『Fate/Zero』。シリーズ第1作の『Fate/stay night』に繋がる破滅の物語です。
7人の魔術師がマスターとなり、7つのクラスのサーヴァントを召喚して争う聖杯戦争を軸に展開される残酷な物語です。著者・虚淵玄氏曰く、『Fate/stay night』が大団円で終わる物語なので、思う存分バッドエンドを描いたこの作品。バッドエンドという事で登場人物たちも苦しめられる訳ですが、とりわけ辛い思いをしたのが、今回紹介する『セイバー』です。国を救うという願いをもったブリテンの騎士・アーサー王たる彼女。その気高い精神と切なる願いは、物語を通して繰り広げられる戦いと残酷なる結末により打ち砕かれてしまうのです・・・。

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。
ご注意下さい。】

■高潔なる精神と美技。まさしく騎士王

 ブリテンの騎士・アーサー王たる彼女。祖国の滅亡を聖杯の起こす奇跡によって回避するため、彼女は聖杯戦争に参戦します。聖杯戦争は魔術師たちの戦いでもあり、凄惨な殺し合いとなってしまうのが常です。しかし、騎士の名に恥じぬ高潔な精神を持った彼女の戦いは正々堂々としたものであり、血生臭い『Fate/Zero』の戦いにあって、異彩を放っています。
少年漫画的な熱さもあり、見る者を魅了します。

 特に同じ騎士であるランサーとの死闘や共闘、ライダーとのチェイスバトルは非常に見ごたえがあります。彼女の生んだ名勝負の数々は、破滅の物語たるZeroにおいて、一種の清涼剤の様な役割があるのではないでしょうか。

■主との不仲。主の妻との友情

 本人は騎士として堂々たる戦いをしたいのですが、なかなかそう簡単にもいきません。原因は自身のマスター・衛宮切嗣です。
彼は「魔術師殺し」と呼ばれており。目的の為ならば手段を選ばないという非情な面を持った男です。召喚当初、娘であるイリヤスフィールと遊ぶ切嗣の姿にとまどったセイバーですが、いざ戦いが始まると切嗣のやり口に苛立ちを覚えていきます。

 子供を殺害してまわるキャスターが許せず、討ち取るべきだとセイバーは主張します。しかし、キャスターを狙う他の陣営を狙った方が確実だという切嗣・・・。その意見に憤りを覚えます。
その後も切嗣のやり口には納得がいかず、苛立つ中で、ランサーとの決着を最悪の形で邪魔されたことにより、両者の対立は決定的なものになってしまいます。

 主とは徹底して不仲ですが、主の妻・アイリスフィールとの仲は非常に良好です。アイリが二人の仲を取り持つことで、かろうじてセイバーの陣営は保たれています。アイリは来日当初、初めて城の外にでたと喜びます。その姿を見て、セイバーは騎士としてお姫様のエスコート役を務めます。戦闘においてもサポート役として助けてくれるアイリ。
強敵との激戦や、味方との不和など、消耗の多いセイバーにとって、アイリとの日常的なやり取りはかけがえのない思い出なのかもしれません。

■気高くも儚き意志。そしてstay nightへ・・・

 ブリテンの王として、祖国の救済を願うセイバー。聖杯の力をもって、滅びの運命を変えると言い放ちますが、彼女の宣言に異を唱えるものも。同じく王たるライダーとアーチャーです。運命を変えるという事が、アーサー王が国を治めていた時代に生きる者たちへの冒涜だというライダー。
故国に身を捧げたことを、極上のピエロと笑うアーチャー。二人の王から、自身の考えを完膚なきまでに否定されながらも彼女は戦い続けます。聖杯により国を救うまで。

 そんな彼女は、最終局面にて自分を狙ってきたバーサーカーの正体に気づきます。うろたえ、反撃もままならぬセイバー。心身共に徹底的に打ちのめされてしまうのです。精神的に深い傷を負ったセイバーですが、なおも聖杯を求めます。聖杯さえ手に入れば全て救われる。しかし最後に立ちはだかったアーチャーと対峙する中、切嗣から令呪を用いた強制的な命令が下されます。「聖杯を破壊しろ」。

 全てが終わった時、彼女は絶望します。ブリテン王だった頃も国の滅亡に苦しみ、現代に召喚されても苦しみ。どこまでいっても報われないまま、彼女の戦いは終わりを迎え、物語は『Fate/stay ngiht』へと移っていきます。

■少女の苦しみ

 王として国を救う、滅びの運命を変えるという切なる願いをもって戦いを挑んだ少女がいました。結果として『Fate/Zero』の物語の最初から最後まで、その少女は苦しみ続けました。彼女が救われるには『Fate/stay night』の物語が始まるまで待たなければなりません。逆に言えば、Zeroの絶望的な展開があったからこそ、後の物語が感動的なものになったといえないでしょうか。

【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:羽野源一郎(キャラペディア公式ライター)

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