●やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい
8月11日からWOWOWで『連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル』(WOWOWプライム/WOWOW4K/WOWOWオンデマンド 毎週日曜 22:00~全8話※第1話は無料放送)の放送&配信がスタートする。本作は、"警察の中の警察"とも言われ、警視庁職員の不正を取り締まるプロ集団・警視庁人事一課(通称:ジンイチ)監察係の知られざる内部捜査を描き、「警察が警察を追う」緊迫感で多くの視聴者を魅了した、松岡昌宏主演のサスペンス『密告はうたう 警視庁監察ファイル』の続編。
松岡扮する主人公・佐良正輝が、人事一課所属となって2年が経過。一通の密告文に端を発し、警察全体を揺るがす"組織の陰謀"と対峙するストーリー。本作の見どころや「正義が嫌いな理由」を、松岡に訊いてみた。

――シーズン2の撮影にあたり、「また大変な時間が始まる」とコメントされていましたね。

なんせシーズン1は、今まで経験したドラマの中で一番大変だったんで(苦笑)。アクションシーンみたいなものは一切ないんですけど、心がめちゃめちゃ重たくて苦しいんです。普段のオレは、作品と自分の精神状態をちゃんと分けられるタイプの人間なんだけど、この作品をやるときだけは、なぜか心が持っていかれちゃう。要は"地縛霊"みたいな作品だから、何かが乗っかってくるのよ。だから、撮影が終わってからすぐ"お祓い"にいったもん(笑)。赤羽の居酒屋でプシュッて。"呑むお祓い"ね。清めなきゃいけないから。
塩を舐めながら(笑)。

――松岡さんらしいですね(笑)。それだけ大変な作品を、もう1回やろうと思えた理由は?

"佐良"という役を再び皆さんから求めていただけていること自体は、役者冥利に尽きるというか。シーズン1は自分にとってはかなりの冒険というか、新たな挑戦ではあったので……。それが視聴者の方々の目に留まって評価していただけたことは、正直驚きでもあるんですよね。もともと自分は『シンプルなドラマにどんな風に着色していくか』にやりがいを見出すタイプの役者なので。『密告はうたう』のような、絶対にほどけないであろう糸を、1つ1つ細かくほどいていくような心の持って行き方が求められる芝居というのは、これまでほとんど経験したことがなかったし。そもそも社会派ドラマと呼ばれる類のものに自分はまったく興味がなくて、シーズン1をやるまで観たこともなかったくらいなので。でも、「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい」というのが自分の生き方なので。シリーズものを受けるかどうかって、実はすごく難しい選択だったりするんだけど、自分の限界を試してみたい気持ちもどこかにあって。「求めていただけるのであれば……」っていう感じです。

――シーズン2となると、視聴者の期待値が上がるというプレッシャーもありますよね。


観てくださるお客様の目もさらに肥えているでしょうし、それに応えるためには作り手側も『もっともっと』ってことにはなりますからね。なんせ、このドラマの中では一度たりとも笑顔を見せられないというのが本当にキツいんだけど(苦笑)。いろんなベクトルを経験することで、自分の芝居の幅も広がるし、少なくとも何か一個は掴めるものがあるから。そのヒントを手掛かりにして、シーズン2もなんとか乗り切ったっていう感じかな。泉(里香)ちゃんや(仲村)トオルさん、池鉄さんは前作から一緒なんだけど、シーズン2から来た人たちがもう、しっちゃかめっちゃかやるもんだから(笑)。まあ、それが面白いんだけどね。佐良に関して言うと、今回はいわゆる中間管理職的な役割です。シーズン1の時はたしか8回くらい台本を読んで、やっと内容を理解できたくらいだったんだけど、今回は1の時よりさらに2話増えていて。その2話がなかなか大変だった(苦笑)。

――新メンバーとはどんなやりとりを?

監察係の班長役のマキタ(スポーツ)さんとは舞台でご一緒したことはあったんだけど、肩の力がポンと抜けた、表情豊かなお芝居をされる方なので。『オレもそういう芝居がしたいな』『いいなぁ、あの役やりたかったな』って思いましたね。マキタさん演じる原西が、またカッケーんだわ! 若手監察係員役の(浜中)文ちゃんとは、意外にも初めましてで。
もちろん名前は前から聞いてたし、「劇団新感線」の舞台は観に行ったこともあったんだけど。今回実際に共演してみて、幅の広いお芝居をする人なんだなと思って、とても面白かった。

「とにかくやっちまえばいいんだから!」という思い


――「正義とは何か」を考えさせる作品でもありますが、松岡さん自身が思う「正義」とは?

