第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたドイツ映画『ある画家の数奇な運命』より、本編冒頭映像が公開された。ドイツアート界の“負の歴史”として知られる<ナチスドイツVSモダンアート>を象徴する場面を収めている。



【写真】ドイツアート界の“負の歴史”を描き出す『ある画家の数奇な運命』冒頭シーン写真

 本作は、長編初監督作『善き人のためのソナタ』(2006)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が、現代美術界の巨匠で、ときにオークションで数十億円の価格がつくアーティスト、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに、祖国ドイツの“歴史の闇”と“芸術の光”に迫った作品。

 本編冒頭映像は、少年時代の主人公クルトが、叔母エリザベトに連れられてモダンアートが展示されている展覧会を訪れた場面。彼らはほかの見物客とともに、案内の男性から、それらの作品について「彼ら(作者)には草原が青、空が緑、雲が黄色に見える」「(もしそれが障害であれば)子孫に遺伝していくのを阻止しなくては」などと解説を受ける。ひととおり解説を受けた後、モンドリアンとカンディンスキーの絵画の前で「絵描きになるのはやめた」と言うクルトに対し、エリザベトは「好きな絵よ。内緒ね」と微笑みながら告げる。

 当時のナチス政権は、国内の美術館や画廊などから近代芸術作品を“堕落した作品”として押収し、それらをまるで芸術の公開処刑のように晒しものにする、本映像のモデルにもなった展覧会「退廃芸術展」を開催。
そこでは、現在は美術史上で確固たる地位を占めているピカソ、ゴッホ、シャガール、カンディンスキー、クレーらの作品に、作品をあざ笑い、近代美術への批判を一般大衆にあおるようなテキストラベルをつけて展示していた。同シーンは、彼らが差別的な“優生思想”を推進するために“芸術”を当時どのように利用していたかがわかる“負の歴史”を描き出したシーンとなっている。

●現代美術界の巨匠をモデルに描く『ある画家の数奇な運命』ストーリー

 ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母エリザベトの影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。ところが、精神のバランスを崩したエリザベトは強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋に落ちる。
元ナチ高官の彼女の父親こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気付かぬまま2人は結婚。やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。美術学校の教授から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが…。

 映画『ある画家の数奇な運命』は公開中。