ニューヨークのラグジュアリーキャリアの一日を追う連載7回目は、ミュージカル・シンガーの西田玲美奈さん。

きっとNYを訪れる楽しみのひとつとして、ミュージカル鑑賞をあげる人は多いことでしょう。

本場の素晴らしい音楽とダンスに包まれ、心弾む時間を過ごせば、日常の疲れも吹き飛んでしまいそう。そして夢の余韻は帰国してもしばらく続いたりして。

トニー賞受賞ミュージカル『アベニューQ』に出演し、NYを中心に活躍するミュージカル・シンガー、玲美奈さんもミュージカルに取り憑かれた、そのひとり。24時間ミュージカルが頭から離れないという彼女の一日とは?

西田玲美奈(にしだ・れみな)
◇ 職業:ミュージカル・シンガー/ボイストレーナー
◇ 住まい:クィーンズ、ロングアイランドシティ
◇ 家族構成:ソフトウェア会社勤務の、アメリカ人の夫と2人暮らし

6:00am

起床。夫のコーヒーをいれ、「詰めるだけ(笑)」という自分のお弁当を用意。夕食の残りや週末にストックしておいた、ひじき、照り焼き、卵などの和食中心のおかずです。

『英語でかんたん和食』という、海外でも手に入る食材を代用し和食を簡単につくるレシピ本をよく参考にしているとか。

7:00am

バナナと、アーモンドミルクかココナツミルクを入れたコーヒーを飲んでから、ジョギングへ。ココナツミルクを入れるとコーヒーに自然な甘みが加わるとか。

イーストリバー沿いはランナーがたくさんいるので気分も乗りやすく、一日置きに走っています。定番はHunters Point South Parkを一周する45分のコース。『lululemon』のウェアで走るのがお気に入り。

7:45am

シャワーを浴び、5分でメイク。大急ぎで支度をします。普段着は黒が多く、紺、白、赤のトリコロールカラーも好きだそう。NYは部屋が狭いせいもあり、ミニマリストに徹して、ワードローブは最小限。それでも大好きな帽子だけはつい増えてしまうそう。

8:30am

自宅を出発し、地下鉄と電車を乗り継ぎコネチカット州へ。

10:30am

グリニッジ国際学園に到着。バイリンガル教育の幼稚園で、ミュージカルのクラスを担当しています。

日によってはアフタークラス(放課後のお稽古)も教えます。ひとクラス30分間、全部で3クラスを日本語と英語で指導。ゲームを交えた授業は、英語力だけでなく、コミュニケーション力を高め、プレゼンテーション能力も高めるのだとか。

教え子のなかには、タレントショーやジュニアミスコンテストに参加した子、ミュージカル『王様と私』で子役デビューした子もいるそう。

12:00pm

クラスの片付けを済ませ、園児たちとお弁当タイム。

1:00pm

マンハッタンで個人レッスンを行うため、コネチカットを出発。

3:00pm

ブロードウェイのスタジオ『Shelter Studio』で個人レッスン。レンタル料も手ごろで声の響きが良く、なによりアクセスが良いのでお気に入り。指導の際は歯の模型を持参し、英語の発音矯正を行います。

5:40pm

自宅の一階にあるスーパーで買い物を済ませ、帰宅。

すぐに夕食の準備をはじめます。この時間に帰宅できる日は、ストックを使わず一から調理しています。

年に3回はブロードウェイ俳優に人気の『WHOLE30』を実施。砂糖、穀類、豆類、乳製品、アルコール、食品添加物を摂らず、甘味は100%フルーツジュースを使う、30日間のクレンズダイエットのようなもの。

レシピ通りにつくると美味しく、夫もお気に入り。糖分を欲する衝動が減り、体調や肌が改善。

贅肉も取れるそう。

6:40pm

在宅勤務の夫と夕食。洗い物は彼が担当。

7:40pm

翌日のクラスの準備。できれば8時までにパソコンの蓋を閉めたい、という玲美奈さん。選曲に一番、時間がかかるのだとか。

8:00pm

ピアノの練習を開始。一時間ほどさらいます。初見演奏の練習として、初級の楽譜で練習することも。日向敏文が音楽を担当したドラマ『愛という名のもとに』の曲が好き。『ぷりんと楽譜』というサイトを使えば海外でも日本の楽譜を入手可能。

