と日産社内では皮算用している。ちなみに、豊田氏は日本エネルギー経済研究所理事長で経済産業省OB。

 取締役会議長には新たに社外取締役となる木村康・JXTGホールディングス相談役(前経団連副会長)の就任が有力視されている。

 取締役会議長への就任を念頭に取締役に招請することを検討してきた榊原定征・前経団連会長は候補に残らなかった。榊原氏は日産のガバナンス改善特別委員会の共同委員長を務めたうえ、暫定指名・報酬諮問委員会の委員でもある。日産に会長職を廃止して取締役会議長のポストを新設するよう提言したガバナンス委の主要メンバーが、自らその役職に就くことを疑問視する声が社内外にあった。「お手盛り」と強く批判されてきた。

“ゴーン・チルドレン”の筆頭といわれてきた志賀俊之氏は、取締役を退任する。

 西川新体制は「統合」の火種を残したままスタートを切ることになる。6月の定時株主総会で西川氏への賛成票がどの程度になるかに関心が移った。「80%」を切るようなら、「株主は実質不信任を西川氏に突きつけた」との厳しい評価が下されることになる。

 日産は監査役設置会社から指名等設置会社に移行する。経営の執行と監督機能を分離し、再び“カルロス・ゴーン事件”が起きないようにする腹づもりだが、「ルノーvs.日産」のつばぜり合いが激化することは避けられない。

●日産vs.ルノー、これまでの経緯

 18年11月、カルロス・ゴーン日産元会長が逮捕されて以降、ルノー・日産の対立が表面化したが、その後、議論を一旦棚上げにして衝突を回避してきた。

 ところが、ルノー側が態度を一変。日産に経営統合を再提案した。ルノーの筆頭株主である仏政府の意向とされている。

 仏経済紙レゼコーは4月26日、ルノーが日産に要求している経営統合について、「両社が対等な関係でアジアの第三国に持ち株会社を設立する計画が浮上している」と報じた。「持ち株会社は東京、パリの双方の証券市場に上場。両社の株主が受け取る持ち株会社の株式比率は公平になるように定める。日産がルノーとの対等な関係を求めることに配慮して、ルノーの依頼を受けた金融機関がまとめた。ルノーの筆頭株主である仏政府は受け入れに前向き」という内容だ。

 日産は6月末の定時株主総会で指名委員会設置会社への移行を目指しており、西川氏の続投を中心とする新たな経営陣の人選の真っただ中だった。

 ルノーがあえて経営統合を提案したのは、43.4%を出資する大株主であることを日産側に強く再認識させる狙いがある。日産の新たな経営陣にも、将来の統合に向けた議論を常に念頭に置くよう、要求したものと受け止められた。

 日産は4月23日、ナンバー2のCOOに山内康裕CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)を昇格させるなどの執行役員人事を発表した。13年、志賀俊之取締役がCOOを退任し、空席となっていたCOOのポストが約5年ぶりに復活する。

 副COO職を新設し、仏ルノー出身のクリスチャン・ヴァンデンヘンデCQO(チーフ・クォリティー・オフィサー)が兼務する。いずれも5月16日付だ。

 山内氏は81年、国際基督教大学教養学部社会科学科を卒業し、日産に入社。購買部門の経験が長く、CCOとして生産や研究開発・購買の3部門を統括してきた。今後は世界規模のマーケティングや営業なども幅広く担当。ルノーの取締役も務めている。

 日産は17年9月、資格のない担当者による検査の不正が発覚した。18年9月、再発防止に向けた対策を発表。検査担当者の増員や新たな測定装置などを導入。今後6年間で約1800億円を投資する。今年度、約670人を工場の検査関係で採用する計画も明らかにした。このとき記者会見したのが山内氏だ。「コスト管理と品質保証の優先順位が正しく判断されていなかった」と述べた。

 日本事業担当の星野朝子氏、渉外担当の川口均氏、開発担当の中畔邦雄氏の3人の専務執行役員を副社長に昇格させる。事業の立て直しを担うポスト「パフォーマンス・リカバリー」を新設し、生産技術担当の関潤氏を専務執行役員のまま専任させる。

 星野、川口、関の3氏と、中国担当の内田誠、北米担当のホセ・ルイス・バルスの両専務執行役員を最高意思決定機関のエグゼクティブ・コミッティ(EC)のメンバーに新たに加える。

 星野氏の夫は星野リゾートの星野佳路社長。朝子氏は旧日本債券信用銀行出身のマーケティングのプロで、ゴーン前会長がスカウトして専務執行役員に大抜擢した。

 川口氏はゴーン追放を仕掛けた中心人物のひとりとされている。菅義偉官房長官との太いパイプを持つ。

 日本・アジア・オセアニア事業を担当するダニエル・スキラッチ副社長は、5月15日付で退任した。今年1月の電気自動車(EV)リーフの改良型を発表する会見でスピーチを任されるなど、世界に向けた「日産の顔」であった。スキラッチ氏はゴーン派ではないが、混乱続きの日産に見切りをつけたとみられている。

 日産とルノーの合意文書には「ルノーは日産のCOO以上のポストの人材を指名できる」とある。4月23日の取締役会で人事案の議論にテレビ電話方式で参加したルノーのジャンドミニク・スナール会長から「山内氏のCOO就任について異論は出なかった」(日産幹部)とされる。

 その一方で、スナール氏は4月12日、パリで日産の西川社長に経営統合を打診したと伝えられている。提案と合わせてボロレ氏を日産の取締役にすることや、ルノー出身者をCOO以上のポストに就任させるよう求めたとされている。合併推進派を複数、日産の経営陣に送り込み、日産の取締役会で議論をリードしていくとの思惑がある。

 日産とルノーがぶら下がる持ち株会社のトップ(会長兼CEOが有力)の椅子には、スナール会長が座る案が現地では報道された。

●日産の株価が急落

 日産の株価が下げ足を速め、連日の安値更新となった。5月15日には一時、8%安で800円割れとなった。一時、772.8円と年初来安値をつけた。17日の終値は780.4円。

 5月第3週末にはゴーン元会長が逮捕されて半年を迎えたが、逮捕当日(18年11月19日)の終値は1005.5円。5月15日現在で23.1%安だ。同じ期間でみるとトヨタは1.8%安、本田技研工業(ホンダ)は13.2%安で、日産の下げが突出している。

 日産の20年3月期決算の連結純利益が46.7%の減益。トヨタは19.5%増益でホンダも8.9%増益を予想している。収益格差が株価に反映されている、とアナリストは分析する。

 北米販売の不振、ゴーンの拡大路線のツケ、19年3月期の営業利益が10年ぶりにルノーのそれを下回ったなど、ネガティブな報道が相次いだ。

 株価急落のもうひとつの原因が減配(前期57円から今期40円に減らす)だ。過去には、会社の実力を上回る高い配当を実施してきた。これはゴーン体制下、配当金は43.4%の大株主のルノーへの貢ぎ物という側面があった。ルノーvs.日産の対立が激化すれば、今後も減配の可能性がある。

 ただ、日産の株価がこれ以上下がると、「ルノーによるTOB(株式公開買い付け)の動きが出てくる」(パリ在住の自動車アナリスト)という見方もあるため、注視し続ける必要がある。
(文=編集部)

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