オスカー俳優のアンソニー・ホプキンスが認知症の父親役で主演を務める映画『The Father(原題)』が、『ファーザー』の邦題で5月に公開されることが決定した。

【写真】アンソニー・ホプキンスがオスカー受賞『羊たちの沈黙』フォトギャラリー

 原作は、ロンドンのタイムズ紙が「現代において最も心躍る劇作家」と称した、フランス人のフロリアン・ゼレールによる戯曲『Le Pere』。

アルツハイマーの症状が出始め、自分の変化に困惑する父と戸惑う娘の姿を通して、老いることへの不安や、関係性が変わっても逃れることのできない親子の愛情を描く感動作だ。

 フランス演劇界最高位のモリエール賞で脚本賞を受賞し、これまでパリ、ロンドン、ニューヨークなど世界30ヵ国以上で上演。日本では2019年に『Le Pere 父』のタイトルで、橋爪功、若村麻由美出演で上演され大きな話題となった。今回の映画化にあたっては、ゼレール自身が長編初監督作としてメガホンをとり、映画『危険な関係』(1988)でアカデミー賞脚色賞を受賞した脚本家クリストファー・ハンプトンが共同脚本を務めた。

 本作では先日12月31日に83歳を迎えた名優のホプキンスが、監督が当て書きしたという、自身と同名、同年齢、同誕生日の認知症の父親を熱演。ホプキンス本人が「自分の父をそのまま演じた」と語るその演技は、アカデミー賞前哨戦となる賞レースにて、早くもボストン映画批評家協会賞、フロリダ映画批評家協会賞で主演男優賞を受賞したほか、4つの受賞、41のノミネートを果たしている(1月12日時点)。


 多数のメディアがホプキンスをオスカーの本命として太鼓判を推し、これが実現すれば、過去5回のノミネートを誇るアカデミー賞で『羊たちの沈黙』(1991)のレクター博士役以来30年振りの受賞となる。また、本作で父を介護する娘を繊細に演じた、『女王陛下のお気に入り』(2018)でアカデミー賞主演女優賞を受賞した女優オリヴィア・コールマンの演技も高く評価されており、彼女もアカデミー賞助演女優賞が有力視されている。

 年齢と共に誰もが経験する喪失と親子の愛を、記憶や時間が混迷していく父の視点で描く本作は、迷宮に足を踏み入れていくような戸惑いと、愛する家族が自身を忘れてしまう切なさ、人間味からにじみ出るユーモアなど、さまざまな感情を重層的に呼び起こしながら、最後には観客を思わぬ感動の境地へと連れていく。イギリスを代表する名優たちによる演技合戦に期待したい。

 映画『ファーザー』は5月全国公開。