■レクサスとは:対米モデルから始まったトヨタの上級ブランド

GMにシボレーとキャディラックがあるように、アメリカの自動車メーカーなどはひとつのメーカーが複数のブランドを展開し、そのブランドごとに特徴を与えたクルマづくりを行っています。

日本の自動車メーカーは長い間そうした展開を行いませんでしたが、1986年にホンダが北米でアキュラを展開開始、1989年1月にはトヨタがレクサス、同年11月には日産がインフィニティを展開開始するなど、一部の自動車メーカーが北米を中心に上級ブランドの展開を開始します。

初代LS。日本ではセルシオの名で販売された

最初にレクサスのネーミングが冠されたモデルはLSとESで、LSは日本ではセルシオの名前で販売されました。

セルシオとLSは同時に開発が進んだ完全な新型車でしたが、ESは日本でも発売されていたカムリプロミネントの4ドアハードトップをベースとしたモデルでした。

2021年のレクサスフルラインアップ試乗会の様子

トヨタは2003年に国内販売網の改変を発表、レクサスブランドの国内展開についても正式に発表しました。

販売店が開業するのは2005年で、当初の扱い車種はGS、IS、SCの3車種。徐々に取扱車種を増やし、現在はセダン3車種、SUV5車種など全12車種(UXとUX300eを別シリーズとした場合)がラインアップされます。

●NXとは:コンパクトプレミアムSUVの草分け初代のNX300hは、横バーグリルを採用していた

初代のレクサスNXは、2014年に当時のレクサスCTのプラットフォームをベースとして開発されたプレミアムクロスオーバーSUVです。レクサスCTは3代目プリウスのプラットフォームを用いたモデルで、初代はボディシルエットはSUVでしたが、ハイブリッド車としての要素を強く持たせたモデルとなりました。

初代もFスポーツはメッシュのグリルを採用していた

対して新型NXはハリアーやRAV4と共通性のあるTNGA-Kプラットフォームを用いて作られたモデルとなりました。初代から特徴的でしたが、コンパクトSUVのなかにプレミアムという発想を盛り込んだことで、現在世界中で人気となっている、小さくて上級感にあふれるSUVの草分け的存在がNXです。

●新型NXの基本概要:2種の電動系パワーユニットと2種のエンジンを用意

新型NXは、4ドア+ハッチバックのSUVボディに4つのパワーユニットがラインアップされます。かつては多くのタイプのエンジンを搭載するモデルもありましたが、現在は1車種で4タイプのパワーユニットを搭載するのは珍しい部類となるでしょう。

トップユニットは450h+に搭載されるPHEVで、2.5リットルガソリン4気筒(185馬力/228Nm)とモーター(前:182馬力/270Nm、後:54馬力/121Nm)を組み合わせ、そこに大きめ(51Ah)のバッテリーを搭載します。

PHEVなので当然充電機構も備えます。NX350hはNX450h+と基本的に同じシステムですが、エンジン出力が190馬力/243Nmとなり、バッテリーが4.3Ahと小さくなります。モーターは前後ともに同じものが採用されますが、リヤモーターレスのFFモデルも存在します。

一方のピュアエンジンモデルは、NX250が搭載する2.5リットル自然吸気エンジンがハイブリッド系と同系列のもので、スペックは201馬力/241Nmで、FFと4WDが設定されます。

NX350に搭載されるエンジンは排気量が2.4リットルのターボで2.5リットル系とは異なる系列にあるユニット。

スペックは279馬力/430Nmとなります。なお、2.5リットル自然吸気はレギュラーガソリン、PHEV、ハイブリッド、2.4リットルターボはプレミアムガソリンとなります。

●新型NXデザイン:レクサスらしさを模索していた初代とは異なるまとまり感まとまり感のあるエクステリアをまとった新型NX。写真はNX450h+

初代のレクサスNXは登場時からスピンドルグリルを採用し、レクサスらしいスタイリングを持っていましたが、まだレクサスの世界観が出来上がっていない感じで、さまざまな部分が尖った印象でした。

しかし、新型ではレクサスはこうあるべきというベクトルがしっかりとあり、そこへ味付けていったという印象です。レクサスとして無理していないという雰囲気が伝わってきます。

