間もなく終わりを迎える2023年。アニメシーンでは話題作が多数登場したが、本命と目されていた『テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』『呪術廻戦』を脅かす高評価を得た作品も多い。
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■『鬼滅の刃』最速上映に熱狂した1月期
1月期は、主人公が妹の企みによって性別を変更させられる過激な設定とほのぼのとした日常のバランスが絶妙な『お兄ちゃんはおしまい!』、百合×異世界×アクションを楽しめる『転生王女と天才令嬢の魔法革命』と、多様化した現代の価値観に寄り添った作品の人気が目立つ。また、『とんでもスキルで異世界放浪メシ』では劇中に実在のネットスーパーや商品がたびたび登場して話題を呼んだ。
スマッシュヒットが目立つ印象の1月期に大きな盛り上がりを見せたのは、テレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』第十話、第十一話と、その後に続く『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』第一話が先行公開された『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』。音柱・宇髄天元が竈門炭治郎の窮地を救う名シーン、そして妓夫太郎や堕姫の過去が明らかになる「遊郭編」のクライマックスに続いて「刀鍛冶の里編」第一話が始まると、冒頭から無限城の描き込みで観客の度肝を抜き、新作を待ち望む全世界のファンの期待に応えた。
なお、3月には『かぐや様は告らせたい』の赤坂アカと『クズの本懐』の横槍メンゴがタッグを組み、世界観やストーリー、ミステリー要素など新たな切り口で芸能界を描くテレビアニメ『【推しの子】』第1話を先行上映する『推しの子 Mother and Children』も公開。ヒロインのアイが殺される物語の始まりを描いた本作では、登場すると即座に視聴者の心を掴んだアイが同話で絶命する展開で衝撃を与えた。
■大本命『鬼滅の刃』vs楽曲メガヒット『推しの子』激戦の4月期
4月期は、『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』で世界を熱狂させた『鬼滅の刃』テレビアニメ新シリーズ「刀鍛冶の里編」が放送開始。日本映画史における興収記録を塗り替えた「無限列車編」、宇髄や堕姫の熱狂的なファンを生んだ「遊郭編」に続く本シリーズでは、竈門炭治郎らとともに戦う2人の柱の成長と、救いようのない本性を露呈していく2体の上弦の鬼がそれぞれの過去とともに対照的に描かれた。
そんな『鬼滅の刃』を脅かす存在となったのが、「日本アニメトレンド大賞2023」大賞を受賞した『【推しの子】』。
アニメ映画では『名探偵コナン 黒鉄(くろがね)の魚影(サブマリン)』が公開初日の4月14日~16日の観客動員210万人、興行収入31.4億円、公開から24日間で興行収入100億円を突破し、劇場版シリーズ歴代No.1の成績を叩き出した。
■地獄の始まり『呪術廻戦』と希望見えた『無職転生』
7月からは、いよいよ2クール連続で『呪術廻戦』の第2期がスタート。原作ファンから「ここからが地獄」と言われていた通り、衝撃の連続で視聴者の情緒は乱高下することに。視聴者を絶望させた要因としては、メカ丸、七海建人を殺し、釘崎野薔薇の顔面を破裂させた真人の存在が大きい。残酷な術式“無為転変”によるショッキングなシーンが多く、原作者・芥見下々に対して人の心があるのかどうかを疑問視する声も多数寄せられた。
それでも1期とは大きく異なる画風で、原作の魅力を損なうことなくオリジナル要素もふんだんに取り入れたMAPPA渾身の表現力はすさまじく、絶望しながら魅了されるという奇妙な現象を起こした。「渋谷事変」最終話放送後に制作が決定した新シリーズ「死滅回游」に対するファンの期待も大きい。
2021年に放送され、緻密な設定を妥協のないアニメーションで表現したテレビシリーズ『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の続編となる『無職転生II ~異世界行ったら本気だす~』も同時期に放送開始。
