「こんな馬鹿に殺されてたまるものか」戦争態勢のドイツにいた悪童たちの物語

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。


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 祖国に身を捧げろって。ははっ、まっぴらごめんだ。


「こんな馬鹿に殺されてたまるものか」戦争態勢のドイツにいた悪童たちの物語

 佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』は第二次世界大戦下のドイツを舞台とする戦争小説である。戦争とは国家と個人の関係が端的な形で表れる事態のことだ。人間らしく生きることが許されない世界のくだらなさが、最も自由を欲する年代である若者の視点から描かれていく。


 物語は一九三九年のハンブルクから始まる。戦時色が強まる中、十五歳のエドゥアルト(エディ)・フォスは仲間たちと享楽の日々を送っていた。軍需会社経営者を父に持つ者にとっては兵役も他人事だ。邸では連日宴を開き、頽廃音楽であるジャズに耽溺する。彼らスウィング・ボーイズが背後から迫る不吉な足音に気づかなかったのは、ちょっとだけボリュームを上げすぎたせいなのかもしれない。


 ヒトラー・ユーゲントのダサい制服をからかい、ゲシュタポの手入れも鼻であしらう。戦争態勢のドイツにそんな悪童たちが存在したということに読者は驚嘆するだろう。小説の前半は、背景で流されているスウィングの調べに似て陽気だが、だからこそ物語が暗転した後の落差が効いてくるのである。


 無敵だったはずのエディがついに戦争という事態に呑み込まれてからが本書の真骨頂である。建築現場で外国から連れてこられた囚人たちが安易に殺されていくのを見て、エディは呆れる。貴重な労働力を無意味に殺すなんて、資本主義的に間違っている。あまりの無意味さに彼は肚(はら)を括る。こんな馬鹿に殺されてたまるものかと。


 残酷な現実の中で、エディは冷徹さを保ち続ける。泣いている場合じゃない。二つの眼は世界の愚かさを見届けるために使うのだ。


(徹夜本研究会/週刊文春 2019年6月20日号)


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