元少年A『絶歌』よんでみた:ロマン優光連載33

元少年A『絶歌』よんでみた:ロマン優光連載33
『絶歌』元少年A(太田出版)

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第33回 元少年A『絶歌』よんでみた

 なんといえば良いのだろう。どうでもいいような本だ。「少年Aが書いた本」という資料的な価値しかないだろう。彼が書いたという以上の意味はない。ここにあるのは、理解を絶するような狂人の告白の書でもなく、血が滲むような懺悔録でもなく、凡庸な薄いサブカルさんが書いた作品以前の出来の自己表現風の長文でしかない。
 一読して思ったことは、「彼は自分のカッコ悪いところは未だに書けないんだな」というところだ。彼は自分の犯したおぞましい出来事や卑劣な行為については語れる。それは「物語」として成立するからだろう。劇的エピソードは良いものも悪いものも語るけれど、日常的生活については詳細に語られることはない。そこにある些細な違和感などのほうが彼自身を正確に伝えるものだろうに。彼は自己表現の欲に負けて物語を綴ろうとしてしまっている。
 大藪春彦の引用をはじめとした薄っぺらい引用、薄っぺらい解釈。ほんとに凡庸で薄いサブカルさんそのものだ。彼がこの本で語る何らかの解釈全てが、実体験を通して生まれてきたというようなものではなく、どこかからの引用でしかない。そこは「懲役13年」のころから変わってないとも言えるかもしれないが。

少年Aは普通の人になってしまった

 変な話なのだが、私は医療少年院での治療はかなり効果があったのではないかという風に感じている。全編を通して、彼は内側から溢れてきた言葉を書き連ねているというより、世間に流布されている「少年A」という物語を必死になって演じようとしているようにしか読めない。彼は治療の成果によって、あの時の自分の感覚がよくわからなくなってるのではないのだろうか? 病的犯罪者の告白というものは冤罪を訴えようが、自己弁護に終始しようが、開き直ったものであろうが、反省したふりをしたものであろうが、どこかしらにその理解しがたい世界観に違和感・嫌悪感を感じるもの(しかも、たいてい些細な部分)があるのだが、この本には特にそういうところがないのだ。(性的偏向については代入される対象がおかしいだけで数式は同じなので、対象がいくら理解できなくても根本的に理解できないというわけではない。) 普通の人が普通に想像したような話が続くだけである。あの時の感覚を共有してないから、それすら流布してる物語から引用してこざるを得ないのではないだろうか。治療の結果、今の少年Aは彼の憧れた怪物なんかではない、普通の人になってしまったのではないだろうか。もしそうならば、彼自身にとっては不幸なことなのかもしれないけど、社会にとっては有り難いことだ。
 普通の人間だから罪の重さを感じて開き直ることもできないし、自ら死を選ぶこともできない。普通の人間だからこそ、日常のツラさの中で磨耗していき、反省を第一に生きていくこともできないし、誘惑にまけて本を書いてしまうし、自己表現をしてしまうし、作品以前のものを書いてしまう。永山則夫のように作品として評価できるものを書けていたら何か違ってたんでしょうかね? まあ、作品の評価があったところで永山則夫はその罪によって死刑になるべくしてなったのだけど。
 色んな意味で彼が少年であったがゆえに死刑にならなかったのは不幸だったのだと思う。社会にも、なりより少年自身にも。せめて、一生隔離されて世間の目が一切届かないところに幽閉されていればよかったのかもしれない。が、日本の法律ではそんなものないし、仕方のないことだ。彼は社会生活の中で疲弊し逃げ続けなければならないのだろう。それは苦しいことだと思うし、かわいそうだなとは思う。かわいそうだとは思うけど、彼を救うべきだとは思えない。それだけのことをしてしまったのだし、仕方ないのないことだ。そう、それくらいは仕方ない。ボタンを一つ掛け違えなければ、彼も子供のころ痛かった平凡なサブカルさんで一生過ごせたかもしれない。しかし、それを考えても詮無きことだ。ボタンは掛け間違ってしまったのだから。
 この本が出版されて、一つ良いことがあるとしたら、内容のくだらなさによって少年Aの神格化というものが消え去るかもしれないということだけだ。


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