レッスンでは、ショパンなどのクラシックを習っています。

9:00pm

シャワーを浴びて、韓国製のシートパックでスペシャルケア。英語の勉強も兼ねて、ペーパーバックを読みます。現在は自閉症の少年が主人公の、舞台化されたMark Haddon著『The Curious Incident of the Dog in the Night -Time』を読書中。

10:00pm

就寝。夜に携帯などのスクリーンの光を見ると夜中に目が覚めてしまうことも。20時以降はナイトシフトにセットし、睡眠の質にこだわっています。

本場で日本人が活躍する日も近い。理解ある指導者が必要

日本の音大を卒業後、劇団四季へ入団。その後、師匠の「やるなら本場へ行け」という言葉に従い、ミュージカル科のあるペンシルバニア州立大学へ進学。入学するやいなや、そのレベルの高さに驚愕したという玲美奈さん。

「1年目の学生でさえ表現力、歌唱力において、日本のプロ団体より上でした」

歴史が浅く、ほかのエンターテイメントにくらべて敷居が高い日本のミュージカル。そのレベルを痛感した瞬間でした。

最初に日本育ちのシンガーがぶつかる「言語」という壁。ミュージカル科に外国人がひとりという環境にあった玲美奈さんは、台湾人から英語を習いました。

ノンネイティブゆえにできないところ理解してくれる先生によって、大学の3年間で英語がかなり上達したと言います。ネイティブの先生では、英語と日本語という距離の遠さがわからない。それは英語だけでなく、音楽にも言えることだと語ります。

「アメリカ人はじめ、たくさんの先生に師事しましたが、一番の師匠と言えるのは、日本人である島村武男先生。先生自身、ドイツで活躍された方ですが、自分が海外で苦労されたからこそ理解できる、わたしの日本的な発声を欧米に合うように変えてくれました」

日曜日以外は日本語に触れず、独り言も英語で。そんな努力が功を奏し、いまではNYで数少ない「日本育ち」のバイリンガル・シンガーとして活躍する玲美奈さん。

世界の舞台において、シンガーの日本人の活躍はダンサーにくらべて、非常に遅れているという彼女。そんな貴重な日本人シンガーとして自身も本場の舞台に立つ傍ら、現在は指導者として未来のスターを育てることにも力を注いでいます。

「毎年3月、9月は日本に帰国し、ミュージカルのワークショップを開催します。同時に、日本のミュージカル事情をリサーチしますが、レベルが向上しているのを感じます」

日本に居ながらにして、本物に触れる機会が増えているいま、日本人が本場で活躍するのも遠い未来ではないと言う彼女。

そこで必要なのが、彼女のような"日本人ができないところを理解できる"指導者。「いつか自分の生徒がトニー賞をとったら良いな」と大きな夢を語る玲美奈さん。

一方、NYのガイドブックで、ミュージカルのページの監修をするほど、観る側としてもミュージカルをとことん知り尽くし、四六時中ミュージカルが頭を離れない彼女ですが、じつは結婚2年目。

国際結婚である夫の希望で、週末はデートを楽しむのだとか。またバケーションに対する意識の高い夫に「私は3日以上休むのが辛いんですよね......」と玲美奈さん。仕事の話をする際の毅然とした表情と対照的な困ったような、でも幸せそうな笑顔が印象的でした。

2017年3月20日から25日まで東京都内のスタジオにおいて幼児・小学生向けミュージカルワークショップ「ブロードウェイ・キッズ」東京クラスを開催。また3月27日から4月1日まで、尚美ミュージックカレッジ専門学校で開催される11歳から24歳を対象にしたミュージカル俳優養成ワークショップ「The Broadway Experience」に通訳として参加予定。

[ Remina Nishida , Shelter Studios , Whole 30]