
記事審こと記事審査室とは、経験豊かな記者やデスクOBから構成され、共同が配信した記事や写真を他紙と見比べながら事後審査するセクション。審査の結果は、1週間分まとめて「記事審査」と題した冊子に印刷されるが、この中身がなかなかセンセーショナルなため、部外秘扱いの文書なのだ。
斎藤さんは、当時の編集局長がかかわったある捏造問題をこの「記事審査」に書き、印刷所にまで回されながら、上層部の判断で廃棄された経験を持つ。このときの"幻のボツ原稿"が本書に掲載されているのだ。この事件を、本書を頼りに振り返ってみよう。
05年9月8日号に掲載されるはずだったのは、「捏造」と題する一文。ちょうどこの頃、朝日新聞長野総局の若手記者が取材メモをでっち上げ、新党結成をめぐる田中康夫長野県知事と亀井静香元自民党政調会長の架空の密会報道が同紙の一面に載ってしまい、大騒ぎになった。
斎藤さんはこの一件を引き合いに出し、「しかし、捏造問題は共同通信にとっても、人ごとと片付けられない」「『捏造』には『書く捏造』の他に、『書かない捏造』(ネグる)と『書かせない捏造』があると、私は常々思っている。この『書かせない捏造』こそ曲者だ」と前置きし、政治部時代の忌まわしいエピソードを暴露する。長文だが、引用しよう。