スピンドルグリルの造形も自然な雰囲気にあふれ、先代では先端がスラントしていたボンネットはグリル上端に向かって緩やかに伸ばされ、垂直なグリルと合わされ現代的な力強い顔付きを表現しています。サイドから見るとベルトラインから下のパネル部分はボリュームにあふれ、従来よりも角張ったデザインとしたフェンダーアーチは軽快感を感じます。

抑揚のあるドアパネルが美しい。写真はNX350Fスポーツ

リヤコンビランプはサイドに大きく回り込んだデザインとしたうえで、パネル類は抑揚のあるものとしています。リヤハッチのプレスラインは下に向かって広がっているデザインで、フロントのスピンドルグリルとの共通性も見いだせます。

基本に忠実なインパネデザインながら、トリムの取り回しなどで新鮮さを与えているインパネまわり。
写真はNX350Fスポーツ

コクピットは「Tazuna Consept」に基づいて設計されています。Tazunaとは乗馬の際に馬を操る手綱に由来していて、人とクルマがしっかりと意思疎通できることを目的としています。

ドライバーズシートに座ると正面のステアリングの奥に視認性のいい液晶メーターが目に入ります。メーターカバーの左側にはモニターが配置され、ナビはもちろんハイブリッドの場合はエネルギーフローの表示なども行えます。

若々しいイメージを持つNXのインテリア。写真はNX450h+ Fスポーツ

シートはアグレッシブな形状で、V型ステッチも目を引きます。

シートカラーはブラックのモノカラーに加えて、ブラック&リッチクリーム、ダークローズ、ヘーゼルを用意。さらにFスポーツの場合は専用のフレアレッド、専用ホワイト、専用ブラックとなります。

ブラック&リッチクリーム以外のシートはサイドサポートなど一部にブラックがあしらわれるので実質上の2トーンとなります。

●新型NXのパッケージング:先代より少しだけ大きくなったボディタイヤがより外に配置あれどっしりと落ちつき感の正面のスタイリング。写真はNX450h+

新型NXは先代モデルよりもホイールベースを30mm伸ばして2690mmとしました。このホイールベースはプラットフォームを共有するRAV4やハリアーと同一となります。

フロントオーバーハングは+7mm、リヤオーバーハングは-17mmで差し引き-10mmとなります。ホイールベース延長が30mmなので全長では20mm延長の4660mmとなりました。

全長はRAV4より50~60mm長く、ハリアーより80mm短い設定です。全幅は20mm広げられた1865mmで、RAV4と比べるとプラス0~10mm、ハリアー比でも同じくプラス0~10mmとなります。全幅がわずか20mmしか広がっていないのに対し、トレッドはフロントが35mm、リヤが55mmも拡大されています。

ウエストラインは高く、グラスエリアは狭めなことがわかるサイドスタイル。写真はNX450h+

タイヤ18インチから20インチとなりタイヤ外径は720mmから740mmとなりました。PHEVのバッテリーは床下に敷き詰めるように配置、ハイブリッド車のバッテリーはリヤシート下付近に配置されるため、室内への圧迫は感じません。

ハの字のプレスラインを与え、フロントとの共通性を感じられるリヤスタイル。写真はNX450h+

ラゲッジルームはPHEVでも圧迫を受けることなく、定員乗車時で520リットル、フルラゲッジで1411リットルのスペースを確保。ラゲッジルーム下の収納スペースについては、ピュアエンジンモデルとハイブリッド&PHEVモデルとでは差があり、ピュアエンジンモデルのほうがスペースが大きくなります。

●新型NXの走り:ほぼEVの走りを体験できるNX450h+通常のインナードアハンドルは引いてオープンとなるが、eラッチではプッシュでオープンとなる

新型NXに乗り込もうと思ってドアノブを引くがドアが開かないのです。そういえば説明を受けたなと思い出し、ドアノブの裏側にあるスイッチを押し込み0.3秒くらい待ってからドアノブを引くとドアが無事に開いてくれました。

レクサスNXのドアはeラッチと呼ばれる電子式で、ドアを引くだけでは解放せずスイッチを押すことでロックが解除され、そこから引くことでドアが開きます。

内側からもスイッチを押すことでロックが解除されドアを開けることができますが、車外のセンサーが後方からの接近車(自転車を含む)を捕捉すると、ドア解除に制限をかけて事故を未然に防ぐシステムも組み込まれています。

