説明会に登壇した取締役社長の小林圭三氏は「日本国内では充電インフラ整備の遅れに伴う充電渋滞が発生しており、EVの具体的なユースケースの検討が進んでおらず普及が遅れている。 さらに、事業活動で排出されるCO2の中でも、通勤車両におけるCO2削減の実現には、充電インフラの拡充と従業員のEV導入が必要不可欠だ」と語った。
事業所の駐車場には最大80台までの同時接続、20台までの同時充電が可能なマルチポートEVチャージャが設置されている。従業員の勤務中、駐車中のEVの充電を行い、「Scope3カテゴリー7」に該当する通勤車両におけるCO2削減を実現している。マルチポートEVチャージャ1台あたりの単価は工事費込みで約620万円。今回の実証設備には「合計で1億円台を投じた」(小林氏)という。
マルチポートEVチャージャは日立インダストリアルプロダクツが2023年9月に製品化したもの。拡張性を備えており、最大500kWの範囲内で、90kW×5口、25kW×20口など出力調整・同時充電が可能。また250kW・500kWの2機種があり、グローバルで本格化する超急速充電や大型EV充電のニーズに対応できる。
同実証では、基本的には勤務時間中の利用を想定しているが、休日問わず24時間365日プライベートで利用することもできる。また従業員はEVをリース会社と契約することで、EVをサブスクリプションとしてサービスの提供が受けられ、自宅に充電器がなくてもEVを導入できる。
8月21日現在、土浦事業所では324人が自家用車で通勤しているが、20人がEVでの通勤に切り換えたという。
日立インダストリアルプロダクツ 経営戦略本部 事業戦略第一部の五味玲氏は、「従業員が環境問題を自分ごととして捉えて、積極的にこの取り組みを盛り上げてもらえるようにしたい」と同取り組みの考え方を説明した。
事業者にとってもメリットが大きい。通勤時に排出するCO2を削減するだけでなく、EV充電にかかる電気を提供しているため、従業員に支払う通勤手当も削減できる。土浦事業所の試算によると、自家用車通勤の324人全員がEVでの通勤になった場合、通勤時のCO2排出は年間370トン、通勤手当は3820万円削減できる見込みだ。
同実証は2026年7月までの2年間実施される予定。同社は今後、土浦事業所におけるWEP運用を起点として、日立グループの各事業所へのWEP設置拡大、さらに蓄積されたノウハウを生かして日立グループ外への展開につなげる考えだ。
日本国内にある日立グループの全事業所にWEPが設置できた場合、通勤時のCO2排出は年間約3万トン削減され、年間30億円かかるガソリン代は年間6億6500万円の電気代に置き換わり、燃料代が削減される。「日立グループ全社がこの仕組みを導入できれば、非常に大きなインパクトとなる」(五味氏)
同社は現在、従業員がスマートフォンからリアルタイムでEV充電器の利用状況を確認したり予約したりできるアプリケーションを現在開発中だ。日立グループの米国子会社であるGlobalLogicの技術を活用する。
また同社は、マルチポートEVチャージャの特長の一つであるEVからさまざまなモノへの電力供給ができる機能「V2X(Vehicle to Everything)」を生かし、ピークカット、ピークシフトといった拠点内エネルギーマネジメントをはじめ、拠点間エネルギーマネジメントの実証を日立グループ間で計画している。
さらに、日立グループ内のソリューションとも連携し、さまざまな業種において、EV普及を後押しする日立グループのプロダクト、OT、ITによるグリーン領域のトータルシームレスソリューションの提供を目指すとのことだ。