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タイタニック』のクライマックスおよびラストは、観る人によって解釈が異なる、とても多層的な構造になっています。
ここでは、終盤で年老いたヒロインのローズが「なぜあの行動をしたのか」という疑問を、劇中の描写から解き明かしてみます。

※以下からは『タイタニック』本編のラストを含むネタバレに触れています。まだ観たことがないという方は、観賞後にお読みください。

※「前編」にあたるシーンの考察および、タイタニック号における格差社会の構造についてはこちらで書きました↓
『タイタニック』「7つ」のポイント解説~当時の格差社会から読み解く~ 

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『タイタニック』ローズはなぜ最後に「捨てた」のか?その理由を全力解説
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1:碧洋のハートは「呪い」の象徴?

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17歳のローズは「碧洋のハート(Heat of Ocean)」と呼ばれるブルーダイヤモンドのネックレスを婚約者のキャルからプレゼントされ、そして晩年まで隠し持っていました。先にはっきりと申し上げておくと、この碧洋のハートは素敵な名前やハートの形とは裏腹の、「呪い」の象徴であるとも解釈できます。

その証拠の1つが、「“ホープダイヤモンド”よりも高価」と語られていることです。ホープダイヤモンドとは、希望(Hope)という名前とは真逆の、「所有した人を次々と破滅させながら、別の人の手に渡っていった」ことで有名な実在の宝石なのです。


劇中の碧洋のハートは、かつての所有者のルイ16世がフランス革命により首と共に全てを失ったと説明されていました。その上、ジャケットのポケットに碧洋のハートを入れられたジャックは凍死し、生き延びたキャルも大恐慌のためにピストル自殺をしてしまいます。やはり、碧洋のハートはホープダイヤモンドと同じ、あるいはそれよりも強い呪いを秘めた宝石とも言えます。

しかし、皮肉にもただ1人、碧洋のハートをずっと隠し持っていたローズは、自分の力で望んだ人生を手に入れて、100歳を超えて生き延びることができていました。ローズは碧洋のハートの呪いを克服した人物であるとも解釈できるのです。

2:忌むべき存在の宝石

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ローズにとって、碧洋のハートは間違いなく忌むべき存在でした。序盤に年老いたローズははっきりと、「重くてイヤなネックレス。
つけたのは、この(ジャックにヌードの絵を描いてもらった)時だけ」と答えているのです。

他にも、ローズはキャルから「僕らは王族(king)なんだよ。君の欲しいものは、なんでも与えよう。僕を受け入れてくれ」と言われながら、一方的に碧洋のハートを渡されていました。これは、ジャックが船頭で「世界は俺のものだ(I'm the king of the world)!」と叫んで自由を謳歌していたことと対になっています。

言うまでもなく、ローズは上流階級の社会の価値観にがんじがらめになり、その婚約者のキャルから支配され、いちばん欲しているはずの自由を手に入れらませんでした。
ローズが碧洋のハートに対して言う「重い」は、物質的な重さだけでなく、精神的な足枷そのものを象徴していたのです。

さらに、中盤でジャックは碧洋のハートを盗んだ濡れ衣を着せられていました。後にジャックとローズは「濡れ衣だ」「ええ、わかっているわ」と話し合っていて誤解が解けたようにも思えますが、ジャックが乗客から(碧洋のハートをポケットに入れられた)ジャケットを盗んでいたことは事実。ひょっとすると、ローズにとって碧洋のハートは、自分をあらゆる意味で救ってくれたはずのジャックを「(盗んでいないと)信じきることができない」、わだかまりのような存在でもあったのかもしれません。

3:スケッチの時に身につけた理由

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では、なぜローズはヌードの絵をジャックに描いてもらう時に、呪いであり、忌むべき存在の碧洋のハートを身につけたのでしょうか。

