セクシャルハラスメントや性暴力を告発する「#MeToo」運動に、性暴力の根絶を目指す「フラワーデモ」──。実名かつ顔出しでレイプ被害を申し出たフリージャーナリスト・伊藤詩織氏の起こした裁判の行方が注目される中、2019年3月に続いた性暴力事件の無罪判決に、市井の人々も抗議の声を上げ始めた。
性犯罪に向けられる厳しい視線が顕在化する現在。政府は6月11日に「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を発表した。
被害者支援、教育・啓発に注力
性犯罪・性暴力の被害者は「One is too many(一人でも多すぎる)」──。すなわち“根絶”を目指し、政府は2020~22年度の3年間を対策の「集中強化期間」に定め、この期間中に取り組む政策の方針を「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」にて決定した。橋本聖子男女共同参画担当大臣を議長として、内閣府・警察庁・法務省・文部科学省・厚生労働省の局長級からなる会議において、関係省庁が連携し、被害者支援、教育・啓発活動、再犯防止など横断的に対策を強化することになったという。
方針の内容は、以下の5本柱。
①刑事法に関する検討とその結果を踏まえた適切な対処
②性犯罪者に対する再犯防止施策の更なる充実
③被害申告・相談をしやすい環境の整備
④切れ目のない手厚い被害者支援の確立
⑤教育・啓発活動を通じた社会の意識改革と暴力予防
この中で具体的に取り組む35項目が設定され、各省庁の役割分担がなされた。本方針で注目されるのは、被害者支援と教育・啓発活動だ。
Image via Shutterstock特に被害者支援については、2018年10月に全都道府県に設置された「ワンストップ支援センター」の体制強化・機能強化を図るとしている。ワンストップ支援センターとは、被害直後からの医療的・法的・心理的支援を1か所で総合的に行うための施設。治療や事情聴取で病院・警察・検察・児童相談所などあらゆる機関をたらい回しにされ、状況を何度も説明しなければならないといった被害者の身体的・精神的苦痛をやわらげる目的があるとされている。
このセンターについて、「都道府県の実情に即した増設」や、「夜間休日コールセンター」の設置が検討されるという。また、相談につながりにくい男性被害者や被害の認識や説明が難しいこともある障がい者を含めた多様なケースへの対応を充実していくことも方針に盛り込まれている。
幼児期・低学年からの教育・指導も
教育・啓発活動については、性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないために「学校教育」がより大きな役割を果たしていく必要性が説かれた。具体的には、幼児期・低学年に対して「水着で隠れる部分は他人に見せない・触らせない・触られたら大人に言う」といった内容を指導していくほか、SNSを通じた出会い・デートDV・レイプドラッグの危険性など学齢に合わせた指導を行う。そのための啓発資料やアクティブラーニングの手法を取り入れた手引書を作成・改訂するとされた。
このほか、被害者の心情に十分配慮した対応ができるよう、検察官・警察官など事情聴取を行う者に対して、性犯罪に直面した被害者心理の研修を実施する。被害者に対して「あなたにも悪いところがあったのでは?」などと尋問し、二次被害を生じさせてはならない。
対策を進めるために「モラルを変える声を上げよう」
Image via Shutterstock方針の末尾には「必要な制度改正や予算確保を通じて、施策の充実を図る」と記された。7月中に35項目の実施方法や日程が示されたロードマップが作成されるだけでなく、毎年4月にその進捗状況を確認し、フォローアップを行うことが決定している。
一方で性犯罪・性暴力対策には、これまで積極的な取り組みが進んでこなかった現実も横たわっている。今回の強化方針発表に際して、橋本聖子男女共同参画担当大臣は「性暴力被害という理不尽をなくしていくための具体的な政策を、関係者の力を結集して進めていくことが、私に課せられた責務です」「政府としての決意と方針を示す、最初の一歩です」とメッセージを寄せたが、現状を打破できるかどうか、政府の真価が問われているといえるだろう。
性犯罪・性暴力をなくそうという声が今よりもっと広がれば、対策も進みやすくなる。
取材・文/岡山朋代
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