食材の正しい表示は嬉しいけれど…

 昨年大騒ぎになり、国会においても取り沙汰された食品偽装問題。使用していない高級食材をメニューには記載し、一部の老舗レストランやホテルが全面的に謝罪するハメになったことは記憶に新しい。

これを受け、消費者庁が適正食材表示についてのガイドラインを作成するため昨年12月より議論を重ねている。しかし…このガイドラインが業界的には納得しがたいものらしい。

 消費者庁としては消費者団体の突き上げや主張によって「正確な名称、誰もが納得できる正しい表示をするべき」として進めようとしている。例えば……
●パック入りのジュースを「搾りたてフレッシュジュース」と表示不可。搾りたてではないのだから。ちなみに「フレッシュ」はギリギリOK。


●加工したプレス肉を「ステーキ」と表示するな。1枚肉を焼いた料理が「ステーキ」。
●ロブスターを「伊勢エビ」と表示するな。もともと異なる種の海老だから。
●冷凍マグロの刺身を「鮮魚」と表示するな。あまつさえ「漁港直送」などと新鮮さを売りにしてはならない。

 と、様々な議論を重ねてガイドライン作りに励んでいる。ここまでは納得できる。

 しかし、今まで慣れ親しんできているお弁当屋の「シャケ弁」を、サケを使用していないから表示不可と言うのは如何だろうか? たしかに「シャケ弁」のサケに主に使われているのは「サーモントラウト(ニジマス)」であり、一般的な「白鮭(シロザケ)」を使用している弁当屋は数少ないだろう。コンビニ弁当やホカ弁では、そのほとんどが「サーモントラウト」であろう。

サーモントラウト弁の違和感

 しかしだ…。日本語においてサケとマスの違いは、実に曖昧な基準なのだ。

英語においては「サーモン」「トラウト」に区別されているサケとマスだが、英語圏では「サーモン」は海に下り海洋で生活するものを言い「トラウト」は河川で生活し一生を過ごすものを言う。日本の河川は細く小さく狭いため、河川での生存競争に敗れたものは海に下るのである。ヤマメやアマゴといった陸封されたマス科の魚が、生存するために海に下り大きく育ったものを「サクラマス」と呼ぶ。(岐阜や愛知を流れる長良川では、海に下ったアマゴを「サツキマス」と呼び珍重している)。
 釣りの大会としてはハワイ沖でのマーリンのトローリングに匹敵する世界的な規模を誇り、日本人の釣り自慢たちもこぞって参加するカナダのキングサーモン釣りは有名だが、このキングサーモンも日本名だとマスノスケだ。
 青森県の十和田湖のヒメマスをご存知の方もいらっしゃるだろうが、このヒメマスが海に下ると紅ザケになる。
これだけは海と川とではサケとマスをはっきり区別しているのだ。しかしそれも実に曖昧。他にも缶詰でポピョラーなカラフトマスだが、海で育っているものなのにワザワザ「鱒(マス)」呼ばわりだし。

 だから「シャケ弁」はこのままでいいんじゃないの? もう慣れちゃってるし。表示変更しなくても、怒る人もいない気がしますけどね。
 ちなみに「サーモントラウト」は、英語名だと「レインボートラウト」。

河川育ちのニジマスを海で養殖しているものを「サーモントラウト」と呼んでいます。海で育てると個体も大きくなるし、加工しやすい大きさに成長するのでお値段もお手頃なのかも。もちろん品種改良もされている種類だから、ニジマスの原種とは離れてるんでしょう。
 もうひとつ、ちなみにニジマスが海に降りて育ったものはアメリカでは「スティールヘッド」と呼びます。日本では元々、自然界にニジマスがいなかったので海に下ったものを呼ぶ言葉がないようですが……。

(文・旅人世五郎)

オススメ食材:『お弁当サイズの肉厚ふっくら銀鮭切り落し2kg [訳あり](食探七福神)