「LINE NEWS」の動画プロジェクト「VISION」にて、板尾創路が約10年ぶりの冠コント番組に挑んでいる。お笑い芸人・俳優たちとコントを繰り広げる史上初の“縦型コント番組”『板尾イズム』だ。

板尾というと、近年は、NHK連続テレビ小説『おちょやん』や、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』をはじめとし、さまざまなドラマ・映画で“俳優”として活躍している印象が強いかもしれない。そんな板尾に、コントや芝居に臨む上で大事にしていることを聞いたところ、うまくなりたくない」「器用にこなしたくない」という独特の答えが返ってきた。その理由とは?

【写真】気さくにインタビューに応じてくれた板尾創路

■ 縦型コント番組という新境地 「コントっぽくない」不思議な感覚

――『板尾イズム』は冠コント番組では10年ぶりだそうですね。

板尾:「コント番組」ではあるんですけど、あんまりコントをやった感覚はないんですよね(笑)。同じ「VISION」で配中の(窪塚洋介が主演し、板尾も出演する)縦型ドラマ『上下関係』も、映画っぽくもあり、連ドラっぽくもある、不思議な感じですしね。

――前後に座るサウナや、鏡越しに見る美容室、スマホでのライブ配信など、縦型の画角を生かした設定なので、違和感なく普通に観られるんですよね。


板尾:そうそう。たぶん若い世代からしたら、新しいものが出てきた感じはしないんじゃないかと思います。コントは普段、設定から作ることもあれば、キャラクターから、あるいは「これだけ言いたい」というフレーズなどから膨らませるなど、いろいろですが、今回は最初に「縦長で見やすいもの」という設定ありきで、そこから中身、キャラクター、お話という順番で決めていきました。

坂井真紀浅利陽介らの対応力に感銘 「さすがだなあと思いました」

――これまでコントのイメージがない役者さんも出演されていますが、どんな演出や演技指導をされましたか。

板尾:そこは演出や指導というより、お互いやりながらですね。役者さんたちも台本を読んだ段階では「これ、どうしたら良いんだろう」という緊張感はあったかと思いますが、みなさん達者な方なので、役に入った上で、僕が投げかけることに対して臨機応変にリアクションや言葉で対応してくれるのは、さすがだなあと思いましたよ。


――特に「この人すごいな」と思ったのは、どなたですか?

板尾:印象的だったのは、坂井真紀さん(第1話「迷っている女」)。コミュニケーションもあまりとっていないし、セリフ合わせもしていないんですが、「こういうお客さん」「こういう感じだろう」と理解した上で、お芝居の中では必要なことを言い、なおかつ僕とのやり取りでリアルに反応していただいて。すごくナチュラルで僕もやりやすかったです。

――サウナのコントで共演された浅利陽介さんなど、もともとお笑い芸人だったのかと思うくらいでした(笑)。

板尾:そうですね。僕は普段の浅利君もよく知っているんですが、器用な子なんです(笑)。
もともと面白い子ですが、お芝居に対してはすごく真摯(しんし)で、コメディにも興味を持っていたので、今回こういう仕事で初めてご一緒しました。自分がどう撮られ、どういう風にできあがるかも分からない中、探り探りでしっかりやってくれたので、助かりました。■ 芸人/役者で“切り替え”は一切なし「“僕のまま”行くようにしています」

――今は板尾さんをはじめ、お笑い芸人さんで役者業をやっている方も多いですが、コントと芝居の違いは何でしょうか。

板尾:何でしょうね…コントはプロの芸人さんがやるべきで、日頃からの鍛錬やチームワークが必要なものだと思います。一方で、ドラマにはいろんなジャンルがあって、役者さんはシリアスな演技だけじゃなく、コメディもできないといけない。どちらも表現できる方は、振れ幅が大きいからすごいと感じます。


――板尾さんはごく自然に役者業でも活躍され始めたイメージがありますが、もともとのきっかけは何だったんですか?

板尾:分岐点みたいなものはたぶんないんですよね(笑)。一個何かをやると、観てくださった方が声をかけていただいて、それでまたちょっとやるというのが今まで続いている感じです。

お芝居とコントの切り替えというのもよく聞かれますが、僕はそういうの全くないんですね。役者業で下積みがあるわけでもないし、どこかで勉強したわけでもないので。バラエティ番組とかの“芸人・板尾創路”として突然呼ばれているだけで、苦労も全然していないので。そのままやるしかなかったみたいな感じでここまでやってきましたから。
今さら朝早よ起きて走ったり声出したり、日々誰かと稽古したりして、それでヘンに役者さんみたいな感じになったとしても、たぶん僕が求められるものとは違うのかな、と。

――お芝居ではどんなことを求められることが多いですか?

板尾:すごい役とかすごい設定を求められたことはあんまりないです(笑)。例えば「ミュージカルに出てください」と言われたら、「それは僕、無理です」と言いますけど、さすがにそんな話は僕に来ないですから(笑)。たぶんみなさんは客観的に僕をどう使えば良いか考えてお仕事をくださっているので、どの作品でも“僕のまま”行くようにしています。

――コントでもお芝居でも、板尾さんが演じる人物は、コメディの中でもおかしさだけじゃなく、ちょっと怖さがあったり、かわいさや哀愁もあったりしますよね。

板尾:意識しているわけではないですが、僕がやることって、結局全てそういうものになってしまうんでしょうね(笑)。
隠そうと思っても隠せないでしょうし。良い人やっていても怖く見えたり、怖い役やっているけどかわいかったり、怖いけど笑ってしまったり。人間のそういうちょっとした揺らぎ、振れ幅みたいなことをずっとやっているんだと思います。

■ コントも芝居も「うまくなりたくない」 あえて自然体で臨むワケ

――板尾さんがコントやお芝居で大事にしていることは何ですか?

板尾:僕は誰になり切るとか、役作りとか、全く考えないんです。もし自分自身がこういう仕事をしていたらとか、こういう立場だったらというのを、自分というフィルターを通してやる方が素直に演じられるというか。それに、うまくお芝居をしようとかも思わないです。あんまりうまくなりたくないというか(笑)。

――うまくなりたくない、というと?

板尾:あまり器用にこなしたくないというか。もちろんコントにもお芝居にも技や理論はあると思うんですが、いざ本番のときには、結局そういうのは全部外したほうがいいと思うんです。約束事や頭で考えた部分を本番では一切忘れ、その時の空気とか感情とかに素直になって自然体で臨んだときの方が良かったことが多いと思います。

――それはいろんな経験を積まれた上でたどり着いた境地ですか?

板尾:そんな大それたことではなくて、僕は昔からそういう感じでしかやれないんです。注意されたこともないですし(笑)。(映画『ジョゼと虎と魚たち』やドラマ『ダークシステム 恋の王座決定戦』でご一緒した)犬童一心監督に「板尾さんの(芝居)は良いのか悪いのか分かんないけど、何か良いような感じがしてしまうから、『OK!』って言っちゃいます」って言われたことがあります。たぶん「こいつは放っておいた方がええんや」「好きにやらせとけ」と思われているんだと思います(笑)。(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)

 『板尾イズム』は、「LINE NEWS」の動画コンテンツ「VISION」にて毎週水曜18時配信(全10話)。