その理由の裏付けとなるのは、ジャックがこれまでの女性のスケッチを見せた時のことです。彼は「パリの女はすぐ服を脱いでくれるから助かる」「恋をしたのは手だけ、脚の悪い売春婦だよ。
明るい娘だった」とひどい言い分で女性たちのことを振り返り、あまつさえマダム宝石(ビジュー)というあだ名が付けられた夫人を「ありったけの宝石をつけて、帰らぬ恋人を待っている。ドレスは虫食いだらけなんだよ」とまで言っていました。

そして、ローズは(パリの女のように)すぐに服を脱いで、(手に恋をした売春婦のように)陶器の人形のような描き方はイヤと明るく言い、(マダム宝石のように)碧洋のハートという宝石を身につけて、ヌードのスケッチをしてもらうのです。つまり、ローズは「ジャックが今までスケッチしてきた女性と同じ」になろうと、彼の望む女性になろうと振る舞っていたのです。

ローズは、そうしてジャックが過去に描いてきた女性と同じ振る舞いをしないと、自分のヌードのスケッチなんて描いてもらえない、それほどまでに自分に価値がないと思い込んでいたのかもしれません。もしくは、碧洋のハートよりも、自分のヌードを美しく描いてくれたら、自分にも価値があり、ジャックに愛してもらえるかもしれないという希望を持っていたのかもしれません。


そして、ローズはジャックと刹那的に愛し合うことができたもの、結果としてジャックはタイタニック号の沈没により亡くなってしまいます。しかも、忌むべき存在であった碧洋のハートは残ったまま……残酷にも、ローズは帰らぬ恋人を待ち続けたマダム宝石と同じ立場になってしまっていたのです。

4:キャルの切なさと滑稽さ

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もう1つ切ないのは、ローズが碧洋のハートを隠し持つことができたのは、キャルに「みすぼらしい格好だな」と言われジャケットを着せられたため(キャルはその時には碧洋のハートがポケットに入っていることに気づいていなかった)だったことでしょう。

キャルは男性権威的主義的で、ローズを束縛し暴力も振るっていた、全く擁護はできない悪人です。しかし、ボートに乗り込む前のローズにジャケットを着させたのは、みすぼらしいというだけでなく、ずぶ濡れになり寒がっていた彼女の身を案じていたからのようにも思えるのです。

事実として、キャルは嘘をついてまで、ローズだけを目の前のボートに乗せようともしていました。これもジャックを出し抜いて自分も別のボートに乗るための方便とも取れますが、ローズへの愛情が全くないとは言い切れないところもあるのです。


そんなキャルが、結局はタイタニック号に戻ったローズとジャックを銃で撃ち殺そうとし、物質的な価値がある碧洋のハートも渡したことに気づいて自嘲するシーンの、なんと滑稽で、そして切ないことでしょうか。キャルの心からの善意とも取れる行動でさえも、碧洋のハートという「呪い」に転換してしてしまっているのです。

5:ただ1つの証だった

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さらに残酷なのは、ローズにとってジャックの存在を証明する物質的な証拠が、碧洋のハート以外にはなかったということでしょう。

年老いたローズは、必ず数々の自身の写真と共に旅をしていると話しており、写真という「形として残る思い出の存在」を大切にしていることが見て取れます。だからこそ、前述してきたように呪いであり、忌むべき存在のはずの碧洋のハートを、ずっと捨てられなかったのでしょう。

しかし、ローズは「美しい自分のヌードのスケッチ」という、碧洋のハートに代わるジャックが存在した証を、再び見ることができました。そして、調査団たちに自分とジャックとの思い出を赤裸々かつ鮮明に話すこともできました。

なぜ、最後にローズが船頭から、海へと碧洋のハートを捨てたのか……? その理由は、これではっきりとしたでしょう。「呪いであり、忌むべき存在であると同時に、ジャックが存在したただ1つの証であった碧洋のハートは、ジャックの存在を確かにできたことで、もう必要ではなくなった」のです。

さらに、ローズはこうも調査団に話していました。「今までジャックのことは誰にも話さなかった。主人にもね。女って海のように秘密を秘めているの。彼が、私を救ってくれたの。それもあらゆる意味でね。写真も残っていない。でも、彼は私の心の中に生き続けているわ」と。

海に碧洋のハートを捨てることで、普遍的な「海のように深くて広い女性の秘密」を、そして高価な宝石(Heat of Ocean)よりも自分自身の心(Heart)に残る美しい思い出のほうに価値があると示唆しているのです。この多重的なラストの、なんと見事なことでしょうか!