オレは基本、無駄な正義感は振りかざさないね。世の中って、目に見えてるものが全てじゃないから、何が正義で、何が悪かなんて当事者同士にしか分からなかったりするし。オレは正義と悪の2択なら、昔から"悪"の方が好き。「ウルトラマン」みたいな正義のヒーローも嫌いだもん。「家壊さないで!」「ローンどうするの?」って、子どもの頃から思ってた(笑)。

――「正義のヒーローが嫌いな子ども」って、なかなか珍しい気がします(笑)。

オレの考えなんて、理解できるわけないじゃん(笑)。だからオレはこの仕事をしてるの。「勉強なんて習うものじゃない。教科書は自分で作るものだ」って。
そういう生き方だから。

――なるほど(笑)。

それこそ、幼稚園の頃に、家とお花と太陽を全部紫のクレヨンで描いて、幼稚園の先生が心配して、オレの家まで来たことがあったんだよね。「なんでオレンジで描かないの?」って。でもオレは、「なんでオレンジで描かなきゃいけないの?」って答えるような子だったの。とにかく人の価値観を押しつけられるのが苦手だし、「普通はこうでしょ!」って言われるのも大嫌い。「ゴメン、オレは普通じゃないの」って、既にその頃から言ってた。だからこそ、普通じゃないことが特性として生かせるような仕事がしたかったんじゃない? それこそ、10代とか、20代前半の頃にお世話になっていたスタッフさんたちは、一生懸命オレを「普通」という枠に当てはめようとしようとしてたけど、やろうとすればするほど無理だから、そのうち諦めた(笑)。

――そうだったんですね! 逆にいまは、やりたいことができているということですか?

そうね。その時その時で生きてるだけで、そもそもオレにはビジョンってものがないからさ。

――「東京タワーが見える部屋に暮らす」ことが、松岡さんのモチベーションというのは本当ですか?

そうそう。それこそ、スカイツリーができたときに「東京タワーがなくなるんじゃないか」みたいな噂が出たけど、「だったら、オレが東京にいる意味がなくなるな」と思ったもん。
もし本当に東京から「東京タワー」がなくなる日が来たら、オレはもう速攻、東京を出るね。

――確かに。「東京(TOKIO)タワー」ですからね(笑)。ちなみに、「ビジョンが何もない」という松岡さんの中でも、"お芝居"はかなり大きな位置を占めていますか?

芝居が唯一のオレのジャンルだからね。もちろんバラエティも大事ではあるけど、良くも悪くも自分のなかでは、あまり仕事っていう意識はないかな。

――いまは、松岡さんの中で「仕事=お芝居」という感覚ですか?

"いまは"っていうか、この世界に入ったときから、ずっとその気持ちは変わってないかな。オレはひとりっ子というのもあって、小さい頃から周りにホラばっかり吹いてたんですよ。ある意味、オレの中ではホラを吹くことも、全部芝居と一緒なの。実際にはなかったことも、さも本当にあったことかのように話してたからね(笑)。だって小学校5、6年の時に「オレ、芸能界にいるんだ!」ってクラスメイトに言い張ってたんだもん。

――でも、それはホラではなくなった、と。

そうね(笑)。
別に後付けでもなんでも、「とにかくやっちまえばいいんだから!」っていう思いは、その頃から既にうっすらあったかな。結局オレは、嘘やホラを本当にするために、一生懸命頑張ってきたタイプだよね。自分から既成事実にしていっちゃうっていうかね(笑)。

――では、最後に改めて。松岡さんの考える「密告はうたう2」の注目ポイントとは?

要は、「ジンイチ」と呼ばれる、警察の不正を取り締まるプロ集団・警視庁人事一課・監察係の存在を、一般の視聴者の方々にどこまで浸透させられるかというのが、勝負になってくる作品にはなるというか。公安でもない、特殊な世界の話で。普通だったらこういう題材って、避けて通りたくなると思うんですよ。でも、「WOWOWならここまでできるんだ!」という楽しみがあったし、「このセリフを口に出せるのはすごい!」と思うような場面も、たくさんありましたから(笑)。そういう意味では、非常に挑戦的な作品で。「食わず嫌い」じゃないけど、「美味しい」と感じるまでに時間がかかる食べ物ってあったりするじゃない? でもいざ勇気を出して食べてみたら、「意外とイケるじゃん!」ってハマってしまうような。年を重ねると、山菜のエグミも旨いと感じられるようになってくるのと同じで、「なるほど! 世の中にはこういう食べ物があるのか」って、未知の味に目覚めるような面白さだと思う。人を信じることができない部署の人たちのお話だから、脚本を読んでいてもずっと疑心暗鬼なんだよね。まぁ、オレ自身も仕事柄、日頃から人を信じないようにしているというか(笑)。フィフティフィフティぐらいにしといた方が、裏切られた時も楽なんだろうなと思うよね。
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