ライブレポは追体験のため

「なぜつまらないのか?」と、アイドルのライブレポがつまらないことが前提になってしまっていますが、もちろんこれは僕の感想なので、「全然そんなことねーよ! バカ!」っていう方がいたらすみません。あと、「アイドルのライブレポ」と一括りにしていますが、正確には商業媒体のライブレポについての話です。


 ファンの方がツイッターとかで書いてるライブの感想とかは凄く面白いと思うんです。自分が行ったライブについて、その後、検索をすると、「そんなところを観てる方がいるんだなあ、全然気付かなかった」とか、「そんな見方があるとは思いもよらなかったけど確かに!」みたいな目から鱗の感想が散見されて、とっても面白いです。
 しかし、商業媒体に書かれたライブレポでは、そのように思うことがあまりなくて。なんというか、ただ起こったことをそのまま書いてるだけというか……僕はライブレポを読むのって、そのときに盛り上がって感動した気持ちの追体験をしたいからなんですが、それが全くできないんですよね。もちろん、ライブレポを必要としているのは、そのライブに行った方だけではなく、そこに行きたかったけど行けなかった方も含まれるので、追体験云々より、いかにその場で起きたことを詳しく記述しているか、ということも重要なのかもしれません。

 ただし、単にライブで起きたことが正確に記述されているだけだと、それが読み物として面白いのだろうか、と思うんです。

例えば、スポーツの試合だったり、プロレスの試合のレポだったりした場合、必然的に、最終的な勝敗を決するまでの物語がそこにあるので、そこに至るまでの過程だけが書き綴られてあっても面白いかもしれません。
 しかし、音楽ライブって要は予定されていたセットリスト通りに進んでいくのみなので、そこにわかりやすい物語は存在しません。もちろん、そのライブの、前後のライブを含む一連の流れを物語風に運営サイドが演出している場合もあります。また、ある一つのライブだけとってみても、ちょっとしたメンバー間のやりとりなんかから物語を見出すこともできるかもしれません。でも、それはやっぱりニッチな見方で、スポーツなどに代表される分かりやすい物語と同様な、自明の物語として活字化するのは容易ではありません。だから、ライブレポを面白く書くというのは、はなから不利な作業だとは思います。

 では、ツイッターなどのライブの感想はなぜ面白いのか。それは追体験ができるからなんですが、なぜ商業媒体のライブレポでは追体験ができず、ツイッターではできるのか。それはゲスト席で観てるか、一般席で観てるか、の違いではないでしょうか。
 ゲスト席で観る場合、基本周囲に気を遣って、おとなしく観ないといけない雰囲気です。サイリウムをブンブン振るワケにはいかず、拍手もおとなしめ。コールもできないし、立って鑑賞なんてもってのほかです。

観やすいかもしれませんが、どうしたって気持ちは、一般席で観るよりも盛り上がりません。そのような場所から観たライブレポですから、どうしても客観的な記述になってしまいます。このライブのこのタイミングでこんな風に盛り上がって、こんな感情が喚起されて、みたいな話は、少なくとも自身が体験したこととして書くのは至難の業です。

ゲスト席からだと共感が得られない

 これが、他の音楽ライブだったら、まだ共感の余地があるかもしれません。アイドルのライブって盛り上がり方が特殊なので、普通のライブよりも一般席とゲスト席での客の振る舞いにおいて、乖離が激しいと思うんです。だからこそ、ゲスト席から書かれたレポに、より違和感を覚えてしまうのかもしれませんが、普通のアーティストだったり、バンドだったりでは、一般席とゲスト席で、そこまでの環境の違いが生じないため、ライブレポにおいてもそこまで違和感は生じないんじゃないでしょうか。


 いや、ゲスト席でも利点はあります。例えばスタンディングの会場だったりした場合、必ずしも一般席から全てが観られるとは限りません。前の人の頭で、観られないシーンなんかも出てくるかもしれません。そんな点においては、確かに二階のゲスト席の方が、確実に全体を見渡すことができるので、レポを書く上でプラスかもしれません。でも、やっぱりレポって正確さ以上にその時の感情を思い出させる、共有できる熱量だと思うんですよね。なぜなら、前述したように、そんな熱量がないと文章として面白くないから。

 まあ、ゲスト席だけでなく、そもそもライブなんて観る場所によって見えるものが全然違います。凄い良かったというライブだとしても、たまたま自分の隣が自分とは違う盛り上がりをする人だったりしますと、楽しめなかったなんてこともあるでしょう。だから、そもそも一つのライブで同じ感情が共有されてるなんてことはありません。となると、ライブレポを読んで、感動の追体験をしたい、というの自体が土台無理な相談なのかもしれません。とはいえ、やっぱり少なくともゲスト席からだと、共感を得る文章を生み出すのはますますもって難しくなってしまうんじゃないでしょうか。
 そのライブをゲスト席で観ている、というレポを書くというデメリットをきちんと認識した上で、観て、そして書くならともかく、「◯◯のライブレポを書けばいいんですか? じゃあ、ゲスト枠取っておいてくださ~い」と何の迷いもなく言えてしまうライターさんでは、なかなか難しい作業だと思います。

 ライブレポをウリとする某アイドル雑誌が、月刊から隔月になり、なかなか苦戦を強いられているという話を聞きますが、苦戦を強いられる一因はそんな理由もあるんじゃないかな、と。ウェブサイトの「ナタリー」みたいに、とにかく速報性だけならピカイチ、という媒体ならともかく、ライブがあった日から時には一ヶ月二ヶ月後に情報を載せる雑誌媒体において、ただ起きた出来事を書いていくだけでは、それこそ単なる写真のオマケ以外にはなりえません。
 というわけで、ライブレポは、できたら一般席で観て書いてもらえるといいのになあ、と。それが無理ならせめて「ゲスト席で観てレポを書く」という行為に引け目を感じた上で書いてもらえるといいのになあ、とアイドルライターさんには思う次第です。

(文・橋上トオル)

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