フィナンシャル・タイムズ記者が見た「GDP統計には表れない日本社会の豊かさ」とは

フィナンシャル・タイムズ記者が見た「GDP統計には表れない日本社会の豊かさ」とは

『幻想の経済成長』という本書のタイトルからは、定番の成長指標であるGDP統計を真っ向から否定している印象を受けるが、そうではない。現代人のたしなみとして、GDP統計への健全な接し方を説いている著作といった方がよい。


 GDP統計が完璧な成長指標でないとする著者の議論は明快である。第一に、GDPの拡大要因には、公害、犯罪、長時間労働、軍事費など、容易には正当化できないものが少なくない。第二に、GDPの成長と不平等の拡大が同時に進行する可能性がある。第三に、GDP統計で捕捉されない地下経済の規模が大きい。第四に、GDPの成長が人々の幸福度を高めるわけではない。第五に、GDP統計が比較的正確に計測しているフローではなく、うまく測定されていないストックこそが幸福度に大きな影響を及ぼす。


 明快な批判書は時に退屈な読書となるが、そうならないのが本書の魅力である。すべての場面は、著者の綿密な調査と取材に基づきながら、ユーモアを交えた筆致で描かれている。


 著者が日本で丁寧な取材を続けてきたことも、日本の読者をいっそうひきつけている。GDP統計の冴えない数字をもって日本経済が「失われた10年」とこき下ろされていた21世紀初頭、著者はフィナンシャル・タイムズの記者として東京に派遣された。当時、GDP統計には表れない日本社会の豊かさに気づかされたことが、本書を執筆するきっかけともなった。


 日本人への取材も興味深い。たとえば、最近亡くなった加藤典洋は、ハリウッド映画『スピード』が黒澤明の原案で、成長の減速が大惨事を引き起こしかねないことが隠れたテーマであったと著者に語っている。


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