また、調査団の1人のブロックは、ローズの話を全て聞いた後に「ダイヤが見つかったら、これを吸おうと思ってた」「3年間、俺の頭の中はタイタニックのことでいっぱいだった。でも何もわかっていなかった」と言いつつ、葉巻を(ローズと同様に)海に投げ捨てていました。ここでも、やはり(誰にとっても)「真に価値があるのは物質的なものではない」ことが示されていますね。

6:もう1つのエンディング

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ちなみに、「ローズが誰にも知られずに船頭から碧洋のハートを海に捨てる」というのは、実は当初予定されていたエンディングではありませんでした。

脚本の初期では、ローズがダイヤを海に投げ込む寸前に調査団たちに気づかれ、「真の宝とは何か」と咎められるものの、結局は海に投げ込むという展開が考えられており、実際に撮影もされていたのですが、結局は現在のエンディングに差し替えられたのです。

「真実はローズ(と観客)だけが知っている」という現状のエンディングの方が、前述した「女って海のように秘密を秘めているのよ」というローズの言葉を強調していますし、「観客それぞれに意味を考えてもらう」余地を残しているので、こちらのほうが素敵だと思います。

7:ラストでローズは亡くなったのか?

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本作のラストシーン、それは「ウェディングドレスを着た若い頃のローズが、タイタニック号で亡くなった人々が祝福の拍手をしている中で歩き、そして時計がある大階段にいるジャックの元に向かう」という、言葉にならないほどに美しいものでした

この解釈には2通りがあり、「ローズはベッドで亡くなり、ジャックたちがいる天国へと行った」か、もしくは「ローズは亡くなっておらず、その時に見た幸せな夢」のどちらかと言われいます。

実は、このラストシーンのDVDのチャプター名は「かなえられた夢」、原題は「A Promise Kept(約束は果たされた)」となっています。そして、劇中の「約束」を鑑みれば、やはり「ローズはベッドで亡くなり、ジャックたちがいる天国へと行った」という解釈のほうが有力だと思うのです。

その約束とは、冷たい海水の中で凍えていたジャックと交わしていた「今夜、こんなところで死ぬんじゃない」「無事に助かって、たくさんの子どもを産む。彼らを育て、歳をとって、温かいベッドで死ぬんだ」「僕のために、絶対に生き残ってくれ。何があろうと最後まで諦めないでくれ」ということでした。

ローズはジャックが亡くなった後も、彼の「(助けはいらないと言ったことに対して)そうだね、闘うのは君だ」という言葉そのままに、自分の意思で闘い、望んだ人生を手に入れたのでしょう。それは、ローズがいつも共に旅をしている、乗馬をしたり飛行機と一緒の姿をとらえた「夢を叶えた写真」でわかります。

そして、最後には「温かいベッドで死ぬ」というジャックとの約束を守り、そしてジャックと再会するという夢をも叶えた。だからこそ、ローズはたくさんの乗客から祝福されていたのでしょう。

しかも、ラストシーンにおける時計は、タイタニック号が沈んだその時刻である、午前2時20分を指していました(中盤の、同じ場所で「本当のパーティー」に誘われた時の時刻は午後9時)。

ここからも、ローズは「あの約束の時間の場所に向かった」、転じて「死の世界へと旅立った(でも幸福であった)」ことが示されていると思うのです。

(文:ヒナタカ)

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