かなりEV的な走りを披露するNX450h+

試乗車として用意されたのは、PHEVのNX450h+バージョンLとハイブリッドのNX350h Fスポーツ(AWD)でした。どちらも2.5リットルの直列4気筒エンジンに前後モーターを組み合わせたパワーユニットです。

エンジンのスペックに若干の差がありますが、走りの差はかなり大きいものです。NX450h+はよりEV的で、NX350hはエンジンに頼るフィーリングです。

電池容量の差があるため、NX350hのほうが先にエンジンが始動するということもありますが、EVモードで走っていてもNX450h+のほうがモーターの力強さを感じることができます。エンジンが始動しハイブリッドモードとなった際の静粛性もNX450h+のほうが高く、快適性という面ではNX450h+が優れているといえるでしょう。

450h+に比べるとガソリン車的な走りとなるNX350h

NX450h+の車重は約2トンとかなりの重さで、これはNX350hよりも200kgも重いのです。

一般的にクルマは軽ければ軽いほどいいとされますが、それはスポーツカー的なハンドリングの評価や燃費などの評価に於いてはいいとされるもので、乗り心地という面では重いことが幸いすることも多くあります。NX450h+の場合はNX350hよりも電池の搭載位置が低く、そして重いのでクルマの動きに安定感が出ます。

これからEVの時代がやってきますが、乗り心地という面ではエンジン車よりも快適なものが増えてくることでしょう。

●新型NXのラインアップと価格:ボトムプライスは455万円でハリアーと被るトップグレードとなるNX450h+

NXはガソリン自然吸気、ガソリンターボ、ガソリンハイブリッド、ガソリンPHEVと多彩なパワーユニットを備えています。たとえばAE86時代のカローラなどはガソリンエンジンが1.3リットル、1.5リットル、1.6リットルの3種で、これに1.8リットルのディーゼルが加わり4種のパワーユニットを有していました。

最近は1車種について1~2種のパワーユニットであることが多くなっていて、このNXのように4種のパワユニットを用意するのは比較的珍しくなっています。

ボトムグレードのNX250だが、レクサスらしい堂々さが伝わってくる

基本のグレード展開は1つのパワーユニットに対して1つのグレードという展開で、細かい装備差はFスポーツとバージョンLというサブグレードで分けられています。

Fスポーツは専用のエクステリアパーツやスポーツレザーシートなどのスポーティ装備をプラスしたもの、バージョンLはレザーシートなどの上級装備をプラスしたものです。

駆動方式はFFとAWDで、AWDは27万円高の価格設定となります。ボトムグレードのNX250のFFが455万円、トップのNX450h+が738万円で大きく開きがあります。

PHEVのNX450h+はハイブリッドのNX350hに比べて79万円~103万円高い設定なので、ボトム~トップ間の価格差が大きいのはやむを得ないでしょう。

●新型NXのまとめ:トヨタからレクサスへのシフトを誘う魅力を放つモデルターボエンジンを搭載するNX350

レクサスというあこがれのブランドを、455万円から手に入れることができるというのは絶妙な設定です。

この価格だとハリアーの上級グレードの価格帯に食い込む設定で、ハリアーの購入を考えていた人を引き上げて、レクサスブランドのユーザーに引き込む役目も持ったクルマだといえるでしょう。

東京オートサロン2022に掲載されたNXのオフロードコンセプト。NXのタフネスな部分が強調されたコンセプトカーで、来場者の注目を浴びた

今回試乗したモデルはPHEVとハイブリッドでしたが、明らかにPHEVのほうが魅力的なのです。試乗すると上級がほしくなるというクルマづくりは絶妙なのですが、購入を考えている人にとってはなんとも悩ましいものです。

トヨタを卒業してレクサスに行きたい…と思っているなら、一歩踏み出しても後悔しないのがNXでしょう。

ただし、どうせレクサスに行くなら、グレードを上にして、あのオプションもつけて…とすると、どんどん高額になることは覚悟しないとならないでしょう。NXはレクサスのシェアを一気に引き上げるきっかけになるかもしれない出来のよさで、今後の販売台数の伸びをしっかりチェックしたいと思うクルマの1台です。

(文:諸星 陽一/写真:前田 恵介)