芳根京子と高橋海人が共演する映画『君の顔では泣けない』が11月14日に公開される。これまでの「入れ替わり」ものとは一線を画す本作で初共演を果たした2人に話を聞くと、それぞれが持つ柔らかく温かい、真摯な人柄が伝わるインタビューとなった。

※高橋海人の「高」は「はしごだか」が正式表記

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◆初共演の印象は“イメージ通り”(高橋)&“全然違って…”(芳根)

 本作は、君嶋彼方のデビュー作である同名小説を坂下雄一郎監督のメガホンで映画化。ある日突然、誰かの体と入れ替わってしまう―数々の名作を世に送り出してきた“入れ替わりもの”。そこに“15年も入れ替わったまま”という独自の設定が加わり、新たな物語が完成した。芳根と高橋は、高校1年生の夏に入れ替わってから、15年間入れ替わったままの人生を生きてきた陸(芳根)とまなみ(高橋)を演じる。

――タイトルも印象的な本作ですが、出演オファーをお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか?

芳根:タイトルの印象が台本を読む前と後では全然違いました。一言で言ってしまうと入れ替わりがテーマの作品ですが、入れ替わった後の人生の物語なんです。私は入れ替わったら戻りたいと思うものだと思っていたけれど、「そうだよね、それだけの時間が経つと戻れない事情があったり、戻りたくない事情があったりするよね」と共感しました。

まなみ役を高橋さんにお願いしていますと聞いた時は率直にうれしかったです。この作品はとにかく陸とまなみの2人のお話なので、共に戦える方だとうれしいなと思っていました。テレビで拝見しているくらいで面識はありませんでしたが、すごく安心した記憶があります。

高橋:初めてチャレンジする入れ替わりという役どころだったので、最初に台本を読んだ時は、すごく高いハードルを感じました。入れ替わることが一番のイベントじゃなくて、そこから2人がお互いを思いやりながらも自分を大切にしていきながら15年間を過ごしていく。
それがとても日常的というか、静かに2人の思いがぶつかりあっていくみたいなところがすごく素敵な作品だなと感じました。

15年間という長い月日を背負うことになるので、責任の重い作品になるんだろうなと思いましたけど、芳根ちゃんがいるし、甘えさせてもらいながら楽しめたらなと思いました。

――おふたりは今回初共演とのことですが、どんな印象をお持ちでしたか?

芳根:いろいろな才能がある方で、お芝居も素敵だなと思いながら拝見していたので、どんな化学反応が起きるんだろうとすごくワクワクしました。

高橋:芳根ちゃんは意図していなくても自分の持っているエネルギーが自然と出ている、人間としてのエネルギーがすごい方だなと思っていました。その印象は現場に入っても変わらずでした。出るエネルギーがいいもの尽くしの人ってなかなかいないなって思います。

芳根:すごい褒めてくれます!(笑)

高橋:とても素敵ですよ。太陽の光をずっと浴びているような感覚でしたね。

芳根:私はバラエティとかを拝見していて、「ちょっと不思議な方なのかな?」と思っていたんです。でも全然違って、……すごく不思議な方でした(笑)。

高橋:やめてくださいよー(笑)。地に足をつけて生きていこうと思っているんだから!

芳根:(笑)。
つかめないところが魅力的で、嫌な“つかめない”じゃないんです。観ていて面白いというか。すごく柔らかくて不思議な人で、ふわふわと飛んで行っちゃいそうだなって思って見ていました(笑)。

高橋:うれしいです(笑)。

――中身が自分とは別の性別の、陸、まなみであるという難しい設定の役どころでしたが、演じる上で気をつけた点はどんなところでしょうか?

芳根:今回の作品は、入れ替わって戻ってというのがあるのではなく、入れ替わったまま1人にフォーカスを当てていくという感じだったので、演じ方としてはこれまでの作品と大きく何かが違うというのはあまりありませんでした。

ただ、自分の主観だけではどうしても乗り越えられない部分がいろいろとあったので、リハーサルをしっかり重ねてそこから育てていく、一緒に話し合って「これがいいのかな」「難しいね」って話し合いながら1シーン1シーンを作り上げていった感覚があります。

陸という人物を演じる上でも、男性の動きなど形から入るよりも中身のほうが大切だなと考えると逆に気持ち的にも軽くなった部分もありました。

高橋:表面的なものや見た目に囚われると苦しくなってきて、気持ちの深いところまでいけない感覚もあるから、いろいろ話し合った末に、身振り手振りや仕草みたいなものはあんまりなくていいかもねって話をしました。

芳根:15年も経ってくると慣れてくる部分もあると思います。そこまで意識しなくていいんだよねって話し合った憶えがあります。

高橋:感情も変わっていくから、その時の感情に沿ってやるほうが楽しいよねって。

◆「目が合う時と合わない時の使い分けのすごみ」「絶妙な間」――お互いの芝居に刺激

――お芝居を重ねる上で、お互いのここはすごいな!と感じられた点はどんなところでしょう?

高橋:自分が勝手に感じていたのが、目が合う時と合わない時の使い分けのすごみでした。
「うわー」「そういう感じなのね」って思うシーンがたくさんあって、自分もちゃんと応えたいなって思いました。

芳根:高橋君は間が絶妙なんです。作品の中で印象的な車の中でのシーンも、「気まず…」という間が絶妙でした!

高橋:あのシーンの感じを私生活でやっていたらヤバイですよね。

芳根:高橋君のそういう空気とかに、自分もブレちゃいけないし、もし持って行かれることがあっても自分は陸として戻らないといけないなと思いながら演じていました。柔軟な方だからこそ、こちらも柔軟でいなくてはいけないと改めて感じさせていただいたシーンがたくさんありました。

――演じられた陸、まなみはどんな人物だと捉えられましたか?

