さらに、「僕自身も、近年、映画祭を含め、いろんな国へ行く機会があるので、そのときのエピソードも、かなり脚本に盛り込みました。バスに乗って迷子になったり、現地のテレビニュースで日本の災害映像を見てパニックになったり…。実際、フランスで東日本大震災の映像を観たときのショックは、計り知れないものがありました。劇中、葉子もそれに近い経験をしますが、遠く離れた外国で災害や事件を見ると、日本にいるとき以上にネガティブに捉えてしまうんですよね」と述懐した。
ウズベキスタンという未知の国で、約1ヵ月間にわたりロケが行われた本作。「今振り返ってみると、思いのほか自分が素直に表れた作品になった」としみじみ語る黒沢監督。「自分の旅の経験がいくつか入っていることも大きいですが、一番の決め手は、『撮影クルーを撮影している僕たちも、撮影クルー』という構成で映画を撮れたこと。出演者とスタッフが自然に渾然一体となってくるんですが、ふと気がつけば、僕がまだ、8mm自主映画を撮っていた学生時代の気分に戻っていた。あのころはまさに、俳優も監督もスタッフも関係なく、自分がやれることは何でもやっていましたからね」。そう目を細めながら、懐かしい日々に思いを馳せていた。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『旅のおわり世界のはじまり』は公開中。