市川実日子「毎回、恥ずかしいと思うところから始まる」 変わらない女優業へのスタンス

市川実日子「毎回、恥ずかしいと思うところから始まる」 変わらない女優業へのスタンス
       

 ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)では木村拓哉演じる島崎章との大人の恋が話題となった整形外科医の笠松多佳子役で強い印象を残し、ドラマ『凪のお暇』(TBS系)では主人公・大島凪の親友・坂本龍子役で物語にスパイスを加える。映画『シン・ゴジラ』ではゴジラ凍結に奔走する尾頭ヒロミ役で強く賢くたくましい女性像を確立した、女優の市川実日子。10月30日から公開される映画『罪の声』では、星野源が演じる曽根俊也の妻・亜美役を好演する。2000年に長編映画デビューして以降、20年にわたって、女優として輝き続ける市川だが、「どの仕事も、毎回ゼロからスタート。人前で演じることを恥ずかしいと思うところから始まる」と意外とも思える女優業への向き合い方を明かす。デビュー当時の思い、そして自粛期間を乗り越えて今、思うことを語ってもらった。

【写真】凛(りん)とした自然体なたたずまいが美しい市川実日子

◆「恥ずかしいと思うところから始まる」――女優業へのスタンス

 市川は、1994年に雑誌「Olive」の専属モデルとして芸能界デビュー。モデルとして大人気を博し、2000年、映画『タイムレスメロディ』で女優デビューした。「映画の世界に入ってみようと、震えながらでも決めたのはすごく大きなことだったと思います」と話すこのデビュー作は、市川にとって、女優人生の中で、一番のターニングポイントだった。

 「当時、映画のお話をいただいても、お断りしていたんです。映画に出演するなんて考えられなかったし、モデル以外の仕事をすることが怖かったんです。女優業をやることで、モデルの仕事が薄まってしまうような気がしていて…」。

 監督から「一度会って話したい」と要望があっても、なかなか踏み込めずにいたという市川。そんな市川に覚悟を決めさせたのは、身近なスタッフから言われた「あなたも監督に会ったらできないと思うかもしれないけど、監督もあなたと会ったら『やっぱり違った』って言うかもしれないよ」という一言。

 「その言葉を聞いたら、急に楽になったんです。そして実際にお会いした監督は、柔らかなまなざしの方で。お話ししているうちに、映画に出演してみようという勇気が湧いたんです」。

 それからは、モデル業とともに女優業にもまい進してきた。今、改めて振り返り、「人って変わるんだな」と感じるという。

 「毎回、仕事をする時に恥ずかしいと思うところから始まります。私の仕事って何だろうって(苦笑)。もちろん、慣れや経験が自分の中に降り積もっていて、今までの経験値や癖で物事を見てしまうこともあると思うんです。でも、それをなくしていきたいです。変わることを大事にして、その変化も受け入れていきたいと思っています」。

◆自粛期間を経て“ものを作る喜び”にあふれた現場に心がポカポカ

 今年は、世界中を席巻する新型コロナウイルスの影響も強く受けた。市川にとっても、大きな変化があった年でもあると思うが、「あの自粛期間があったからこそ感じられた」ものもあるとポジティブに話す。

 「『BG』は撮影途中のまま2ヵ月間も空いてしまって、(気持ちが)グラングランしました。そんな経験は初めてでしたから。でも、撮影が再開した日の帰り道に、心がポカポカしていたんです。それは、現場から“ものを作る喜び”を感じたからだと思います。現場は、徹底した対策をしたスタッフの皆さんの、撮影ができるうれしさであふれていました。やっぱり2ヵ月という撮影ができなかった時期があったことと、自粛中にみんなが自分を見つめ直した時間があったから、感じられたものだったと思っています」。

 ちなみに、自粛中は「気になっていたこと、いつかやろうと思っていたことをやっていた」と笑顔で教えてくれた市川。植物を育てたり、パンを焼いたりと、自宅にいながらも充実した日々を過ごしたというが、中でもハマったのは「ぬか床」だそう。

 「ずっと『ウイルスを…』って消毒ばかりしていたけど、ふとこれは自分にとって良い菌も殺している行為だと思ったんです。それで、仲良くできる菌とは仲良くしようと思って、ぬか床を始めました。そうしたら、本当に楽しくておいしくて、幸せな気持ちになれたんです。ぬか床は今でも続けています」。@@separator◆『アンナチュラル』『コタキ兄弟と四苦八苦』を経て感じた野木亜紀子脚本の魅力

 そんな市川が映画『罪の声』では、主人公・曽根俊也を温かく見守る妻役を熱演する。

 本作は、塩田武士によるベストセラー小説を原作に、日本中を震撼(しんかん)させた未解決事件の謎を描いたヒューマンミステリー。小栗旬と星野が2人の主人公を演じ、『逃げるは恥だが役に立つ』や『MIU404』(共にTBS系)で知られる野木亜紀子が脚本を担当する。

 市川と野木は、ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)、『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)でもタッグを組んだ間柄。市川は野木作品の魅力を「声が出せない、声にもできない人たちを描いている」ことにあると分析する。

 「この作品では、小栗さんが演じた阿久津英士が『とっくに時効になった、犯人グループは1円も手にしていない。まして、誰かが死んだわけでもない。いまさら掘り返す価値あります?』と訴えるシーンがありますが、実際には大変なことが起きていて、トラウマで人生が台無しになった人もいて、そういったさまざまな人たちの人生が描かれていきます。野木さんは、見過ごされている人の声をきちんと拾って膨らませる方だと感じています」。

 食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件、誘拐や身代金要求、毒物混入などの数々の犯罪が行われた凶悪事件を追う物語は、時に胸が痛くなるような辛辣(しんらつ)なシーンも描かれている。その中にあって、俊也と亜美、そしてその娘・詩織の曽根家の家族のシーンはホッとできる癒やしでもある。「曽根家はどんな空気感かなと思いながら、現場で3人で遊んでいました」と市川は振り返る。そして、「詩織ちゃんが男の人に人見知りする子だったんです。私にはニコニコと笑顔で話してくれるんですが、星野さんには人見知りをして、モジモジしていて…。だから、『ほら、お父さんだよ!』って星野さんのところに連れていったら、星野さんも人見知りしてて(笑)。そんな曽根家でした」と撮影時のエピソードも明かしてくれた。

 凛(りん)としたたたずまいの中に優しさや潔さを持ち合わせる市川には、その作品をキュッと引き締め、時に一息つかせる役どころがよく似合う。実力派俳優がずらりと並ぶ本作でも、その存在感はひときわ輝いて見えた。(取材・文:嶋田真己 写真:高野広美 スタイリスト:谷崎彩 ヘアメイク:草場妙子)

 映画『罪の声』は、10月30日公開。

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