入江悠監督が、直木賞作家である垣根涼介の同名小説を映画化する『室町無頼』。大飢饉と疫病が襲いかかった混沌の室町を舞台に、巨大な権力に戦いを挑んだアウトローたちの姿を描く本作は、ド迫力かつ、登場人物の生き様を見事に映し出したドラマチックな展開と、大迫力のアクションも大きな見どころだ。
【写真】高難易度のアクションに挑戦するなにわ男子・長尾謙杜
◆入江監督と京都の職人たちの情熱&技が融合! 室町時代へとタイムスリップ
物語の舞台は、「応仁の乱」前夜の京。民が飢え、貧しくなる一方、時の権力者は享楽の日々を過ごすばかり。京とその周辺の悲惨な状況、民の怒りや悲しみを目にしていた兵衛は、ひそかに倒幕と世直しを画策していた。天涯孤独だった才蔵を鍛え、個性たっぷりのアウトローを束ねた兵衛はいよいよ巨大な権力に向けて大暴動を仕掛けるが、道賢率いる幕府軍が立ちはだかる。兵衛は実在する人物で、日本史上初めて武士階級として一揆を起こし、歴史書に一度だけその名を留めている男だという。
現場を訪れたのは、2023年11月。肌寒くなってきた季節の京都撮影所には、680坪(約2250平方メートル)にもわたる広大なオープンセットが建てられていた。群衆を率いた兵衛が一揆を起こす御所前の通りを再現したもので、1ヵ月半をかけて建築された。この日はオープンセットを使用して、兵衛たちと道賢ら幕府軍が真正面から激突し、死闘を繰り広げるクライマックスの撮影が行われていた。
室町はこれまで映画やドラマでもあまり描かれたことのない、未知なる時代。
本作の企画は2016年に始動したものの、コロナ禍に突入したことで撮影延期を繰り返した。入江監督は「文献も読みつつ、中世の研究者の方々にも取材をさせていただきながら室町時代について調べていきました」と、延期期間も利用しながら徹底的な調査を重ねて撮影に臨んだ。連続ドラマW『ふたがしら』で京都撮影所を経験していたが、入江監督にとって時代劇映画は本作が初めてのこと。「東映の映画を観て育って、東映の映画、しかも時代劇を作れることは僕にとって大きな喜びでした。京都の撮影所に来た時には『ようやく撮れる。ここまで来たんだ』と実感しました」としみじみ。時代劇の技と経験を培った京都撮影所との仕事が、入江監督にとって最高に幸せな時間になっている様子だ。
◆大泉洋と堤真一の一騎打ち、長尾謙杜のワンカットアクション…満身創痍の激突にシビれる
大泉、堤、長尾が挑んだアクションは、見ているこちらもシビれるような瞬間ばかり! 剣の達人で、いつの間にか周囲を惹きつけてしまう兵衛をハマり役として演じた大泉だが、『探偵はBARにいる』シリーズでも大泉とタッグを組んできた企画・プロデュースの須藤泰司は「大泉洋史上最高にカッコいい男を演じてほしい」という口説き文句で、大泉に兵衛役を託したという。
大泉が「自分の命というものはどこか諦めていても、他の人のために何とかこの状況を変えてやる。そういう覚悟みたいなものを、胸の中に強く持って演じていました」と語るように、兵衛は誰かのために立ち上がる人だ。飄々としていながら、仲間たちの想いを背負って必死に戦う兵衛は、その言葉通り最高にカッコいい。大泉はリアルな立ち回りを追求し、自主練にも励みながらアクションに挑んだ。「アクションが多い」とぼやきながらも、須藤プロデューサーによると「一生懸命に頑張っているところを見られたくないから、殺陣の練習も『見ないでください』と言っていた」そう。見えないところで努力をしつつバシッと決めてしまうのは大泉のすごいところ。その上達ぶりにはアクション監督も「感動した!」と涙していたそうだが、満身創痍の50代の挑戦、大泉の新境地をぜひ確かめてほしい。
御所前のクライマックスの場面では、兵衛と道賢の一騎打ちのシーンもある。両手に刀をもった“二刀流”で、道賢に向かっていく兵衛。体当たりでそれを受け止める道賢。
