デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナを...の画像はこちら >>



Text by 佐伯享介
Text by 辰巳JUNK



さいたまスーパーアリーナがクラブになった――デュア・リパの約6年ぶりとなる来日公演を目撃した人々から、そんな感想が聞こえてきた。



2015年にデビューして瞬く間に世界的なポップスターへと駆け上がったデュア・リパ。

ありのままの自分を肯定するポジティブさに貫かれたミレニアル世代のポップアイコンであり、UKクラブカルチャーの遺伝子を受け継いでアップデートさせ、大輪の花を咲かせたダンスミュージックのスーパースターでもある。そんな彼女は日本でどんなライブを見せたのか?



著書『アメリカン・セレブリティーズ』で知られるライターの辰巳JUNKが、11月17日に開催された来日公演2日目のステージを見た。



「東京公演は最高に盛り上がった! 東京のファンが静かって説はなんだったの?」



デュア・リパの父ドゥカグジンが絶賛したように『Radical Optimism Japan Tour』は大熱狂に包まれた。



デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナをクラブに変えた。熱狂の来日公演をレポ



Spotifyで5曲が20億回以上もの再生回数を記録しているダンスポップスターによる6年ぶりの来日公演は、開場前からダンストラックが鳴り響き、まるでクラブのような状態であった。開演の合図に流されたのは、ツアーの魂を体現するかのようなバイカー映画『ワイルド・エンジェル』のセリフ。ツアー表題アルバム『Radical Optimism』制作時に影響を受けたというPrimal Screamによる楽曲“loaded”にも登場する言葉だ。

自由に思うままに、酩酊して、楽しい時間を過ごしたい。これからそれをやるんだ。楽しい時間を過ごして、パーティーを開く!
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姿をあらわしたデュアは「準備期間は終わり」と宣言する“Training Season”を熱唱。失敗したデートから成長を遂げていくアグレッシブなディスコによって、観客の興奮を一気に引き上げた。



公演は、ノンストップなダンスクラブそのものだった。リヴァプールFCのアンセムにもなっているカルヴィン・ハリスとのコラボ“One Kiss”の次は、Creepy Nutsとのコラボリミックスも話題を呼んだ新曲“Illusion”。

「会場の人々を一体にさせる」目的のもとつくられたという自信作で、まさに念願どおりの効果を生んでいた。



徹底的なまでにダンスポップを前面に打ち出した構成は、デュア・リパの哲学を体現していた。フェミニズムとも共振する2017年リリースのクラブアンセム“New Rules”によって台頭した彼女は、少し特異なポジションにいる。当人が説くように、昨今のポップスターの流行といえば、プライベートの人間関係を赤裸々に歌にするスタイル。代表格はオリヴィア・ロドリゴやテイラー・スウィフトだろう。対して、むしろデリケートな私的な内容を避けているデュアの場合「ただ人々を楽しませる音楽」を極めんとしているポップ主義者だ。2ndアルバム『Future Nostalgia』がクラブ用につくられたにもかかわらずコロナ禍を照らす大ヒットとなった現象にしても、つねにリスナーに希望を与えようとする信念あってこそだったのだろう。



ポップ主義を実験的に追求したアルバムこそ、バンド形式で制作された3rdアルバム『Radical Optimism』だ。ほとばしるのは、OasisやBlurらブリットポップに代表される、故郷UKの若々しき自由の精神。題名「過激な楽観主義」とは、過酷な世界でも希望を見出す価値観である。だからこそ、このアルバムの本領が発揮される場所はコンサートだった。開幕で流された言葉そのまま、みんなで熱狂して踊ってこその音楽なのだ。



デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナをクラブに変えた。熱狂の来日公演をレポ



特筆すべきは、ホスピタリティかもしれない。日本のファンによる楽曲投票でも1位に輝いた代表曲“Levitating”の演奏中、アリーナビジョンに表示されたのは、かけ声用の単語だった。本人の手慣れた「オーディエンスへの振り」も含めて、英語の歌詞を覚えるのが難しい非ネイティブの観客も参加しやすい演出が続いた。自由なダンスフロアを支えていたのは、UKとアルバニアのルーツと豊富な語学学習経験を持つデュアらしい配慮だ。



デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナをクラブに変えた。熱狂の来日公演をレポ



エルトン・ジョンとの“Cold Heart (Pnau remix)”など人気コラボも披露されていったのち、怒涛のレイヴが鎮まった瞬間は、エンディングであった。晴れやかな空の映像をバックに、サイケデリックなバラード“Happy For You”を披露し、ゆっくりと美しい歌声を味わせてくれた。



元恋人の新たな恋路を祝福する内容について「困難と成長を経たいまだからこそ書けた」と語るデュアは、同曲が象徴するアルバムのメッセージを『Variety』誌の取材で明かしている。

『Radical Optimism』のメッセージとは、どんなに酷い状況にいても、トンネルの先には必ず光があるのだと意識する大切さです。
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特にいまの世界で大事になっていることは、炎から逃げたり避けたりせず、火の中を歩いてみる経験です。これこそ、シンプルに言えば『楽観主義』。究極的に大胆な行為かもしれません。
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純粋な楽しさと一体感に包まれた『Radical Optimism Japan Tour』は、不安が広がる世界で一歩踏み出す勇気をくれる一夜でもあった。

アンコールまで完璧だったからだ。映画『バービー』への提供曲“Dance The Night”から今作リードシングル“Houdini”まで、とっておきの人気曲を最後に放出することで、最高潮の盛り上がりとなるフィナーレを迎えた。



デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナをクラブに変えた。熱狂の来日公演をレポ



興奮冷めやらぬまま、デュア・リパ・フィーバーが続いていきそうだ。ボーナストラックも収録された来日記念盤『ラジカル・オプティミズム ジャパン・ツアー・エディション』も発売されたほか、12月6日にはライブアルバム『Dua Lipa Live From the Royal Albert Hall』のリリースが予定されている。こちらでフィーチャーされるのは、ロンドンの由緒ある会場で行なわれたオーケストラ編成の公演。デュアの新たな一面を堪能しながら、ホリデーシーズンに浸れる一枚であるはずだ。



デュア・リパの「過激な楽観主義」がさいたまスーパーアリーナをクラブに変えた。熱狂の来日公演をレポ

デュア・リパ『Dua Lipa Live From the Royal Albert Hall』ジャケット

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