大ヒットを記録している『崖の上のポニョ』。現在、同作の構想を練るために、宮崎駿監督が長期滞在したという広島県福山市・鞆の浦(とものうら)にファンなどの注目が集まっている。
滞在のエピソードや、作品中随所に見られる鞆の浦をモチーフにしたような風景等から、「『ポニョ』の舞台では?」との噂が広まり、訪れる人が増えているのだ。


 そんな鞆の浦で、埋立架橋工事の計画が進行している。万葉集にも詠まれた絶景と、古い町並みが人を惹きつけ、『ポニョ』以前から訪れる観光客は少なくない。このため、現在の狭い道路では交通に支障を来し、住民生活が不便を強いられるとして、湾の一部を埋め立て、橋を架けてバイパスを通そうというのがその計画。自治体の説明によれば、架橋後も観光資源を保全するとしているが、橋は円形の湾を横切るように架けられるため、景観が異なるものになることは否めない。こうした計画に反対する地元住民やNPO、支援団体などが、海とは逆の、山側にトンネルを掘ってバイパスを通す代替案を示した上で、埋立架橋工事を取りやめさせるべく、裁判を起こしている。

 ジブリと環境保護運動といえば、狭山丘陵(東京・埼玉)の「トトロの森プロジェクト」が思い出される。ナショナルトラスト運動(商業的開発などから森を保護するために、財団を設立してその土地を買い取ったり、自治体に土地を買い取るよう働きかける運動のこと)の成功例として有名だが、この運動には、「トトロ」という名称の使用が許可されていたり、宮崎監督自身が財団の理事に就くなど、ジブリの積極的な支援が行われている。一方、鞆の浦に関しては、宮崎監督やジブリが積極的に支援しているような印象はない。この差は何なのか? ジブリに近い関係者は次のように語る。

「基本的に、ジブリが環境保護運動などに公式に協力するということはない。トトロの森も、宮崎監督が個人的に支援しているだけ。

(「トトロ」という名称が許可されていることについては)ジブリは個人事務所的なところがあるので、監督がOKを出してしまえば、会社も同調するしかないでしょう」

 加えていえば、そもそもジブリは鞆の浦を『ポニョ』の舞台とは認めていないのだ。だが、こうした状況に対する地元の対応はさまざまだ。ポニョの舞台として、あるいは、ポニョの生まれた町として、積極的に観光PRに利用する飲食店や宿泊施設がある一方で、公式に認めたわけではないのだからと、利用を控えているところも多い。

 架橋工事反対を訴えているNPO「鞆まちづくり工房」の代表・松居秀子さんは、「監督に面識がない人たちが、いろいろやってるみたいですけど、私たちは滞在中に親しくなった分、(勝手にPRに利用することは)できませんね」と語る。さらに、架橋工事反対運動でのジブリとの連携についても、「トトロの森と鞆の浦の問題は、全く異質のもの」と言う。

「(鞆の浦は)トトロの森のようにトラストできるような土地でもないし、自治体が相手の、政治的にも複雑な問題なので、ジブリがこれにかかわるということはありえないと思います。

監督個人には、鞆の町並み保存を目的とした基金設立の呼びかけをしていただき、お金もいただきましたが、反対の訴訟に巻き込むようなことはしません。ご迷惑がかかりますので。ただ、アニメ監督らしいやり方で、『ポニョ』に(架橋工事反対の)メッセージを込めてくれたのだと、私は思っています」(松居氏)

 表立っては沈黙を貫く、監督自身やジブリは、鞆の浦の景観保護に対して、どのような考えを持っているのか? ジブリに取材を申し込んだが、「本件に関しては、ノーコメントとさせてもらっています」というのみだ。

 『ポニョ』に鞆の浦へのメッセージが込められているのかは定かでないが、観光客が増えたことで、埋立架橋工事に反対する署名の数は増えているという。メディアも関心を示すようになった。"後方支援"としては、十分に意味を持っているようだ。


(逸見信介/「サイゾー」11月号より)



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