Text by 大石始
Text by 山元翔一
藪、と言われてどんなことを思い浮かべるだろうか。「藪から棒」「藪をつついて蛇を出す」という言葉があるが、薮というのは、外から見通しのきかないところ、あるいはブラックボックスのように何があるかよくわからないところ、というようなメタファーでもある。
芥川龍之介の『藪の中』を思い浮かべる人もいるかもしれない。これは、藪のなかで起こった出来事をめぐってさまざまな登場人物が証言を行なうも、内容が食い違い、何がどう起こったのか実際にはわからない、という物語だ。この作品は「真相は藪の中」という言葉の語源にもなっている。
藪とはそういったような言葉であり、世界中の路地裏を可視化したGoogle Earthをもってしても、藪のなかに何があるかは実際に足を踏み入れた人にしかわからない。何が出るともわからない藪のなかに自ら進んで入りたがる人はそういないだろう。
だが、折坂悠太はいま、人々を藪のなかに招き入れている。
どういうことかというと、折坂はPARCO MUSEUM TOKYOで自身初の展覧会『薮IN』を開催し、会場に藪を出現させているのだ(会期は5月30日まで)。よって来場者は800円の入場料を払って藪のなかに足を踏み入れることとなる。高いと思うか、安いと思うかはあなた次第だが、お金を払ってまで藪に入る経験は、ある意味、貴重だ。
なぜ折坂悠太はこのような展覧会を行なうに至ったのだろうか。国内外の地域文化と大衆音楽を追うライターの大石始が考える。