堤が戦闘着として身につけている衣装は、本物の鉄の鎖帷子から転用して制作されたものでかなりの重さがあるという。堤は「それを着て立ち回りをしなければならなかったので、腰を痛めました」と笑顔を見せながら、「でも、リアルな迫力は出ていると思います!」とキッパリ。黒ずくめの着物に迫力のオーラをみなぎらせた演技はすさまじく、遠くから見学していてもカリスマとしての存在感は抜群だった。堤は、道賢としてのアクションについて「スピード感のある殺陣というよりは、大きく見せることだけを大事にしていました。太刀筋がきれいに行くように、波を打たないように。大きく、大きくメリハリのある動きを意識していました」とこだわりを口にしていた。
ベテラン勢がズラリと顔をそろえた中、京都撮影所に乗り込んだのが長尾だ。棒を武器にした珍しいアクションにトライしており、撮影現場でも常に棒を手にして馴染ませるようにしていたのが印象的だ。
撮影の合間に長尾はニコニコとした笑顔を絶やさずに会話を弾ませるなど、京都撮影所の職人たちからも愛されている様子が伝わってきた。スタッフに支えられたと感謝しつつ「京都撮影所のソフトクリーム」も元気の源だったのだとか。入江監督は、ひたむきに成長していく才蔵&長尾の姿がぴたりと重なるようだったと証言していたが、長尾は「これまでの作品の中で一番大変だったかもしれないです。高所から飛んだり、ワイヤー使ったり」と苦労もありながら、「毎日が楽しかった」とにっこり。いろいろな役をやった中でも「大泉さん同様、僕の中でも多分、史上一番カッコいいんじゃないかな」と役柄に愛情を傾け、「キャストの皆さんも刺激になって、より自分を引っ張りあげてくれるような人たちばかりで、いい経験でした。自分自身『もっと頑張らないと』、『より高みを目指さないとな』と思わせてくれる作品でした」、「根性がついた」と転機となる作品だと語っていた。
◆大泉洋が口にした熱い思い「時代劇はこれからも残していきたいもの」
本作のアクションは、東京を中心に活動しているアクション監督の川澄朋章と、京都の殺陣師・清家一斗が参加して作り上げられた。撮影現場では二人が意見を出し合いながら、役者陣に熱心に演出をつけていたが、須藤プロデューサーは、川澄によるトリッキーなアクション、清家による伝統的な殺陣が融合することで「見たことのないような新しいアクションができる」と二人体制にした意図を解説。室町というある種なんでもありの時代だけに、いろいろな武器や戦い方を登場させながら新鮮なアクションが生まれている。
現場の様子について聞いてみると、入江監督は「大泉さんと堤さんは、二人で芝居をすることを楽しみにしてくれている。お二人がワクワクしながら芝居できる空間を作りたい」、須藤プロデューサーは「才蔵は、最初は捨てられた子犬のよう。そこから兵衛の後ろをちょこちょことついていくようになる。そういったかわいらしさを見せられる人ということで、長尾くんにお願いしたいなと思いました。大泉さんと長尾くんは、カメラに映らないところでも関係性を作ってくれていて、すごくいい雰囲気です」とキャスト陣の熱意も高まり、いい風が吹いていると話していた。
撮影後に大泉は「身体的には本当にきつかったですけれど、兵衛という役をやるには、今の僕ぐらいの年になって出る味わいや雰囲気が必要だったんだなと今となっては思っています」と兵衛は今だからこそ演じられる役だったと力を込め、「僕も周りの人に散々助けてもらっているので、期待に応えたいと進んできた結果、道ができていたり、気づいたら周りに人がいたりするという点では、兵衛と重なるかもしれません」と語っていた。
また「時代劇というのはこれからも残していきたいもの。そういった意味でも、50歳で本格的に改めて殺陣を練習して挑めたというのはすごくよかったなと思っています」と充実の表情を浮かべながら、「時代劇はシンプルに、自分は何ができたら幸せなんだろうかということを考えるきっかけにもなるような気もしています。
映画『室町無頼』は2025年1月17日より全国公開。