4月23日に放送された「クローズアップ現代+」(NHK総合)の、道徳授業での一幕が物議を醸しています。今年度から小学校で教科化された「道徳」は、「家族愛」「親切・思いやり」「国や郷土を愛する態度」など、22もの教えなければならない「価値」を、国が定めています。


番組では、「家族愛」を教える授業で「お母さんの家事にもお金を払っていいのでは」と、みんなと異なる意見を発した男の子(小4)の意見が否定される場面があり、ネット上では批判が殺到しました。(文:篠原みつき)


■「お母さんも家事をしたらお金をもらいたいのでは」という意見が封殺される



「お母さんは無償で家事をする」「家族にはお金を求めないのが当然」という空気の中で授業で題材になったのは、国の検定に合格した教科書の「お母さんのせいきゅうしょ」という話です。


ある日たかしが、お手伝いをした分のお駄賃500円を請求する紙切れをお母さんに渡します。すると、お母さんは500円と一緒に、「看病代」など、いつもしてあげていることのリストに「0円」と書いた紙をたかしに渡します。「それを見たたかしの目には涙があふれました…」というエピソードです。


新任の女性教諭には、母親の「無償の愛」を通じて「家族愛」を考えさせたいという狙いがありました。

お母さんの気持ちを考えるように子どもたちに促すと、「私の宝物はたかしだから、お金なんてもらわないよ」など、「家族にはお金を求めないのが当然」という意見が次々に挙がります。


そんな中、1人の男の子から「お母さんは家事に対してお金をもらいたいのでは」という、これまでと異なる意見が出ます。「子どもっていいな。えらいことするとお金がもらえるから、私も子どもがいいな」と発表した男の子のプリントには、



「私は0円なのよ、お母さんの気持ちになってみなさいよ。せっかく家事とかをしているのに。子どもっていいな。

えらいことをするとお金をもらえるから」


と書かれていました。


意表をついた言葉に教室の子どもたちはワッと笑います。先生は、「でも、お母さんは0円の請求書を渡した。お金がほしい、いいなと思うんだったら…」と話すと、他の生徒がすかさず「たしかに、1円、10円、100円でも書いて渡せばいい」と応じました。


男の子はそれ以上意見を言うことはなく、目には涙が浮かんでいました。男の子の両親は共働きで、仕事をしながら家事をこなす母親のことを思っての発言でしたが、先生は狙い通りに授業を進めようとするあまり、結果的に1人の意見を封じてしまいました。

後に、道徳を教える難しさを吐露しています。


ネット上では、この場面を問題視した様々なツイートが拡散しました。先生に対する批判をはじめとして、道徳を教科化して「ひとつの価値観に落とし込んでいく」ことを問題視する声や、「無償の愛」という言葉で家事労働を貶める危険性、1人だけ異なる意見を発した男の子に対する応援などが相次ぎました。


■「教師のひと言で子どもの考えを動かしてはいけない」という先生も


番組ゲストで教育評論家の尾木直樹氏は、「無償の愛が家事労働だという決めつけは、ちょっとね」「もっと多様化して柔軟になってもいいのかもしれませんね」とした上で、道徳が教科化されたことの構造的な問題も示しました。


虐待のある家庭の子が「家族愛」を感じられるのか、道徳が教科化された背景には「いじめ問題」があるが、「かえって、いじめを増やすのでは」という懸念や、「教師が期待する答えを出す、それが子どものストレスになる」という問題。「郷土愛」といっても、クラスに多国籍の子どもが増える中、「多文化共生の妨げにならないか」との懸念もあります。


しかし、そもそも文部科学省の目的は「考え、議論する道徳」への転換です。実は文科省は、「学習指導要領解説」という、現場の先生向けに作った文書では



「特定の道徳的価値を教え込んではいけない」
「これからの道徳は考え、議論する道徳でなければいけない」


などと記載しているそうです。(『週プレNEWS』に掲載された前文部科学事務次官・前川喜平氏のインタビューより)。現場の先生には「一つの価値観に落とし込む」ことなど求められていないのです。


番組では、ベテランの先生が子どもの多様な意見を尊重する授業の様子も紹介しました。



「教師のひと言で子どもの考えを動かしてはいけない」


と方針を示したこの先生は、「この価値観はいいけれど、この価値観はせめぎあうよと。

常に盲目的にやるのではなく、いつも考えられる子であり、考え続けてほしい」と、重みのある言葉を語っています。