相続対策というと、「節税テクニック」をイメージする人も多いかもしれません。しかし実際には、相続で最も大きな損失を生むのは、“制度”ではなく、“家族の話し合い不足”だといいます。
「親のお金の話をするのは気まずい」「相続の話は縁起が悪い」そんな空気が、一族の資産を静かに減らしていくこともあります。
では、二次相続の負担を避けるために、家族は何を話し合い、どう資産を分けるべきなのでしょうか。
○相続を「家族の経営課題」と捉え、情報の壁を打破する
──二次相続を見据えた「戦略的な資産分散」には、親子の対話が不可欠です。どのように話を切り出すべきでしょうか?
岩永氏:相続の話し合いは、「誰が得をするか」という視点で始めてしまうと、感情的な対立を生みやすくなります。重要なのは、「家族の資産を最大化するための経営課題」として捉えることです。
実務上は、財産分割の話に入るのではなく、まずは認識を揃えるところから始めることが有効です。
例えば、「相続って1回ではなく2回あるから、トータルで考えた方がいいらしいよ」「今は相続税が0円でも、将来は2,000万円以上増えるケースもあるみたいだよ」といったように、“将来の損失を回避する”という視点で話を切り出すことで、心理的な抵抗を和らげることができます。
さらに重要なのは、その後の進め方です。
○(1)財産の全体像を可視化・共有する
預貯金・不動産・金融資産などを大まかに可視化し、現状を把握します。
○(2)二次相続まで含めたシミュレーションを行う
一次相続だけでなく、二次相続まで見据えた税額を確認することで、意思決定の軸を明確にします。
○(3)分配の方針を「家族全体の最適」で決める
個々の取り分ではなく、最終的にいくら残るかという視点で合意形成を図ります。
○(4)遺言や生前対策で具体化する
方針だけで終わらせず、実行可能な形に落とし込むことが重要です。
相続対策で最も難しいのは税金の計算ではなく、家族間の合意形成です。だからこそ、「誰がいくら得をするか」ではなく「家族全体でいくら残せるか」という共通の目標を持つことが、最適な意思決定につながります。
○資産特性に合わせた「承継のゴールデンルール」
──一族の純資産最大化を考える際、資産の種類によって「誰が継ぐべきか」の指針を教えてください。
岩永氏:相続は単なる分配ではなく、二次相続まで見据えた資産配分の設計です。「評価額の将来変動」と「納税資金の確保」という2つの視点が特に重要です。以下の原則を軸に設計してください。
○(1)現金・預貯金→子への優先配分が有効
現金は分割しやすく、納税資金としても直接活用できるため、生前のうちに一定額を子へ贈与しておくことで、将来の納税リスクを大きく軽減できます。また、現金は基本的に評価額が増加しないため、早期に移転しても税務上の不利益が生じにくい資産です。
○(2)自宅不動産→配偶者または同居予定の子が承継
自宅については、「小規模宅地等の特例」の適用可否が極めて重要です。配偶者が取得する場合は原則適用可能ですが、二次相続で同様の要件を満たせるかまで含めて設計する必要があります。単に配偶者に集中させるのではなく、「二次相続でも特例が使えるか」まで見据えた承継先の選定が重要です。
○(3)収益不動産→子世代への早期移転が有効
収益不動産は、将来的な評価上昇の可能性や家賃収入の蓄積という特徴があるため、配偶者に集中させると二次相続時に課税額が膨らみやすくなります。
○(4)株式(特に成長性の高いもの)→ できるだけ早期に子世代へ
株式は値上がりによって相続税評価額が増加します。そのため、将来値上がりする資産ほど、早く次世代に移す方が有利です。特に成長株や事業承継株式については、「誰が保有するか」が将来の税負担に直結します。
整理すると、本質的な考え方はシンプルです。
「値上がりする資産は下の世代へ。使う資産は上の世代へ。」
この原則を軸に設計することで、二次相続時の課税額と納税リスクを大きく抑えることができます。
一族の純資産最大化を考える上では、相続において重要なのは「公平に分けること」ではありません。「最も合理的に残すこと」です。資産の種類ごとに最適な承継先を設計し、二次相続まで見据えて分配することで、はじめて一族全体の純資産は最大化されます。
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岩永悠 いわながゆう アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。26歳で税理士登録。税理士法人2社で経験を積み、2013年独立。15年法人化。資産税に特化した税理士法人として、わずか数年で西日本トップの相続税申告件数を誇るまでに急成長させる。現在はグループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」の体現に向け、相続・事業承継分野を基軸に企業の成長支援や海外事業など多角化を推進。社労士法人や行政書士法人等も擁する国内有数の総合コンサルティンググループを牽引している。主な著書「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(23年改訂版発刊、24年重版) この監修者の記事一覧はこちら











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