【2】はこちらから。

●LSDと熱湯風呂で強制的な洗脳をされた

苫 ところで教団の中にいて、他人が洗脳される現場というのは見たことある?

松 断定はできませんが、そうじゃないかなという場面はあります。

苫 「キリストのイニシエーション」は受けたことあったのかな?

松 それって、LSDを飲まされるものですよね。私自身は、受けていないです。当時5歳とかだったので、薬物で死んじゃうのではないかと思われたんだと思います。ただ、父からもらった何かを信者の人たちが飲んだりしているのを見て、その後、彼らに話しかけても反応がなかったりとか、何があったんだろうと思うことはありました。

苫 当時のオウムは、覚せい剤とかLSDとか、死んじゃうくらいの量を使っていたらしいから。

松 そうした物を飲んでいる状態だと洗脳されやすいんですか?

苫 LSDは依存性もないし、適量なら肉体的にもさほど危なくないんだけど、究極の洗脳薬なんだよね。LSDを飲んで、ドーパミンという快感を生む物質を大量に脳に出して、変性意識を生み出す。いわゆるトランス状態だよね。このときに他人に指示されたことは100パーセント従っちゃう。それで、世界的に禁止されているわけ。逆に言うと、それさえやらなければ究極の極楽薬だね。桁違いのドーパミンが出るんだから。

オウムがやっていたのは、それをイニシエーションと言いながら飲ませる。しかも大量に。でも、量が多すぎると、錯乱も起こすし、死亡にもつながるでしょ。そこで、熱い風呂に入れて、いっぱい汗をかかせたら、すぐにLSDが体から抜けると思ったらしい。そんなことはあるわけないのに。

松 熱いお風呂に入るのは、修行だと思い込まされていました。苦行に耐えることで悪い業(カルマ)が消滅するからと言われましたね。あのせいで死んでしまった信者も多いですけど、そうでなくても多量の薬で死ぬ可能性があったということですよね。

苫 そういうのは見ていたの?

松 死ぬ瞬間は見ていないですけど、昨日まで普通に笑っていた人が、亡くなったっていう話はたくさん聞きました。いちばん熱いので50度ですから。逆にいえば、LSDなどを飲んでいなかったら、耐えられないくらいのお湯だったと思います。私は、LSDは多分飲まされたことはないと思うんですけど、戒めとして全然食べないで寝ないでということをしていたら、感覚が麻痺しちゃったことがあって、そのときに50度のお風呂には入ったことがあるんですけど、本当に感覚が全然ないんで、そのまま寝られるんですよ。

苫 それはそうだよね。LSDなんかやっていると、体が痛みを感じなくなるから。

松 はい。50度のお風呂に首まで浸かって15分ですよ。だから後でお風呂から出て感覚が戻ってきたときに、体中に水疱とかできていて、「あ、やけどしている」みたいな感じでした。

●「あばたもえくぼ」もドーパミンによるもの

苫 そういえば、麻原が最初にLSDを飲んだときに、なんて言ったか知ってる?

松 知りません。

苫 「宇宙の果てまで行って、うんこ洩らしちゃったよ」って言ったらしい。

松 ......(笑)。ところで父は、イニシエーションと称して女性信者と性的な行為をやりたい放題だったんですけど、それは女性を洗脳していたということですか?

苫 簡単にいうと、催眠状態に陥らせていたんだろうね。女性といえば、上祐はずるいよね。平気で女性とラブホテルとか行っていたらしいからね。

松 えっ、そうなんですか。

オウムに入ってから?

苫 もちろん入ってから。牛丼屋とか食いに行ってるし。元信者から聞いたよ。

松 コンビニでソフトクリームを食べていたというのは知っていましたけど。食欲でも性欲でも破戒、つまり教義を破ることになりますけど、食欲の破戒はそこまで厳しくなかったんですよね。性欲の破戒には厳しかったので、ラブホテルは驚きました。

苫 話は戻るけど、つまりね、ドーパミン経路が発達して、常にドーパミンが出やすい状況がつくられると、批判的なことが考えられなくなっちゃうんだよね。恋愛中のあばたもえくぼと同じ。

松 わかりやすい例えですね。

苫 人のアラが見えなくなっちゃうの。ダメな夫から別れられない女とかいっぱいいるじゃない。オウムの修行は、基本的にドーパミン出すためのものだからね。

オウムのピラミッドの中では、それを信者にするのは麻原しか許されないことなんだけど、それを横で見て学んでいて、もしくはそのあたりを利用できる地位、たとえば、正大師くらいであれば、いくらでも自分の彼女にできるでしょ。

松 上祐さんのところって、今でも女性信者が多すぎますよね。

苫 だって上祐、そういうの好きだもの。

松 今日は、実際にこうやってお話できて、苫米地さんの印象が思っていたのと違いました。信者に対する考えだとか、活字だとどうしても率直に書けないところがあると思うんですけど、その部分は本を読ませていただいても違和感があったんです。その違和感がなくなったという感じがします。

苫 教団内では、俺の悪口いっぱい言われているからね。それにしても、オウムから出てきた人に対して、世間の反応というのはまだ冷たいと思うけど、ここまで自分で洗脳を抜けて、一人で生きようとしているのは大したものだよ。

松 ありがとうございます。自分はオウムから"生還"できたのだと、最近になって痛感しています。中にいるときは、洗脳されているとか気づきませんでしたからね。

苫 そうだろうね。

気づいていたら、それは洗脳じゃないからね。
(構成=桜のりか/「サイゾー」4月号より)


●苫米地英人(とまべち・ひでと)
1959年生まれ。脳機能学者・計算言語学者・認知心理学者・分析哲学者・実業家。83年、上智大学英語学科卒業後、三菱地所に入社。85年、イエール大学大学院に留学。同大学人工知能研究所研究員、認知科学研究所研究員を経て、88年、カーネギーメロン大学大学院に編入、計算言語学の博士号を取得。帰国後、徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長などを歴任。95年に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件後、公安の依頼により、同教団信者の脱洗脳を手掛ける。近著に『成功脳の作り方』(日本文芸社)、『営業は「洗脳」』(サイゾー)、『苫米地式コーチング』(インデックス・コミュニケーションズ)など。


●松本聡迦(まつもと・さとか/仮名)
1989年、松本智津夫(麻原彰晃死刑囚)の四女として生まれる。6歳のときに地下鉄サリン事件が起きるも、外部の情報から遮断されていたため、事件のことを知ったのは15歳のとき。その後、教団との関係を保つ家族のあり方に疑問を抱き、16歳のときに家を出て、後見人(後に辞任)となった江川紹子氏の元に身を寄せる。

07年夏、同氏の元から離れて以降、派遣会社で働いたり、ネットカフェ難民やホームレスをしたりしつつ、現在は自立した生活をしている。昨年6月号より、本誌で告白手記を掲載。きょうだいは、姉3人、弟2人。



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