『毒戦 BELIEVER』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

“死ぬ”ってどういうことなのかなぁ? と、最近よく考える。PCやスマホが壊れた時みたいに、突然ブラックアウト。あとはただ無、なんじゃないだろうか。そして、自分だけいなくなった世界が相変わらず続いていく……。


 死んだ後も残る“魂”なんて、じつは、ないんじゃないかな?


 一方で、親しかった人やお世話になった方が亡くなり、その人のことを思いだす時、わたしの中にはその存在がまざまざとよみがえる。それは、その人がもう消えてしまったとは思えないほどリアルな、ほら、すぐそこにいて、その角を曲がればまた会えそうな、じつに生き生きとした記憶なのだ。


 先日ふと、もしかして“魂”とは、死者本人の持ち物じゃなく、そんなふうに思いだしてくれる誰かのキラキラした“記憶”のことかもしれないぞ、と考えた。他者による追憶と悲しみこそ“魂”なのかも、と。それなら、より一層、折に触れ懐かしく、親しみを込めて、思い返そうか。


 さて、この映画は、巨大麻薬組織と麻薬取締官(マトリ)の闘いを描く、残酷でセンチメンタルな韓国ノワールなのだ。


『毒戦 BELIEVER』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

 麻薬取締官ウォノは、誰も正体を知らない組織のボス、通称“イ先生”を挙げるため、組織の末端の青年ラクと共に潜入捜査する。組織の上層部は個性的かつ常軌を逸したメンツばかり。この中のいったい誰が麻薬王“イ先生”なんだっ!?


 息詰まる攻防戦が続く。同時に、謎の切なさが、最初から最後まで、やまないすすり泣きみたいにスクリーンを覆い尽くしてもいる。その正体は、登場人物の誰かが思い続けた、とある死者の“記憶”だった……。


 ラストでようやく、誰の“魂”が誰に追憶されていたのかが明かされる。そして、新たな死者と、その人を追憶せずにはいられなくなった誰かが、また現れて……。


 寂しく不思議な余韻が残る、極上の犯罪映画でした。


INFORMATION


『毒戦 BELIEVER』
10月4日よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
https://gaga.ne.jp/dokusen/


(桜庭 一樹/週刊文春 2019年10月10日号)


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