芳根:陸はあまり器用ではなく、直感型でそんなに視野も広くはないけれど、なにか憎めず、いい人ですね。目立つわけでもなく、そこまでハイテンションなタイプでもない、という感じを役に落とし込みました。

高橋:まなみはたくさん愛されて育ってきたから、斜に構えることはなくて天真らんまんですね。頭がいいから周りのことをよく見ていて、気持ちが落ち込んでいても元気なふりをするようなこともある。ヒエラルキーとかに囚われるとかもなく、自分の信念を持っている人です。

芳根:すごいいい人だよね。

高橋:受け皿が広い感じがする。
その余裕な感じが学生のころからあっただろうなって感じましたし、そこは人間性としてなかなか変わらないポイントだなと思いました。

演じる上では、だんだんと入れ替わりに慣れていく感覚、グラデーションみたいなものを大事にしていました。体と心が近くなっていっちゃう感覚みたいなもの。それは意識してました。

◆“本当の自分”と“外から見られる自分”のギャップの乗り越え方

――本作では、自分の人生を生きることへの葛藤や迷いが描かれますが、おふたりも表に出られるご職業の中で、“本当の自分”と“外から見られる自分”のギャップで悩まれたりすることはありますか?

芳根:現場によって自分が何をすべきかということが違うので、その瞬間その瞬間に対応している自分でいるっていう感覚です。決してどれも自分じゃないわけではないというのが前提で、テレビに出ている自分、家にいる自分で昔はその差みたいなものに悩んだこともありましたが、今は全部私!どれも全部作っているわけではなく、本当のことを思って表現していて、「いいんだよ、別に」と自分で自分を受け入れ始めたらすごく腑に落ちた感覚になりました。

お仕事をさせていただいている時、家にいる時、ギャップを感じてしまうこともあるけれど、どれもその瞬間一番この場でいい自分を選んでいるだけで自分だからねって。どれも自分で嘘はない、自分が自分を一番信じようって思っています。

――マインドチェンジのきっかけは何かあったんですか?

芳根:それまでは家に帰ってから疲れているなと思うことが多かったので、なにをどう無理したのかな?と考えた時に、発想を変えればちょっと気持ちが軽くなるというか。やっていることはあまり変わらないけれど、別に苦しむ必要ないよねって、自分と向き合ったら軽くなりました。

高橋:今の言葉を聞いていいなと思いました。以下同文にしたいくらい、好きな言葉でした。


“哲学”っていうと重たいというか、なにそれ?みたいに思われるかもしれませんが、僕は哲学を持っている人ってすごく強いと思っていて。「病は気から」っていうじゃないですか。感情で人生はかなり左右されているなって思うから、自分の哲学を持つことって大事だなって思います。

あれ? 質問なんでしたっけ?(笑)

芳根:それこそ高橋君はギャップがあるじゃないですか。

高橋:今世間のみなさんに知ってもらってる自分って100%じゃなくて、自分の中の一部分しか見せられていないから、それだけで判断されちゃうのはもったいないなって思ったりもします。でも、人が人を知ろうとしても誰だって100%知ることができるわけではないし、知っていこうとすると、膨大な時間がかかるじゃないですか。

芳根:自分でも自分を100%わからないもんね。

高橋:わかんないです(笑)。だからあまり見え方を考えず、自分のことだけは信じていようとは思っています。世間の人にどう思われてたって、自分が自分を愛せていないと人のことも愛せないし。

割と自分はメソメソしている時期が長くあって、今でもたまにメソメソしちゃうんですけど、でもそんな時は、自分が今まで歩いてきたことと、経験したことと、選択してきたこと、全部自分で選んでることだから、それに対して自信を持てていないとダメだなって思い直します。自分だけブレなければ、何を言われようと徐々に伝わっていくんじゃないかと思っています。


――30歳を迎え大きなターニングポイントを迎える陸とまなみの姿も本作の大きな見どころだと感じます。

高橋:体を貸し借りし合っている状態で過ごしているから、戻りたいって気持ちもあったり、今の状態でできたたくさんの思い出で戻りたくないっていう気持ちもある。お互い同じ気持ちであってほしいという願いもあるけど、相手にも積み重なってきたものがあるって知っているからこのタイミングで戻ろうと強くも言えなくて。

芳根:15歳で入れ替わった時と、いざ30歳で元に戻るってなったら、2度目のほうがより複雑化すると思います。15歳~30歳で作り上げてきたものってどうしたって壊せないものがたくさんあると思うんです。結婚もそうだし、30歳になって戻れるってなったとしても、簡単な話ではなくなってしまっているというのがこの作品の特に面白いところだなって思います。

高橋:選択するって本当につらいですよね。入れ替わっちゃいました!の瞬間のほうが、気持ち的にはまだ楽な気がします。

芳根:15歳までの記憶だけで戻ってしまっても、やっぱり生活面など大変なことがここから先に待っていますよね。自分の体は戻ってほしいけど、状況が…、環境が…っていう。

高橋:苦しくなってきた(笑)。どっちの選択をしてもいいこともあるし悪いこともある。2人には幸せであってほしいですよね。

芳根:15年入れ替わったという事実は変わらないからつらいと思います。またここから人間関係も築き上げていかなければいけなくて、「この人、誰?」みたいな人もきっといっぱいいて…。現実的に考えると…。

高橋:なかなかえぐみがある作品ですね。

芳根:2人で取った選択や向き合ってきたことを、絶対に悪いことじゃないと思ってほしいですし、絶対に幸せになってほしいと思います。

(取材・文:近藤ユウヒ 写真:米玉利朋子[G.P. FLAG inc])

 映画『君の顔では泣けない』は、11月14日公開。

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