今回は、主演のセバスチャン・ミカエリスを演じる立石俊樹にインタビュー。2021年のコロナ禍に上演された前回の思い出や再演に向けた決意、新キャストとの共演に向けた意気込みを聞いた。
○ミュージカル「黒執事」3年ぶりの再演に立石俊樹の心境は?
――今回、再演の話を聞いたときの心境はいかがでしたか?
まず、純粋に嬉しかったですね。ファンの方が思っていた以上に喜んでくださって。やっぱりお客様の声があってこその再演だと思うので、それが叶ったことはすごく嬉しかったです。
――前回の公演を振り返って、特に印象に残っていることはありますか?
当時はちょうどコロナ禍で、僕たちもすごく緊張感のある中で作品を作っていました。お客様にもご協力をいただきましたが、感染予防を徹底したり物理的なフェイスシールドの障害があったり、高い壁がある中での公演でした。
――公演前の取材では「自分がセバスチャンを演じる意味を見つけたい」といったお話をされていました。今だから思う、立石さんらしいセバスチャンとはどんな役だったと思いますか?
これはすごく難しいですね。この作品は課せられることも多くて、当時は目の前の課題をこなすことに精一杯だったので、自分の色をどこまで出せていたか正直自分では分からなくて。
○シエル役の小西詠斗とは「この2人じゃないとダメだ」という意識を共有
――セバスチャンとシエルは単なる主従関係を超えた、かなり複雑な間柄ですが、この2人の関係性について演じる中で変化はありましたか。
「信頼関係を結べるのはこの世の中でお互いだけ、2人だけ」ということに本番が始まってから改めて気付かされました。稽古の段階では正直そこまでの強い思いはまだなかったのですが、演じれば演じるほど自分たちを騙したり邪魔をしたりしてくる人がいることを実感して。
最後の2人だけのシーンは、特にそれを強く感じました。シエルはまだ13歳ですが、この世の闇を知ってある意味で達観している部分もあって、セバスチャンはそんなシエルにどこか希望を見出していて、もしいなくなったら虚しさが残るんだろうなと考えていました。
――シエル役の小西詠斗さんとそういった解釈についてお話しされたことはありますか?
直接話したことはないです。ただ、公演中も暇さえあれば一緒に過ごしているので、自然と共有できていたんじゃないかな。お互い分かっていながら敢えて口には出さないこともあるというか、深層心理の部分で「この2人じゃないとダメだ」ということは共有できていた気がします。
――「寄宿学校編」は、「黒執事」全体の中でもややスポ根もの的な雰囲気も感じられるストーリーです。かなり明るくにぎやかな場面が印象的でしたが、舞台上からはどんな風に見えていましたか?
2幕のクリケット大会のシーンは、端から見ていて見応えがありました。
――前回の公演ではクレイトンや他の寮生たちとのアドリブシーンにも参加されていました。思い出や裏話があれば教えてください。
当時はまだアドリブに参加する技量がなくて、公演の最初の方は演出の松崎史也さんからも「アドリブは控えめに」という話があり、あまり入らないようにしていました。公演を重ねる中でセバスチャンの人物像が徐々に見えてきて、感覚的にここは入れそうというのが分かってきたので、クレイトン役の古谷大和さんに引っ張ってもらいながら、行けそうなときに参加するようにしていました。
――アドリブはぶっつけ本番なんですか?
別の作品では本番でいきなりやることもありますが、『黒執事』では大和さんから毎回事前に流れを教えてもらっていました。本番前のアップ中に「今日こういう風な切り口で行くんだけど入ってこれそう?」と聞いてくださり、相談して決めていました。大和さんはセバスチャンの役割や立ち位置をしっかり分かってくれているので、「ここはセバスチャンは入らない方が良い」といったアドリブの中でのバランスは、いつも大和さんに判断してもらっていました。
○松下優也、古川雄大…先輩キャストの思い入れも感じる
――この約3年半の間に、先代のセバスチャン役である松下優也さん、古川雄大さんと共演されたと思いますが、何かお話をされたことはありますか?
松下さんとは以前、とある雑誌の対談でしっかりお話しさせていただきました。古川さんとは別作品の稽古やリハーサルの休憩時間に雑談でちょこちょこと。
――セバスチャンあるあるで盛り上がったりなんかも……?
あります! まず最初に「大変だよね」というのが出てくるんですけど(笑)、やっぱりセバスチャンは完璧でいないといけないので、振りも殺陣もミスできないんです。小道具の扱いも大変で、例えばナイフ一つ使うにしても、本番出たら本数が足りなかったり公演中に壊れたりといったアクシデントがどうしてもあるんです。でも、セバスチャンはそこで止まっちゃいけない。彼は手足さえあれば、きっとどんなものでも武器にできる人だから。そういう完璧でいなきゃいけない苦しさは、かなり“あるある”でしたね。
――一度覚えた殺陣や小道具使いは今でも体に残っていますか?