アニメ映画は、宮崎駿(※)監督10年ぶりとなる長編新作『君たちはどう生きるか』が7月14日より公開。事前情報がほとんどなく、内容に対しても賛否が分かれているが、観客動員数は公開後1ヵ月余りで439万人を記録。邦画でもアニメ作品でも初となるトロント国際映画祭オープニング上映作品に選出され、ゴールデン・グローブ賞<映画の部>でもアニメ作品賞にノミネートされた。
■沈む視聴者救う 『葬送のフリーレン』快進撃
10月期は、『SPY×FAMILY』Season 2、『薬屋のひとりごと』、『シャングリラ・フロンティア』、『ミギとダリ』、さらにNetflix配信の『PLUTO』など話題作が続々と登場。アニメ映画では現在公開中の水木しげる生誕100周年記念作品『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』がヒット、さらに12月22日に公開されたばかりの『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』も全国映画動員ランキング1位に輝くなど豊作期となったが、なかでも金曜ロードショーによる初回4話一挙放送で注目を集めた『葬送のフリーレン』の快進撃が目覚ましい。
人(エルフ)の変化と成長を描く原作の魅力、見せ場を引き立てる作画、フリーレン役・種崎敦美(※)ら声優陣の名演など良作の条件を満たしているのはもちろんだが、本作ではさらに2つの役割を担う“回想”と“音楽”が印象的だ。
魔王を倒した勇者の死から始まる物語では、主にフリーレンの回想によって彼女の過去と勇者一行の輪郭が徐々に明瞭になっていく。また、回想は見せ場への種明かしとしても機能する。この2つの役割によって、視聴者はフリーレンとともに勇者一行の旅の痕跡を辿りながら各話の山場がどうなるのかを理解することになるが、特筆すべきは“結末がわかったうえで過程を楽しめる”構成。
特に“葬送”のタイトル回収と「アウラ、自害しろ」で人気を不動のものにした“断頭台のアウラ編”は、結果が予想できるうえフリーレンのアクションシーンも少なかったが結末を見せるまでの演出が素晴らしく、国内外問わず非常に高い評価を得ている。
見せ場を引き立てる音楽による感情の誘導も忘れてはならない。静と動の緩急が特徴的な作風を象徴するような無音を効果的に使うことで、見せ場で流れる素晴らしい音楽がより際立つ。回想と音の緩急が一体となって盛り上げるシーンは鳥肌が立つほど感情を揺さぶられる。
音楽を担当したのは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などアニメ音楽を多数手掛ける作曲家エバン・コール。また、『推しの子』で「アイドル」を担当したYOASOBIのオープニング楽曲「勇者」は、2023年12月時点でYouTube視聴回数5千万に迫るヒットを記録している。2クール放送の『呪術廻戦』が本格的な鬱展開を見せるなか、絶望ではなく感動で泣ける本作に助けられたという視聴者は多い。
■2024年も注目作が目白押し
2024年は、春に『テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編』が放送開始。「刀鍛冶の里編」と同じく、2月2日より『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』も上映される。原作のエピソードから、これまでのような柱vs上弦の鬼の激しいアクションは少ないと予想されるが、上がり切ったファンの期待に応えるためどのような作品に仕上がるのか注目だ。
このほか、1月期に『キングダム』第5シリーズ、『うる星やつら』第2期、『青の祓魔師 島根啓明結社篇』、4月期に『ゆるキャン△ SEASON3』、『怪獣8号』、『ザ・ファブル』、『響け!ユーフォニアム3』、『黒執事 寄宿学校編』、『転生したらスライムだった件』第3期、『僕のヒーローアカデミア』第7期、10月期に『ダンダダン』がスタート。
さらに、『【推しの子】』第2期、『ダンジョン飯』、『狼と香辛料 merchant meets the wise wolf』の年内放送、映画では4月から劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』、『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』の公開も決まっている。希望も絶望も与えながらファンを魅了した2023年に負けず、話題作が目白押しの2024年。
※崎の正式表記は「たつさき」