サバイバルゲームの金字塔「バイオハザード」シリーズや同ゲームのハリウッド版映画シリーズにプロデューサーとして携わるヒットメーカー・小林裕幸氏。そんな彼がプロデュースを務める、ゲームの世界観を継承した2008年のフルCGアニメーション映画「バイオハザード ディジェネレーション」の続編「バイオハザード ダムネーション」がついに封切られる。


レオンがピンチ!? WEB初出し「バイオハザード ダムネーション」写真

 前作「ディジェネレーション」は限定公開だったにも関わらず、関係者も腰を抜かすほどの驚異的ヒット。ゲームシリーズ、ハリウッド版映画シリーズ、そしてCG版がなぜここまで支持されるのか?その謎を紐解くべく、カプコン東京支店に潜む小林プロデューサーを直撃した。内紛が続く東欧を舞台に、B.O.W(有機生命体兵器)の実戦投入の情報を聞きつけたエージェントのレオン・S・ケネディが反政府組織とともに驚愕の真相に迫る様を描く「ダムネーション」。初回出荷枚数450万本を突破した最新ゲームシリーズ「バイオハザード6」にも繋がる重要作品で、3D公開される。

 「ディジェネレーション」製作について「ゲームの延長線上の映像作品を作るのならばCGしかないと思った」と振り返る小林プロデューサー。その一方で「映画ファン、そしてゲームファンに喜んでもらえるかどうか未知数だったので、リスクはありました」と当時の心境を明かす。
だが公開された途端「平日のお昼も劇場の席が埋まる大ヒット。自分自身も驚くほど」と身を持って手応えを感じた。その手応えが、続編「ダムネーション」へと繋がったのは言うまでもない。

 舞台は東欧で、最新のモーションキャプチャー技術、役者、声優も海外のアクターを起用。プロデューサーの小林をはじめ、監督、脚本など主要スタッフはすべて日本勢ではあるが、その仕様はハリウッド映画顔負けだ。「目指したのは、大人が観るに耐えうるハリウッド映画。
ライバルは『007』や『ミッション・インポッシブル』で、ハリウッドの実写アクション映画に勝つ意気込。アニメーション作品とも思っていないんです」と土俵は広い。この視点こそ、現在の邦画に欠けているものだ。日本国内では邦画の興行成績は洋画を抜いているが、世界ではどうだろう?小林プロデューサーは「邦画にはハリウッドとは違った方向の面白さがある」としながらも「海外と勝負するために作っているものはほとんどない。日本人の意識は世界の思考とずれている」と指摘する。

 その悩みはゲーム業界も同じ。
海外で爆発的ヒットしているゲームでも日本では泣かず飛ばずのことが多々あるそうで、その逆もしかりだ。「日本だけマーケットが別なんです。邦画同様に、国内だけでヒットするという傾向にある」と分析する。「バイオハザード6」の初回出荷枚数は、カプコン史上初の最高数を叩き出したが「本当はもっと上の数字を目指していました。こんなに頑張ったのに、ハードルは高いんですよね」とヒットメーカーも苦笑。反面、その高いハードルを優に飛び越えて長寿化した「バイオハザード」シリーズ。
このキラーコンテンツの魅力とは何だろうか?

 ゲーム版第1作目から関わっている小林プロデューサーは、その秘訣を3つ挙げる。1つ目は「スタッフたちの真摯に作品に向き合う意気込みの高さ」。2つ目は「実際の世界状況をファンタジーという世界に反映させ、現実世界を彷彿とさせるリアルな舞台でキャラクターたちが活躍するという世界観」。そして3つ目は「キャラクターの成長と変化」という。これら秘訣は「ダムネーション」にもしっかり受け継がれている。現実世界で巻き起こる紛争やテロはバイオテロに姿を変え、ゲーム版「バイオハザード2」で新米警察官だったレオンが「ダムネーション」では、米国大統領直属の特務機関に所属するエージェントとして立派に活躍する。
「ゲームの世界の話だけれど、キャラクターそれぞれが現実に生きていて、まるでスクリーンに映るハリウッドスターのような存在になっている」と小林プロデューサー。

 だがシリーズ成功の秘訣にはもう一つの要素がある。それはゲームプロデューサーという肩書きだけでは収まりきらない、小林の高いプロデュース能力だ。「バイオハザード」のほか、プロデュースを務めたゲーム「Devil May Cry」、「戦国BASARA」はメディアミックスも大成功。企画段階では、ゲームの枠を超えた展開は視野に入れていないと言うが「ストーリーを練るのはもちろんのこと、相関図を作って、世界観を掘り下げて魅力的なキャラクターを生み出すことを意識」している。スタート時点から完璧に固められた設定、世界観が完成しているからこそ、シリーズ化やメディアミックス化されても軸がぼやけることはないのだ。
事実「ダムネーション」にはゲームファンにはお馴染みの謎の美女エイダ・ウォンが登場するが「神谷誠監督から、レオンとエイダの恋愛を描きたい、との提案がありましたが、これまでのゲームからの流れではありえない展開。NGを出しました」と打ち明ける。もちろん新しい可能性は探る。だが作品世界を壊さないことが大前提。「シリーズを守りながらも発展させるサジ加減が難しい」と実感を込める。

 そんな小林には「ゼロから劇映画をプロデュースする」という野望がある。だが「ゲームで現代日本を題材にした作品を手掛けた経験もないし、日本で人気のジャンルである恋愛映画をやれと言われたら悩んでしまう」と独特な日本のマーケットを警戒。しかし、邦画に希望は捨てていない。「金城武さん主演の映画『Returner リターナー』は世界を目指せるコンテンツだと思いました。同じように、世界に標準を合わせた作品をもっと作っていくべき」。そのアドバイスの先に待ち受けるものとは? ヒットメーカーの動向に注目だ。

 「バイオハザード ダムネーション」は10月27日(土)より2D&3D全国ロードショー