セバスチャンってすごく体に来る役なので、殺陣そのものというより、舞台上で乳酸が溜まる感覚を体がすごく覚えています(笑)
――乳酸が溜まるというのは、具体的には……?
走り方ですかね。漫画のコマからの想像や自分なりの執事のイメージですが、セバスチャンの走り方はスマートだろうなと思うので、そうすると足腰にかなり負担がかかるんです。なので今から準備しておこうと思って、最近は瞬発力や持久力のトレーニングをかなり意識してやっていますね。
――ちなみに、先日放送されていたアニメ『黒執事 -寄宿学校編-』はご覧になりましたか?
もちろんです。自分たちが寄宿学校編を舞台で演じた後に、アニメを見るのはすごく不思議な気持ちでした。2021年の上演時はそれまでにアニメ化されていたものを見て参考にしていましたけど、今回は寄宿学校編のアニメを役作りに活かすことができるのが新鮮だし嬉しいです。
“テニミュ”後輩との共演も 新しい風を感じながら演じたい
――今回小西さん・上田堪大さん以外の方は新キャストとなりますが、共演経験のある方はいらっしゃいますか?
グレゴリー・バイオレット役の定本楓馬くん。楓馬ちゃんはテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)やエーステ(MANKAI STAGE『A3!』)でも共演している、とても信頼を置いている役者の一人なのでとても嬉しいです。エドガー・レドモンド役の神里優希くんは1回テニミュの現場で会ったことはあるんですけど、芝居としては今回が初共演ですね。
――テニミュ4thシーズンの出演キャストも多いので、一緒にテニミュトークもできそうですね。
みんな俺の話聞きたいかな?ちゃんと敬ってくれるかな?(笑)
――そこは心配いらないと思います(笑)。後輩と接する際の、立石さんなりのコツはあるんですか?
そうですね、先輩風を吹かせに行く感じで……というのは冗談ですけど、その辺りはあまり上手じゃなくて。後輩には自分から面倒を見るというより、なるべく同じ目線で話すようにしてるんですけど、結果として敬語も使わないような後輩ができあがるという(笑)
――プライベートでも仲が良い後輩の方はいますか?
それこそシエル役の詠斗とか、阿久津仁愛くん……ですかね。先輩が多い現場に自分が後輩で入ることが多かったので、正直少ないです。でも実際、理想の先輩ってどんな感じなんですかね?
――立石さんが思う理想の先輩像はありますか?
それこそ前回クレイトンを演じていた大和さんとか、今回もご一緒する(葬儀屋役の)上田堪大さんはまさにそうです。普段は優しく見守ってくれて、間違っていたらしっかり指摘してくれる。優しさを持って接するのはもちろん、道を正すようなことも伝えられる存在でありたいなと思います。
――では、理想の座長像となるとどうでしょうか。グランドミュージカルへの出演も経て、座長に対する意識は前回から変わりましたか?
いろいろな座長の背中を見せていただいて思うのは、誰よりも熱心に稽古に参加して作品とお客様に向き合っている人には、周りが自然と付いていくんだなと。それは古川雄大さんを見ていてすごく感じたのですが、誠意を持ってしっかり取り組んでいると僕たちも頑張らなきゃと思わされるので、座長ということを意識しすぎず作品にしっかり向き合うことが一番重要なのかなと思います。
――最後に改めて、再演での意気込みを教えてください。
新キャストを迎えての再演ということで、続投組の3名は前回の公演で見えた課題や新しく挑戦したいことに取り組んで更に高いクオリティーのものをお届けする、新キャストはどんな役作りをしているかは未知数なのですごく楽しみですし、新鮮な風を受けながら、新しい作品に挑むつもりで臨みたいと思います。
■立石俊樹
1993年12月19日生まれ、秋田県出身。エーライツ所属。2017年、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンに幸村精市役で出演し俳優デビュー。主な出演作にMANKAI STAGE『A3!』シリーズ(18年~)、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(21年)、ミュージカル・ピカレスク『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』(23年)、ミュージカル『VIOLET』(24年)、ドラマ『テレビ演劇 サクセス荘3』(21年)、『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』(22年)など。
ヘアメイク:中元美佳、スタイリスト:MASAYA(PLY) 衣装:ベスト 62,580(MONOMERIC)、その他スタイリスト私物