藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、両者2勝2敗で迎えた最終第5局が10月28日(火)に山梨県甲府市の「常盤ホテル」で行われました。対局の結果、相掛かりの中盤戦で抜け出した伊藤叡王が97手で勝利。
会心の指し回しで大一番を制し、タイトル奪取に成功しました。
○トッププロの相掛かり攻防戦

勝った方が王座獲得という文字通りの大一番。振り駒で先手番を得た伊藤叡王は相掛かり空中戦に望みを託します。早い段階で飛車をぶつけたのが細かな工夫で、この手ですべての前例を離れました。得意の土俵で主導権を握りたいという伊藤叡王の注文は通り、持ち時間でリードすることに成功。しかし攻勢を取ったのは後手の藤井王座。端攻めから反撃して本格的な戦いが始まります。

盤上は終盤戦へ。大駒を取り合う激しいやり取りの直後にトッププロの攻防が待っていました。自玉そばに迫ると金を無視して攻め合ったのが控室の面々を驚かせた伊藤叡王の踏み込み。対して藤井王座も取れる金をあえて取らずに敵玉のカベ形を残すという驚愕の発想で応戦、結局このと金が金得の戦果に替わったのは実に18手後のことでした。

○会心譜でつかんだ奪取

伊藤叡王の厳しい攻めが後手陣を襲うなか、藤井王座も勝負手連発で相手を楽にさせません。
先手陣深くへの角打ちは藤井王座が残り時間を使い切って放った最後の切り札。先手玉にも詰めろがかかる筋がチラつき怖いように思われましたが、この日は伊藤叡王の安定した指し回しが一枚上をいきました。これを手抜いて左右から二枚竜を侵入させたのが読み切りの勝着に。

終局時刻は20時34分、最後は自玉の詰みを認めた藤井王座が投了。深い事前研究を生かして序盤から主導権を握りつつ、最後まで藤井流の勝負手をかわし切った伊藤叡王の充実ぶりがうかがえる快勝譜となりました。これで3勝2敗とした伊藤叡王は自身初となる王座獲得に成功、あわせてタイトル通算3期で九段昇段を果たしています。

局後の会見にて伊藤叡王は「まだまだ実感は湧かず信じられないという気持ち。藤井さんのライバルと呼んでもらえることは光栄、他棋戦でも藤井さんに挑戦していい将棋を見せたい」と今後のタイトル挑戦に意欲をのぞかせました。一方敗れた藤井王座は「すこしずつ力をつけていくしかない」と悔しさをにじませました。

水留啓(将棋情報局)
編集部おすすめ