「心理カウンセラー×アスリート」の対談で「心のマネジメント」についてひもとく連載の第4回目。臨床心理士・公認心理師として様々な悩みを抱える人をカウンセリングしてきた心理カウンセラーの塚越友子氏と埼玉パナソニックワイルドナイツに所属する藤田慶和選手編最終回となる今回は、今夏に行われた東京五輪でのパフォーマンスを中心に「心の整え方」を学びます。

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みんなといるときは明るくいられても、1人になると不安に。友人の前では弱音を吐き出していた

塚越 前回は試合に臨む際には準備、プロセスが大事だというお話を聞かせて頂きました。また今夏の東京五輪についてはコロナもあって、調整期間がずれたりいつ開催されるのかという不安もあったと思います。藤田選手は怪我をされていて、直前までリハビリをしながらの調整だったかと思いますが、いつもと違ったメンタル面での工夫とかはありましたか?

藤田 まずコロナ禍での延期に関しては、僕たちがどんなにわがままをいっても覆らないことですし、コントロールできないこと。開催が危ぶまれていましたけど、僕は絶対に開催してもらえると思って準備をしていました。その中で、延期が決まった後の一年は、僕はずっと怪我と復帰の繰り返しでした。

メンタル的には、以前自分はポジティブだと言いましたけど、この期間はかなりメンタルは辛かったです。

塚越 どのような状態になったのでしょうか?

藤田 コロナになってからは代表合宿中も1人部屋だったんですが、みんなといるときは明るくいれても、1人になると『本当にオリンピックに行けるのかな』と不安になったりもして。全くラグビー関係無い友達にも結構相談してましたね。そうすることで、元気をもらったりしたので、そういう友人の存在が今回かなり大きかったなと思いますね。

塚越 藤田さんでも不安になったりすることはあったんですね。

藤田 やっぱりチームの前では士気を下げるわけにもいかないので、弱音を吐いたりできないし明るく振る舞っていましたけど、友達の前では弱い部分を吐き出していました。

でも意外とそういう時友達って、『怪我なんて、やってしまったことは仕方ないやん。まず治すことからやろ』みたいに、自分はオリンピック大丈夫かなとか先のことを心配していた時にそう言ってくれたので、『まずケガを治すことか』と元気をもらえたなと感じています。

塚越 先を考えて不安になっていた藤田さんをお友達が「今」に戻してくれたんですね。

藤田 まずやるべきことをやろう、という気持ちに戻してくれましたね。

塚越 五輪までの一年は怪我のことで悩んでいたということですね。

藤田 怪我がまた再発して、メンバーに選ばれなかったり、オリンピックにいけなかったらどうしようという思いと、しっかり治そうという思いが戦っていたというか。

その中ですごくキツかったですけど、友達とかの支えもあり、そこを乗り越えて今回オリンピックにいけたので、そこは自分の中では大きな成長だと思いますし、どんな形であれこの壁を乗り越えられたことはすごく大きかったなと思います。

塚越 私の心理士としての経験からですが、『悩んだ時に人に頼れない』『弱いところを見せられない』という人は多いです。その中で、藤田さんが、人に頼れたというのはどんな部分にありますか?

藤田 僕は信頼している友達に関しては結構なんでも話すので、そういう友達がいるということは、僕の強みなのかもしれないですね。

塚越 元々周りとの信頼関係があるからこそですかね。

藤田 性格的に、人と話すのが好きということもあると思うんですが、これまで積み上げてきたものが、支えになったなというところもありますね。

塚越 いろんな角度から藤田選手を強くしてパフォーマンスを出させているという感じがします。


藤田 色々な方の支えがあって僕があるなと今は思っているので、それは本当にたくさんの人に感謝したいですね。

塚越 藤田さんのお話を聞いているととても素直で外交的だし積極的です。そういったことでパフォーマンスや人間力につながっているようにも感じました。いつからそのような考え方はできていたのでしょうか?

藤田 多分意識をしているというよりは自然とという感じですかね。あとは言われたことはすぐやっちゃうタイプですね。『こうしたほうが良いよ』と言われたら、すぐ試してみたりとか。

それで、『これは僕に合わないんだ』とか、『これやってみよう』とかという形で、自分に取り入れたりと、人に勧められたら一回は自分で試してみます。これは小さい時からです。

目標や夢のためなら妥協はしない

塚越 また心の整え方としてイメトレ以外にも何かノートをつけるとか日々の準備でやっていることはありますか?

藤田 そういったことでいうと、オリンピックまでの挑戦にあたって、ミーティングや日々の出来事などでも『ここすごくターニングポイントだな』と感じたときは、日付と共に、どういうことをやったかをノートに書いていましたね。あとは、別にこれがメンタルトレーニングではないかもしれないんですが、実家に帰ったりすると、必ず祖父母の家とかお墓参りにいき、仏壇に手を合わせることはやっていますね。そこで今までの自分を報告していますね。

塚越 報告することでどんな気持ちになるんですか?

藤田 ご先祖様っていつも自分のことを見守ってくれていると思うので、『いつもありがとうございます』ということを伝えに行くという感じですかね。高校時代から続けていますが、今ではリフレッシュというか、逆に行かないと気持ち悪いくらいな感じです。


塚越 ご先祖様など見えない力も自身のパワーにつなげているんですね。自分だけでやっているというよりは、色々なものに支えられて総合的に今の自分があるという意識があるというか。責任も生まれていくんでしょうね。

藤田 やっぱりそこも、プロ2年目の時に、自分のためから人のためという風に変わったという話もしましたが、そこから色々なことが変わったなという感じがします。
それもやっぱり、目標や夢があるからなのかなと思います。そこに向かってなら妥協もできないし、自分が決めたことなので最後までやり遂げたいなという気持ちがあるので、そこはぶれたくないなというのはありますね。

塚越 いつ頃からそのような自らの強い意志が生まれたのでしょうか?

藤田 小さい頃は父親がコーチだったこともあり、すごく叱られながら厳しくされながらやってきました。でもやっぱり、一回素晴らしい成功であったり、優勝や仲間と勝った時というのは言葉にできないくらい嬉しいんですよね。それをもう一回味わえるなら、別にこれくらい大丈夫という感じですかね。

塚越 改めて藤田さんのマインドセットの方法を色々聞かせて頂いて、失敗一つとっても、『良い失敗と悪い失敗』がある、『なんとなく勝てた」はアスリートにとって1番怖い』というお話は非常に興味深かったです。いわゆる一般的な『ポジティブ』とも違いますし、経験に裏打ちされた上で自分が結果を出すためのプロセスを上手に楽しんでいる、さすがだなと感じました。

藤田 こちらこそとても貴重な経験ができました。ありがとうございました!

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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塚越友子(つかこし・ともこ)

過去に自身で仕事中にうつ病を発症した経緯から、働く人のカウンセリングに注目。2008年に東京中央カウンセリングを開業。社会学修士号(社会心理学)教育学修士号(臨床心理学)。公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー。

藤田慶和(ふじた・よしかず)

ラグビースクールの監督をしていた父の勧めで7歳から競技生活をスタート。名門・東福岡高校時代に頭角を現すと全国高校ラグビーで主力として3連覇を果たす。2015年ラグビーW杯ではチーム最年少出場、今夏の東京五輪では7人制ラグビー日本代表として戦った。埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。