「株価は近い将来、大暴落します。だから保有している株は手放すべきです」

 こう大胆な提言をするのが、『いま持っている株は手放しなさい!』(KADOKAWA)の著者で経済アナリストの塚澤健二氏だ。

2012年12月に第2次安倍晋三内閣が誕生して以来、日経平均株価は同年12月末の1万395円から右肩上がりで推移し、18年10月2日には2万4270円と27年ぶりの高値をつけた。

 こうした株価の推移を根拠として、政府や新聞報道は、あたかも企業業績が回復しデフレ不況から史上空前の好景気へと転じているかのように伝えている。しかし、それは果たして事実なのだろうか。

「たとえば昨年10月2日の日経平均株価について、新聞報道では、米国経済の強さが意識されてドル高が進行、それにより円安の恩恵を受ける輸出関連株を中心に全面高になったという分析がなされています。しかし、こうした分析は間違っていますし、米国経済が好調だというのも間違いで、もはや株価は実体経済とは乖離し、これまでのような経済学や常識が通用しなくなっているのです。それは、日経平均株価を動かしているのは『外国の人たち』だからです」(塚澤氏)

 塚澤氏は理系出身のアナリスト第1号で、1984年に北海道大学工学部を卒業し、日興リサーチセンターに入社。
その後も、ジャーデンフレミング証券、JPモルガン証券を渡り歩き、トップクラスのファンダメンタルズアナリストとして活躍していた。

 このとき、塚澤氏は膨大な資料を詳細に分析し、そこから株、為替、コモディティには共通した法則が存在することに気づいたという。そして、「株式時価総額」と「有効求人倍率」など、一見するとあまり関係ないようなデータの推移などが連動することを見つけ出し、相場の未来を予測できる独自の理論「T-Model」を完成させた。

「T-Model」とは「Tsukazawa」の頭文字を取って命名したが、そこには「Time(時間、タイミング)」「Theory(斬新な理論)」「Truth(真実の探求)」の3つの「T」も含まれているという。

 そして、「本物のプロフェッショナルによる運用の時代」を予期した塚澤氏は07年10月、投資顧問会社を設立して独立。「T-Model」を改良し、相場をある種の“エネルギー”としてとらえ、物理学を応用して3次元で相場を分析する「T2(T-Trading)-Model」を開発した。
今では株式、債券、原油、金などの市場予測で83%の的中率を誇っている。

●日銀が抱える債務超過のリスク

 塚澤氏によると、第2次安倍内閣誕生以降、日経平均株価が右肩上がりで推移してきた要因は、日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF/18年第3四半期末現在で運用資産総額150兆6630億円)による政策的な株の買い支えと、“ハゲタカ”と呼ばれる外国人投資家の投資行動にあるという。

「第2次安倍内閣になってからGPIFは運用基準を見直し、国内債の比率を62%から35%まで引き下げ、国内株を25%まで取得できるようにしました。日銀も年間6兆円の上場投資信託(ETF)を取得し、日経平均株価を下支えしてきました。

 しかし、GPIFは17年度末に国内株の運用比率の目安である25%を突破。18年度には国内株の保有総額は40兆円を超え、もはや国内の株を買えないような状態になっています。
GPIFは“株価押し上げ部隊”から“押し下げ部隊”へと変化してしまったのです。日銀も自己資本8兆円をはるかに超える24兆円規模のETFを抱え、株が下落した場合には債務超過に陥る大きなリスクを抱え込んでしまいました」(同)

 証券市場の実質的なプレーヤーは、先物取引の7割を占める外国人投機筋。1989年以降、日本の証券市場で金融先物取引が行われるようになると、株式の実物市場でも頭角を現し、先物売りと現物買いをセットで取引し、その差額で利益を得る裁定取引で大きな利益を得てきた。

「裁定取引の決済が終わっていない現物取引の残高を示す『裁定買い残』などのデータを見ると、外国人の投資の動向がわかります。彼らが現物を大量に買えば、株価が上がるのは当然です」(同)

 そんな彼らが今度は逆に売りに転じれば、日本の株式市場はひとたまりもない。

「裁定買い残から見ると、彼らは日経平均株価の現在の実力は8500円程度だと見ていると思われます。
日銀は株価が1万8400円になれば含み益が吹っ飛び、1万7700円で赤字に転落、1万1700円で債務超過に陥ります。彼らがもし日銀に圧力をかける目的であれば、まずは1万8400円をターゲットにし、これが崩れれば1万7700円、最後は1万1700円を狙って仕掛けてくるのではないでしょうか」(同)

●未曾有の金融危機でリストラ加速も

 株の大暴落は、別の視点からも分析することができる。経済や相場を予測するために大きな参考となるのは、現状が過去のどの時点と似ているかを見ることだ。

「現状をよく見てみると、中国景気の減速懸念が火種となって原油安やブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)不安を引き起こした時期と似ています。いわゆるチャイナショックです。日本は『成長社会』が終わり『成熟社会』になったといわれていますが、相変わらず先行き不透明で不安定な世の中のままです。
さまざまな経済指標やデータを『T-Model』で分析してみると、2020年以降にかつてないほどの金融危機が起こる可能性がある。それに伴って、株式相場の大暴落が必ず起きます」(同)

 しかし、多くの日本人は、近い将来必ずやってくる金融危機に対してあまりにも無警戒だ。それは、フェイクニュースや偏向報道、統計不正などにより、「都合の悪い真実」はきちんと私たちに届いていないからだという。

 国の経済活動の指標となる国内総生産(GDP)統計にしても、推測数字からの計算のため、発表のたびに「数字がおかしい」「なんとでも加工できる」「お粗末だ」と指摘する声が後を絶たない。逆に、事実を伝える報道があっても、その裏を読み解く力がなければ、真逆の結論にミスリードされる恐れすらある。

 そんななかで、塚澤氏は政府統計のなかで「景気ウォッチャー調査」が唯一信頼できる統計だという。
これは日本の12地域の小売店やサービス産業など景気に敏感な職種を対象に2000人にインタビューし、その結果を集計、分析したもので、毎月1回内閣府が発表する。

「この統計を読むにもコツのようなものが必要なのですが、世界的な金融危機が到来することを読み解くことができます。しかも、昨年10月頃から日経平均株価は急落し、株価と実体経済の乖離が解消しつつある。このまま実体経済が悪化していけば、金融危機が到来するのはもうすぐです。そして、金融危機となれば、企業は人員整理のために首切りを加速します」(同)

 そのため、「自分は株式投資とは関係ないから」と高をくくっていてはいけない。塚澤氏は「ボーッと生きていてはいけません。レッツ・シンクです。ぜひ、自分で考える力を身につけてほしいです」と警鐘を鳴らす。

 統計や報道がどうゆがめられ、フェイク経済がつくられているのか。日本の金融市場にはどのような危機が迫っているのか。その真相を知るために、ぜひ本書を一読してほしい。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)